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『高嶺の花』は、単なる恋愛ドラマでも職業ドラマでもない「石原ドラマ」!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

先週、綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』(TBS系)が第1章を終了しましたが、今週は石原さとみ主演『高嶺の花』(日本テレビ系)も第1章を終えました。

この『高嶺の花』で、石原さんが演じているのは「華道家元」の長女。兄や弟がいないので、流派にとっては、次の家元になる可能性が高い“重要人物”です。思えば石原さん、これまでも、いろんな女性を演じてきました。

霊能力タレント、就活生、校閲者、法医解剖医・・

2010年秋の『霊能力者 小田霧響子の嘘』(テレビ朝日系)では、本当は霊能力なんて無いのに、「オカルトーク」なる番組まで持つ、人気「霊能力タレント」の役でした。霊能力は嘘だけど、観察力や洞察力は人並み以上で、心霊現象がらみの事件を見事に解決してしまう。物語自体は実にたわいもないものでしたが、その弾け方は半端じゃなく、コメディエンヌとしてのパワーは全開でした。

毎回、「オカルトーク」でのキメの場面があって、「さあ、皆さん。除霊の時間です!」で始まり、「成仏されました!」で締めるのですが、これがもう『水戸黄門』の印籠に匹敵する大見栄。しかもニセ霊能力者だから必ずズッコケる。このシーンだけでも、見る価値は十分にありました。

それから12年の夏は、フジテレビ月9『リッチマン、プアウーマン』です。石原さんは、東大理学部なんだけど内定が出ていない就活生・夏井真琴。IT企業のカリスマ社長(小栗旬)と出会い、運命が変わっていきます。資産250億円の富豪青年と女子学生の恋愛ドラマであり、当時の就職氷河期を生きる学生の就活ドラマです。

石原さんは、『小田霧響子』で見せた“ふっ切れキャラ”に更なる磨きがかかり、特に追いつめられた“未内定”就活生の焦り、不安、憤りを体現したシーンなど絶品でしたね。

近年では、16年秋の『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)が記憶に残っています。本や雑誌の原稿の誤字・脱字、事実誤認などをチェックする、重要ではあるが縁の下の力持ち的役割の“校閲さん”がドラマになるのかと心配でしたが、そこは石原さんのパワフルな演技がすべてを凌駕します。

過剰と純情が共存するヒロイン・悦子のキャラクターを、「これでもか!」と見せつけてくれました。『鏡月』のCMで表現した大人の女性の可愛らしさも、『明治果汁グミ』のCMで披露したコメディエンヌの才能も思う存分解放し、まさに本領発揮だったのです。

次が、今年(18年)1月クールに放送された傑作『アンナチュラル』(TBS系)になります。ヒロインの法医解剖医・三澄ミコトとなった石原さんは、「校閲ガール」とはまた趣きを変え、パワーを自在にコントロールする、抑制された演技で堂々の座長ぶりでした。

そして、「華道家」月島もも

そして、今期の『高嶺の花』です。脚本は、あの野島伸司さん。実は、「また変わったことを始めたなあ」というのが第一印象でした。

前述したように、主人公の月島もも(石原)は、華道家元の長女です。実力と美貌の持ち主ですが、婚約者の二股が判明し、なんと結婚式当日、破談になっちゃいます。

大ショックを受けたももが出会ったのは、いわゆる3高でもイケメンでもない、小さな自転車店の店主・風間直人(峯田和伸)。果たして、高嶺の花は地上の花となるのか、という展開です。

まあ、恋愛ドラマとは言っても、そこは野島ブランドですから、一筋縄ではいきません。父で家元の月島市松(小日向文世、怪演)との確執。しかも、ももが、本当は市松の実子ではないことが、すでに明らかになっています。

また、ももに対抗する形で次期家元を目指すと宣言した妹・なな(芳根京子、好演)。その母親で、娘を家元にすることに執着する、ルリ子(戸田菜穂)。彼女と結託し、ななに近づく新進華道家の宇都宮龍一(千葉雄大)の存在など、見どころは多いのです。

そうそう、途中まで、ももは直人やその仲間たちに、自分はキャバ嬢だと嘘をついていました。石原さんのハイテンションなキャバ嬢ぶりは、凜とした次期家元候補の姿との対比が鮮やかでした。このドラマは、動と静、明と暗など、女優・石原さとみの演技の「振れ幅」を楽しむドラマと言ってもいい。

なにしろ、ももにとって、直人との「恋愛」は、自分が家元にふさわしい能力の華道家であるために必要な「罪悪感」を得るための”手段”だというのですから、穏やかではありません。

そして、ももの今後が気になるのはもちろんなのですが、予想以上に直人という人間が興味深いです。性格は温和で優しい。誰にでも親切。20年も介護してきた母親(十朱幸代)をみとったばかりです。

しかし、直人は単なる「いい人」なのか。ただの「プーさん」なのか。何しろ野島脚本ですからね。直人の「無垢なる魂」をテコにして、人間の本性を暴くような仕掛けが待っているのではないか。

さらに、「家元」という背景の設定にも、何か不穏なものを感じませんか? 世襲を基本とした家元制は、天皇制に通じるからです。

まさに、やんごとなき高嶺の花の方々の結婚問題が、ワイドショーを日常的ににぎわせる昨今。映画『卒業』さながらの“花嫁略奪”で第1章の幕を閉じた野島脚本は、何をどこまで描こうとしているのか。来週からの第2章に期待してしまうのです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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