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第二次百貨店撤退ブーム ~ 地方都市の中心が空洞化する

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
姫路駅前からはヤマトヤシキのネオンが見えていた(画像・著者撮影)

・減少が止まらない百貨店

 2016年からの二年間で、全国の百貨店10店以上が閉店した。2018年度もすでに名古屋市の丸栄など6店の閉店が発表されている。百貨店は、店舗数では1999年に311店舗、売り場面積では2000年の711万平米あったのがピークでその後、減少し、今年2018年度中には店舗数では200店舗、売り場面積も560万平米程度になると見込まれている。10年ほど前に相次いで百貨店が閉店し、百貨店の撤退ブームと言われたが、今回はより深刻な第二次ブームと呼ぶべき状況だ。

・耐震診断が止めを

 百貨店の閉店が続く理由としては、人口減少に加え、大型ショッピングモールやネット通販などとの競合、さらには主要な顧客であった団塊の世代の高齢化がある。そして、もう一つ、大きな影響を与えているのが、耐震対策だ。2013年に施行された「改正耐震改修促進法」では、1981年以前の旧耐震基準で建てられている大規模建築物の耐震診断結果と耐震化計画を地方自治体が公表することを義務付けている。2016年からは、その診断結果が公表されている。耐震対策の早期実施を促すためであり、持ち主が耐震改修工事を行う義務はないが、耐震対応ができていないと発表されれば、安全性の面で顧客が不安を持ち、客足に影響するだけではなく、経営陣が批判に晒される可能性が高い。特に地方の百貨店の多くは、高度経済成長期もしくはそれ以前の建築物が多く、改修工事には多額の費用を要することから、経営継続を諦めて閉店を選択するケースが多いのだ。

・商業集積地が鉄道の駅から離れている日本の地方都市

 ところで日本の地方都市の繁華街は、JR駅から離れたところである場合が多い。これは明治以降に鉄道が敷設される段階で、すでに都市中心部は住居や商店が密集していたことが大きな理由である。全国の鉄道網整備を急いだ当時の政府は、都市中心部への敷設を行わず、外周部に鉄道を敷設し、駅を設置していった。そのため、都市の中心部に向かった方を「駅前」、それとは反対の外側に向かった方を「駅裏」と呼びならわすようになったのである。

 そのため、地方都市では基幹路線の駅からは、地下鉄、路面電車、バスなどで中心部の繁華街に移動する必要がある。駅前には、目立った商業施設はなく、中心部に商店が軒を連ねる商店街や飲食店街が形成されており、その中に地場資本の百貨店が立地しているというのが、日本の地方都市の構造になってきた。百貨店は、都市中心部への誘客装置として機能してきたのである。

・百貨店撤退が商業集積地の機能を終わらせる

 その百貨店が次々と閉店や撤退を行っている。「鶏が先か、卵が先か」的な問題であるが、都市中心部の求心力が低下し、集客が困難になっている中で、その核店舗が撤退、閉店することは、商業集積地としての機能が事実上、終焉を迎えることを告げる。

 地方都市の中心市街地活性化の議論を聞いてみると、意外と多いのは、中心市街地の活性化をする理由が「今までの商業集積地だから」でしかないことだ。しかし、商業集積地というのは歴史の中で変遷してきたことも、また、事実だ。そこが今まで商業集積地だからといって、今後もそうであり続けるかどうかは確かなものではない。

・名古屋クラスの大都市でも

 人は思いの外、めんどくさいことは嫌いなのだ。一度、便利を知ってしまうと手放さなくなる。今まで駅裏だと馬鹿にしていたところに大型ショッピングセンターが建設され、駅から連絡通路で結ばれれば、そこから外へ出ようとはしない。名古屋のような大都市でも、「昔は名古屋駅で、何か食べようといっても少し離れたレジャックしかなくて、そこまで歩いていくか、いっそ地下鉄で栄に行こうかとなったけど、今は名駅周辺に飲食店も増えたからねえ」という話をよく聞く。

6月で閉店になる丸栄(画像・著者撮影)
6月で閉店になる丸栄(画像・著者撮影)

 名古屋市の中心部、商業集積地に立地する老舗百貨店丸栄は、今年6月に閉店の予定だ。まだ4か月もあるというのに、すでに店内は閉店直前のような雰囲気だ。広小路通という大きな通りを挟んで立地する名古屋国際ホテル(栄町ビル)やニューサカエビルも同時に再開発が計画されているが、2020年頃までに取り壊し工事が行われる予定だが、その後の具体的計画は発表されておらず、再開発は2027年頃までかかると所有者の興和株式会社は発表している。

 丸栄に隣接する地区では、2005年にダイエー栄店が閉店。さらに、丸善名古屋栄店は2012年に旧ビル取り壊しで、丸栄内に店舗を設けるも、これも2015年に閉店するなど、この10年あまりで集客力の低下が指摘されてきた。そして、丸栄が6月に閉店することで、サカエチカ(栄地下街)の西半分の通行客が大幅に減少する可能性が出てきている。栄地区では、中日劇場を擁しシンボル的存在であった中日ビルも、2019年3月末に閉館し取り壊しが計画されており、一足早く今月末には中日劇場が閉場されることになっている。所有者の中日新聞社などは、建て替え計画の詳細は発表していないものの劇場施設は設置しないことを発表している。

 名古屋駅の再開発によって、商業施設の一極集中が今後も進展すると見られており、栄地区の衰退が懸念される中で、その対応の一つとして名古屋市は久屋大通公園北部の再整備と商業施設の運営主体に三井不動産グループを選定し、2020年には開業させると発表している。

・いわんや地方都市では

 大都市名古屋でも、郊外型大型商業施設の開業や名古屋駅の再開発によって、従来は商業集積地であった栄の地位が揺らぐ事態が発生している。丸栄が抜けても、まだ三越、松坂屋と百貨店が二店舗あるが、その危機感は強いと言える。久屋大通公園北部の再整備も、地元商業界からの強い要望もあった。

 いわんや地方都市において、中心商業地の百貨店が閉店、撤退することは、その地区の都市内部での役割を大きく転換せざるを得ない状況を引き起こすだろう。いたずらに商業集積地だった頃の過去をひきずり、シャッター通りにも関わらず家賃を高止まりさせ、維持管理に高額の費用がかかる老朽化したアーケードなどをそのままにしていると、新規の開業者、起業者を呼び込むことができず、一層衰退を招くことになる。地域によっては商業地区としての再活性化を志向するよりも、良好な居住地区への転換を進展させることも考えるべきだろう。

・ヤマトヤシキ姫路店閉店の衝撃

 地方の百貨店がかつての集客力を取り戻すことは、非常に難しい。2015年に金融機関が債権放棄に同意し、投資ファンド会社が立て直しを行っていた姫路市のヤマトヤシキがこの2月末で姫路店を閉店した。このことは姫路市クラスの都市においても、百貨店立て直しが困難であると言うことを示し、関係者には衝撃を与えた。JR姫路駅から姫路城に向かって商店街が伸びている。その商店街の北寄りにヤマトヤシキは立地しており、「商店街の人の流れに大きく影響するだろう」(姫路市の商業団体関係者)。JR姫路駅前は、再開発が進み、2013年には約200店舗が入る駅ビル「ピオレ姫路」が開業し、駅ナカの集客力が高まった。この影響もあり、2016年になって商店街中心部にあったイオン系のファッションビル・姫路フォーラスが閉店しており、今回のヤマトヤシキの閉店で商店街の集客力低下と駅前一極集中が懸念されている。

・百貨店撤退をプラスにする「引き算のまちづくり」への発想転換を

 撤退、閉店となれば、その地区の集客力は大幅に低下する。姫路市と同様の問題を抱えている地方都市の商業者や自治体関係者は、もうその次を見越して、手を打たねばならない。現段階でも手遅れか、それに近い状況だ。

 しかし、筆者はそう悲観していない。ここ数年、いったんどうにもならないくらい衰退した都市中心部の商業集積地に、若い世代が新たな店を開業し始めているのを見かけるようになってきた。頑なに過去の栄光にしがみつき、家賃を高止まりさせてきた高齢世代が、いよいよ第一線を退き始めたことが、良い方向に向かっているのではないかと思っている。

 全国の百貨店数は、あと数年で200店を切るのではないかという見方も出てきている。地方都市の中心部のいわば柱だった百貨店が抜けた後、どういったまちづくりを行っていくのか。まさに「足し算のまちづくり」から「引き算のまちづくり」と発想の転換ができるかどうかだ。引き算をしたからと言って、必ずしもマイナスになるわけではない。

 若い起業志望者、開業志望者をいかに呼び込むのか、いかに受容性を高めるのか。百貨店の撤退が、街の将来の分岐点になるのではないだろうか。

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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