秋葉原事件・加藤智大死刑囚が「死刑囚表現展」に作品を応募し、受賞した
2015年2月に死刑判決が確定してから様子をうかがい知るすべもなかった秋葉原事件の加藤智大死刑囚だが「死刑囚表現展」に作品を応募。本日10月3日に開催された集会で、模索賞を受賞し、8人の受賞者の一人となったことが発表された。
本日、渋谷で開催されたのは「死刑廃止国際条約の批准を求めるFORUM90」が主催する「響かせあおう死刑廃止の声2015」。毎年、10月10日の世界死刑廃止デーを記念して都内で開催している集会だ。元法務大臣による講演や、死刑確定者にこの夏実施したアンケートの結果を報告する朗読劇など盛り沢山の内容だが、その第2部で「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金〔死刑囚表現展〕」の応募作品紹介と選考委員による講評が行われ、8人の受賞が発表された。その中で、今年初めて、秋葉原事件の加藤死刑囚が応募、受賞したことが明らかにされた。
応募作品は短歌や絵画などいろいろで、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚もこのところ毎年、絵画で応募している。加藤死刑囚の作品はパズル18点で、ヒントに従って細かい枡目を塗りつぶしていくとイラストが浮かび上がるというものだ。
そして、それを作って応募した事情について、こう説明していた。
《教養はなく言語表現能力も並以下のくせに文字入力しかできないインターネット掲示板で虚実織り混ぜた自虐・他虐ネタを展開して人を面白がらせたり言葉のプロレスをしたりすることで自分の居場所を確保しようとしていたのは、趣旨を理解して言葉遊びに付き合ってくれる数人の仲間を得たものの冗談が通じず悪意を持って攻撃してくる多くの敵によって結局はその交遊関係を破壊される無謀かつ無惨な試みだったのであり、それならなるべく誰も傷つけずに遊びを遊びとしてわかりやすく楽しんでもらうには何ができたのかと自問したところ、理屈で物事を処理する思考やできそうならこだわるが無理そうならすぐ諦める性格などといった自身の特徴に鑑みればこれがひとつの解ではないかと結論したのが数字を手がかりにドット絵を復元する数理パズル「イラストロジック」を製作することだというわけで、早速やってみた。》
選考委員の一人、精神科医の香山リカさんが選評の中で語っていたが、こうやって応募してくることもある種の社会へのメッセージで、事件について自分なりに考えたうえで「誰も傷つけずに遊びを遊びとしてわかりやすく楽しんでもらうには何ができたのかと自問した」結果がパズルだったというのも興味深い。
秋葉原事件は2008年に起きたもので、1審で死刑判決が出た後、2審以降加藤死刑囚は出廷せず、死刑判決を受け止め社会と隔絶したかに思われた。しかし、獄中で彼は『解』(2012年刊)を始め、幾つかの著作を次々と書いて出版した。ただ、取材などについては一切受けつけず、自分の考えを社会がどう受け止めるかについてはあまり関心がないように見えた。
そして昨年夏、突然、このブログで公開した「黒子のバスケ」脅迫犯・渡邊博史元被告の意見陳述についての感想を書き送ってきた。それが大きな反響を呼んだのを知り、たくさんのコメントがついたのを知るや、それらのコメントに対する回答を2回目のメッセージとして送って来た。そもそも自身の書いたものに対する社会の側の反応を気にして、それに応えようとしたこと自体が意外だった(メッセージ全文は下記参照)。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20140814-00038250/
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20141001-00039575/
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20141001-00039577/
その加藤死刑囚の2回目のメッセージを見ると、矢印で自説を説明するなど理屈にこだわる印象を受けたが、その傾向を推し進めて行き着いたのが、もしかするとパズルなのかもしれない。
なお、本日の集会を主催した「フォーラム90」については下記の「死刑廃止チャンネル」を参照のこと。死刑廃止運動を長年推進している団体だ。
また集会で死刑確定者のアンケートを公表したが、そのアンケートのほぼ全貌が本日会場で販売された『死刑囚監房から(年報・死刑廃止2015)』(インパクト出版会)に収録されている(書店発売10月6日)。