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秋葉原事件・加藤死刑囚、寝屋川事件・山田死刑囚らが死刑囚表現展に出品した作品とは

篠田博之月刊『創』編集長
山田浩二「助けてっ!」死刑廃止のための大道寺・赤堀政夫基金提供

 寝屋川市で男女2人の中学生を殺害したとして死刑判決を受けた山田浩二死刑囚が、2019年5月、看守と口論になって気が動転して控訴を取り下げてしまった騒動については何度か書いた。山田死刑囚はその後、自ら死刑を確定させてしまったことをひどく後悔し、取り下げの全経緯を書いた手記を月刊『創』に掲載した。内容についてはヤフーニュースの下記の記事でも紹介した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190606-00129115/

控訴取り下げ死刑を確定させた寝屋川事件・山田浩二元被告が最後に書いた手記の中身

 その山田死刑囚が先頃、「死刑囚表現展」に応募した。応募作品は自分の描いたイラストで、「どうして死刑確定者になってしまったんだろう」「淋しいよぉ」「悲しいよぉ」「助けて下さい!」などと、先頃の手記と同じく後悔と恐怖の思いを書き込んでいる。

山田浩二死刑囚の作品(死刑廃止のための大道寺・赤堀政夫基金提供)
山田浩二死刑囚の作品(死刑廃止のための大道寺・赤堀政夫基金提供)

 山田死刑囚は控訴取り下げ直後に、それは誤りだったとする無効申し立てを裁判所に提出したのだが、その申し立てはいまだに認められていない。既に確定死刑囚の処遇で接見も禁止されてしまっており、へたをすると死刑執行されかねない。死刑囚とは毎朝、執行の恐怖に直面しながら生きているのだが、山田死刑囚もイラストにこう書いている。

「毎晩寝る前に『明日のこの時間に生きていられるだろうか?』…そんな事ばかり考えてしまって不安や心配、恐怖に胸を潰され掻きむしられてしまって眠れません!」

 

 この「死刑囚表現展」は、2005年、前年に亡くなった大道寺将司元死刑囚の母親が残した資金をもとに発足したものだ。2014年には冤罪が晴れて無実となった赤堀政夫元死刑囚からも拠金があって、主宰は「死刑廃止のための大道寺・赤堀政夫基金」基金という名称になっている。

 今年が第15回となる死刑囚表現展には多くの死刑囚が応募しているのだが、秋葉原事件の加藤智大死刑囚も常連だ。それもほぼ毎年、細かく描き込んだイラストを出品している。表現展の選考委員の一人である評論家の太田昌国さんが第15回の今年出品された作品について、月刊『創』(つくる)12月号に紹介と論評を書いている。加藤死刑囚の作品についての記述はこうだ。

加藤智大「メルシー原正志」(同上)
加藤智大「メルシー原正志」(同上)

 

《加藤智大も常連の応募者だが、選者の従来の評言に批判と不満を持つ加藤の表現はいつも挑戦的だ。今年の複数の作品は、彼の表現に孕(はら)まれている言うに言われぬ「憤怒」の根拠を指し示しているように思える。無題の詩はいう。

「僕の心に親が残した/しつけと称す暴力の傷/それを語れば人のせいにするなと責められ/そこを避ければ己から逃げるなと責められ/どちらにしても責められるとは/生きていることが悪いのか/お望み通り死にますよ/じゃあね」

「ごった煮」と題する千句に及ぶ作品がある。「柿食えば金が無くなり拘留時」などの戯(ざ)れ句も含めてそれこそごった煮の多様な作品が居並ぶ中に、定期的に現われる傾向的な作品群がある。「弟は床の残飯食わされず」「弟は裸足で雪に立たされず」「弟は便器の水を飲まされず」「弟は拾った子だと笑われず」「弟は口にタオル詰められず」……。一定のインターバルをもって現われる、親がなした自分と弟に対する「差別待遇」に触れた句を読んで、この過去の事実に拘らずにはいられない加藤の心情を思い、いたたまれぬ思いがした。

 他方、絵画作品からは、彼の独特の才能が変わることなくうかがわれる。作品の一つは「メルシー原正志」と題されている。いつも、それこそごった煮の政治的・社会的メッセージと裸婦像が混在一体化した作品を応募している原正志への、感謝を込めたエールなのだろう。昨年も作者は、後出する何力へのエールを送っていた。他者の表現にも深い関心を持ち続けている加藤が、今後書く(描く)文章と絵に注目したい。》

(太田昌国「処刑直前に送られてきた応募作品を読む」「創」12月号)

 私は2015年に加藤死刑囚が「死刑囚表現展」に出品した作品についてもヤフーニュースで紹介したことがある。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20151003-00050124/

秋葉原事件・加藤智大死刑囚が「死刑囚表現展」に作品を応募し、受賞した

「死刑囚表現展」は、小説・俳句・イラスト・造形など様々な表現による応募が可能で、2019年8月に執行された庄子幸一元死刑囚も常連の出品者だった。8月2日に処刑された彼の作品は、その約1週間後に選考委員のもとに届けられたという。

 死刑囚の描く作品には、彼らの置かれた状況を背景にした思いや感性が表現されており、独特のものが感じられる。和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚も今年は応募しなかったようだが、以前はよく応募していた。

 応募作品は7人の選考委員によって審査されるのだが、選考委員は太田さんのほかに、加賀乙彦、池田浩士、北川フラム、川村湊、香山リカ、坂上香の各氏だ。今年第15回の受賞者には加藤死刑囚も、そして死刑執行された庄子元死刑囚の作品も含まれていた。

 毎年、10月に行われる「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」の集会で、「死刑囚表現展」の選評と受賞発表が行われるので、今年も楽しみにしていたが、残念なことに台風のため中止になってしまった。

 ただ受賞作品については、12月6~8日に都内の松本治一郎記念会館で展示される(入場無料)。

 詳細は下記のフォーラム90のホームページを見ていただきたい。

http://forum90.net/event/archives/29

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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