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新型コロナウイルスの感染拡大防止、注目される台湾の取り組みとは

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
新型コロナウイルスの台湾での感染状況を説明する蔡英文総統=2月7日、ロイター(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大防止策をめぐり、台湾の取り組みが注目されている。発生地の中国本土とは百数十キロしか離れていないのに、11日現在、感染確認48人、死者1人。中国近隣の韓国(約7700人)、日本(約600人)に比べ、人口規模が異なるとはいえ、その人数ははるかに少ない。本土との往来が非常に多い台湾はいかにして感染拡大を食い止めているのか。そして日本が学ぶべきものは――。

 台湾での感染拡大の危険性は高かった。中国本土で流行したのが今年1月。本土に住む台湾人85万人の多くが春節(旧正月)を祝うため帰省を予定し、本土からの中国人観光客も1日2000人程度が見込まれていたためだ。台湾の対応策に関連して、米NBCテレビ(電子版)は10日、「台湾がコロナウイルスとの戦いで世界に伝えることができること」というタイトルの記事を掲載した。この記事をもとに、主な対策を整理してみた。

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▽迅速さ

 中国が昨年12月31日、世界保健機関(WHO)に原因不明のウイルス性肺炎が発症したと通知したのを受け、台湾当局は直ちに、武漢からのすべてのフライトで到着した乗客乗員全員に対する検査を命じた。

 蔡英文政権下で中台関係がこう着するなかでも、台湾当局は1月12日、中国当局に、本土に向かう専門家チームの派遣を求め、それが実現した。現地で中国当局は協力的ではなかったが、チームは“楽観できる事態ではない”と感じ取った。

 チームが戻った直後、台湾当局は各病院に症例の確認と報告を求めた。1月20日には、陳時中衛生福利部長(衛生相)が率いる中央感染症指揮センターが立ち上げられた。

 センターの動きは素早かった。国民健康保険証に登録されたデータと、内政部(内務省)移民署(日本の入国管理局に相当)、税関などのビッグデータを結びつけて分析し、個々の警戒レベルを判断して、感染者を探し出す仕組みを作った。

 さらに、省庁や地方政府と協力して、予算の割り当てから人員の動員、学校の消毒に関するアドバイスに至るまで、台湾全体の対応を調整した。

▽厳格さ

 同26日には中国人観光客の入境手続きを原則停止。2月6日には中国人の訪台を全面禁止にし、フライトには台湾人だけが搭乗できるよう制限した。

 旅客が台湾に戻る際、航空会社のチェックインカウンターで、自身のスマホを使って指定のQRコードをスキャンし、検疫システムのサイトにアクセスして健康状態を報告するよう求めた。そのデータは衛生福利部疾病管制署に直接提供されるため、乗客は台湾到着後、検疫を待つ時間を節約できる。

 また、重度の感染地域から戻った場合、たとえ症状がなくても14日間、強制的な自宅検疫下に置かれる。当局はスマートフォンを配布し、位置情報を共有して行動を監視する。従わない場合には罰金が科せられる。

▽最適化

 台湾での初感染は1月21日に確認された。それから間もなく、当局は社会の混乱を防ぐため、製造業者によるマスク輸出を1カ月間禁止▽マスク工場の買収▽配給制の導入▽一定価格に管理▽実名によるマスク購入――などを求め、マスクの安定供給を確保した。

 また、生産ライン拡大のため数億ドルを投資し、国防省は民間マスク工場を支援するために軍隊を派遣するという徹底ぶりだった。

 各国でマスクの買い占め・高値転売が続く中、台湾の取り組みは注目に値する。特に台湾の各都市は人口密度が高く、マスクは都市の住民が身を守るためには必要で、この措置によって住民は安心し、パニックになる事態は避けられたようだ。

◇周知

 当局はテレビ・ラジオ局に対し、ウイルスの感染状況や正しい手洗いの重要性、マスク着用のタイミングなどを一定時間ごとに放送するよう求めた。当局者は「情報に透明性があり、住民に十分な医学的知識がある場合にのみ、彼らが抱く恐怖心を減じることができる」と話した。住民は、患者の多くが軽症あるいは無症状であり、死亡率もそれまでに報じられてきた以上には高くないと学んだ。また個人の渡航履歴や、感染した人との接触によってリスクの水準が決まることも理解し、国籍や人種による偏見を減らすこととなった。

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 台湾は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)感染拡大の際、多くの犠牲者を出した。その教訓により、2004年に米疾病対策センター(CDC)を参考にした防疫の司令塔機関「国家衛生センター」(NHCC)が設置されるなど、緊急事態に即応できる体制が整えられた。今回も初動対応をこのNHCCが担った。

 日本政府は感染拡大に際して、その対応が後手に回っていると国民から批判されている。一方、台湾では当局の取り組みが評価され、蔡総統の支持率が急上昇している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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