もはや大エースだけでの甲子園優勝は不可能! 1人の投手の限界は何回まで? 複数投手は不可欠に
仙台育英(宮城)が、下関国際(山口)に快勝して、東北勢として初優勝を果たした。東北勢の優勝は春夏通じて初めての快挙で、これまで延べ12校が挑んで敗れ去った暗黒の歴史に、ようやくピリオドが打たれた。
5投手を巧みに使い回した仙台育英
仙台育英の勝因は、投手陣の充実に尽きる。全員が最速140キロ超という力のある左右5投手を巧みに使い分けた。プロ顔負けのローテーションで、2回戦からの登場という日程運にも恵まれ、余力を残していたようにも見える。5人の中で最も多くのイニングを投げたのが、決勝で先発した左腕・斎藤蓉(3年)の14回2/3。球数の213は、近江(滋賀)の山田陽翔(3年=主将)が投げた644球の3分の1以下だった。ちなみに山田は5試合で38回を投げている。
センバツ2強撃破で優勝に匹敵する下関国際
準優勝の下関国際は、左腕・古賀康誠(3年)から、速球派右腕の仲井慎(3年)へつなぐ必勝リレーが確立され、大阪桐蔭、近江を連破する原動力になった。近江戦で2回から救援して130球を投げた仲井に疲れが見え、決勝では崩れたが、継投策は鮮やかだった。センバツのワンツーを倒したことは、優勝にも匹敵する。両校とも、強力打線という印象はないが、次打者へつなぐ意識や見極めの徹底が明確で、相手投手を追い詰めていった。投手力との連動という見方もできるが、要所での堅守が安定した試合運びにつながった。
エース頼みの近江と聖光学院は準決勝で敗れる
この両校と対照的だったのが、準決勝で敗れた近江と聖光学院(福島)。近江が山田、聖光は佐山未来(3年)という本格派右腕を軸に勝ち進んだが、両投手とも対戦校より1試合多く、チーム力で劣ったと言うよりも、消耗度の差で負けたという印象だ。投手の消耗度は、四球の数に比例する。3回戦までの3試合でわずか3つしか四球を与えていなかった山田が、準々決勝・高松商(香川)戦の中盤以降、一気に四球が増えた。続く準決勝と合わせ、2試合で13個(申告敬遠含む)と激増している。佐山は4試合でわずか3個だったのが、仙台育英との準決勝では5回で5個も与えた。両投手とも四球を出さない卓越した技術があり、疲れで下半身のバランスが崩れて、球が高低にブレたとしか言いようがない。
1人の投手は30イニングが限界か?
もう少し踏み込んで分析すると、両者ともイニングにして30回を過ぎたあたりから急激な落ちこみが見られる。完投を基準にすれば4試合目に相当するので、5試合目で崩れたのはある程度、必然だったかもしれない。つまり、いくら優秀な、山田や佐山という今大会を代表するような投手でも、30回が限界だったということだ。この数字から見れば、いかに仙台育英の投手力が傑出していたかがわかる。その意味では、仙台育英の多くの投手を使い回す策や、下関国際のような毎試合の継投策が甲子園戦法の主流になり、複数投手制の定着が一層、鮮明になったと言える。同時に、複数の有力投手を揃えられる強豪私学しか、甲子園では勝ち進めないこともはっきりした。
柔軟なコロナ対応は継続を
大会前には、コロナ対策で主催者が右往左往したが、柔軟な対応で、49校すべてが試合を行い、完走できたことは称賛に値する。体調不良の選手を変更したり、回復すれば戻したりできる特別ルールは今回限りとせず、来春以降も継続してもらいたい。補欠校が存在するセンバツにはそぐわない可能性もあるが、甲子園は高校生たちの最高目標。クラスターと個人の感染を分けて考えるのであれば、大会中のコロナ対応は今回がベストだった。
歴史が変わった節目の大会
仙台育英は5投手中、右の高橋煌稀、湯田統真、左腕・仁田陽翔の3人が2年生で、捕手の尾形樹人も2年生。主力野手では1、2番コンビの橋本航河、山田修也に、4番を打った斎藤陽(ひなた)らが残り、新チームも強そうだ。センバツ出場がかなえば、最注目の存在となるだろう。これからの甲子園は、しばらく続いた近畿勢による上位争いから、大きく勢力図が変わる可能性もある。歴史が変わると同時に、複数投手制定着という節目の大会として、長く語り継がれることになりそうだ。