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「バカボンのパパよりバカなパパ」は、漫画家・赤塚不二夫の「評伝ドラマ」であり、異色の「ホームドラマ」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

大ヒット漫画「おそ松くん」「モーレツア太郎」「天才バカボン」などで知られる赤塚不二夫。この“ギャグ漫画の王様”が72歳で亡くなったのは2008年8月のことでした。

昨年も、「おそ松くん」を原作にしたアニメ「おそ松さん」(テレビ東京系)が人気を博したように、赤塚が生みだしたキャラクターは時代を超えて愛され続けています。

没後10年というタイミングで登場したのが、NHK土曜ドラマ「バカボンのパパよりバカなパパ」。原作は赤塚の一人娘、赤塚えり子さんが8年前に出版した同名エッセイです。

快調な発進だった第1回

6月30日に放送された第1話では、売れっ子となっていた赤塚不二夫(玉山鉄二)のモーレツな仕事ぶりと遊びっぷり。最初の妻・登茂子(長谷川京子)との結婚と離婚。そして二番目の妻・眞知子(比嘉愛未)との出会いと再婚などが描かれていました。

「マッサン」の玉山鉄二さんと、「どんど晴れ」の比嘉愛未さんという、“朝ドラ感”いっぱいのキャスティングですが、2人ともNHKの水が合うのか(笑)、他で見るよりも生き生きとしているのがわかります。そして登茂子役の長谷川さんも、自由奔放にして超おおらかな天然系妻を怪演、いえ快演しています。

赤塚は離婚した後も先妻とは友だちのような関係で、なんと再婚の記者会見には新妻だけでなく、登茂子と娘・りえ子(森川葵)も同席します。その後も登茂子やその再婚相手と家族ぐるみのつき合いが続くのでした。

とはいえ、いかなる「天才」も、娘にとっては「父親」です。大好きなパパである同時に、家庭という枠におさまり切れない特殊なパパ。娘・りえ子の心境は複雑です。そのあたりを、若手実力派の森川さんは繊細な演技できっちりと表現しています。

地震で中断された第2回の復活

そして第2回の放送は7月7日でした。赤塚不二夫をめぐる伝説の一つである、「タモリの発見と支援」のエピソードが登場。赤塚自身も漫画を描くより、コントやテレビ出演に夢中になったりします。

やがて、ある事件が起きて・・・というところまで見ていたら、突然画面が切り替わり、スタジオの男性アナウンサーが現れたのです。地震情報でした。一瞬、ドラマ上の演出かと思いましたが、もちろんそんなことはありません。千葉県東方沖で発生した、震度5弱のリアルな地震でした。ドラマの途中、8時23分頃のことです。

というわけで今夜、14日(土)夜8時15分から、中断されたこの第2回を、あらためて頭から放送し直すことになりました。

脚本は大河ドラマ「花燃ゆ」などの小松江里子さん。希代のギャグ漫画家の「評伝ドラマ」として、また家族の既成概念を超えた家族の姿を描く「ホームドラマ」として、大人が楽しめる1本になっています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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