ワタミは「ホワイト企業」になったのか? ホワイト認定と「無反省」の実際を探る
1月19日、ワタミグループが「ホワイト企業大賞」の特別賞を受賞したという報道がされた。これまで「ブラック企業」の象徴的な存在として批判されてきたワタミだが、この受賞で労働条件が改善したと言えるのだろうか。
本記事では、今回の「ホワイト企業大賞」の性質と、今回を受賞に対する創業者である渡邉美樹氏の考えについて紹介しつつ、そもそもワタミがなぜ「ブラック」と呼ばれてしまったのかについて振り返っていきたい。
「ホワイト企業認定」は本当か?
まず簡単に、「ホワイト企業大賞」について説明しておこう。この賞は、ホワイト企業を「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」と定義し、7つの項目(「個人」「職場の関係性」「社会貢献」「人間的成長」「自律」「信頼」「誇り」)を選出基準としている。
この「ホワイト企業大賞」という企画では、そもそも「労働問題」に対する項目がないことがわかる。
また、企業が10万円を払って応募することや、今回応募した30数団体中31もの企業が賞を受賞しているなど、受賞のハードルは非常に低いことがうかがえる。
このような数値からみても、受賞によってワタミの労働条件が改善されたものと確実に評価できるのか、疑問を呈さざるを得ない。
「反省しない」創業者
しかも、ワタミは、過去のブラック企業批判についても「反省」はしていないようなのだ。
今回の受賞をホームページで取り上げることで「現在は改善している」ということをアピールしているだけではなく、「過去」のブラック企業批判まで改めて否定しているからだ。
ワタミの代表取締役会長の渡邉美樹氏が、「ホワイト企業大賞 特別賞受賞のご報告」という記事で、次の文章を投稿していた。
数年前、ブラック企業批判を受けた時
「本当のブラック企業なら、全社員がやめ、会社は潰れている。」
そう、繰り返しました。
渡邉氏は、ワタミがブラック企業であったという過去の批判に対して、現在においてもなお、全社員が辞めていないから自分たちはブラック企業ではないという「反論」を蒸し返して、認めようとしていないのである。
その一方で、渡辺氏は上記の文章中で、自身がワタミに復帰した際に述べた「過去のご批判はすべて受け入れます。その上で、これからの私とワタミを見てください」という発言も引用している。
この二つの発言の間には矛盾があるように思われるが、「ブラック企業問題」を研究してきた筆者としては、渡邉氏の経営者としての「過去の姿」には、反省すべき点は数多いように思われる。
そこで次に、渡辺美樹氏が反省すべき発言や言動を改めて振り返り、彼が受け入れるべき批判について改めて考えてみたい。
武勇伝のように語られたパワハラ
そもそもワタミでは、創業者である渡辺氏が、労働者に対して非常に厳しく接していたことを、著書や映像、インタビューなどで、隠すわけでもなく積極的に公開していた。
社訓に示された「24時間365日死ぬまで働け」という言葉ばかりが有名だが、それだけではない。本人が語り、活字になっているものだけでも次のようなものがある。
「ビルの8階とか9階で会議をしているとき、「いますぐ、ここから飛び降りろ!」と平気で言います。」
(『プレジデント』2010年9月13日号)
「アルバイトとして雇った部下がいましてね。あのころは僕、そいつの頭を何度もスリッパでひっぱたいていました。それでも十数年はついてきてくれましたが、8年ほど前に辞表を出したんです。追い込まれて、潰れたわけです。」
(『プレジデント』2010年9月13日号)
「別に強制している訳じゃない。営業12時間の内メシを食える店長は二流」「命がけで全部のお客様をみていたら、命がけで全部のお客様を気にしてたら、ものなんか口に入るわけない、水くらいですよ。」
(ワタミのYouTube(現在は削除) ワタミグループの理念研修会にて発言)
このような発言内容が事実であるならば、厚生労働省が定める「パワーハラスメント」に該当することは明らかであり、民事上の損害賠償責任を負うと考えられる。
つまり、渡邉氏は自らが加害者となって、労働者を精神的に追い込んできたことを、赤裸々に「証言」してきたのである。
さらに、渡邉氏は自ら次のようにも述べている。
「困難がない事業なんてありません…社員には頭を下げて、「ごめん。今月、給料はゼロです」と言ったことが何度もあります。それはほんのちょっとの違いなんです。心が負けているか、負けていないか」
(『日経ビジネス』2011年11月29日掲載、現在はリンク切れ)
「「利益も売上げもどうでもいい」と毎月ビデオを通してメッセージしているんです。アルバイトはそのビデオを見て感想を書かないと給料がもらえない仕組みになってます」
(『プレジテント』2006年1月30日号)
1時間の休憩を取らせないことや、給料未払いは労働基準法違反である。それを平然と公の場で宣言しているのは、改めて驚くべきことだ。
これらの事実は十分に「反省」すべきないようであるし、それをあたかも「武勇伝」のように公言する経営姿勢は、労働者から見て「ブラック」と批判されても当然だと言えよう。
過労自死事件の批判に対して、「ブラックって言われたら一人前」
渡邉氏は、自社で過労自殺事件を引き起こしたことをきっかけに、「ブラック企業」と世間から呼ばれるようになって以後も、「開き直り」ともとれる発言を繰り返してきた。
2008年、ワタミフードサービスに入社2ヶ月の新入社員が140時間の残業の末に、「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます」「誰か助けてください」と手帳に走り書きして、精神疾患で過労自死し、労災認定されている(労災認定後も法的責任を認めようとしない会社に対して、遺族が2013年に提訴をしたが、2015年に和解になっている)。
このことに対する批判が相次ぐ中で、渡辺氏は自身のツイッター上などで、自社には責任がなく、亡くなった労働者の方に問題があったかのような発言を繰り返したのである。
「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」
(渡邉美樹氏のツイート 2012年2月21日)
「(過労自死した社員を)なぜ採用したのか。なぜ入社1カ月の研修中に適性、不適性を見極められなかったのか」
(『朝日新聞』2013年8月2日)
「「ワタミは僕が今まで29年間つくってきた会社、もう爪の先まで自分のものです。巷では『ブラック企業』と言われているが、本当にふざけやがってと思っている」
(『週刊文春』2013年6月6日号)
これらは過労自殺事件を引き起こした加害企業の代表が発言した内容としては、非常に不適切なもので、社会から「ブラック」と評されるのも当然だ。
また、次のような発言からは、労働者の「一人」の人権や命に対し、あまりにも軽んじていると評価せざるを得ないように思われる。
「たまたま一つの事故を取り上げて「ブラック」だと責めるならば、日本には千・万の「ブラック企業」があるわけですよ」
(『池上彰の参院選ライブ』2013年7月21日放送)
「ブラックって言われたら一人前」
(神谷宗幣氏のYouTube 2013年7月13日配信)
ワタミという会社にとっては、「たまたま一つの事故」に過ぎないといいたいのだろうが、亡くなった当人や家族からすれば「たまたま一つの事故」ではない。一人の人間が自社でなくなり、労働災害が認定されたことの「重み」を渡邉氏は理解するべきだろう。
このように、渡邉氏は過労自死事件や様々な発言に基づくブラック企業批判を受けておきながら、そのことに対しては、冒頭で述べたように、今回も反省していないようなのである。
賃金未払いを正当化する思想の数々
さらに、ワタミが過労死を引き起こしたり、「ブラック企業」だと呼ばれる原因となったと考えられる渡邉氏の「経営理念」についても振り返っていこう。
渡邉氏は労働者が給与のために働いたり、労働時間を守って働いたり、休んだリすることを普段から否定していた。
「お金を自分で払っても、給料ゼロでもワタミで働きたい。みんながそう思ってくれるような…組織にして行きたいのです」
(「理念集」)
「「仕事は、成し遂げるもの」と思うならば、「勤務時間そのもの」に捉われることなく仕事をします。なぜなら、「成し遂げる」ことが「仕事の終わり」であり「所定時間働く」ことが「仕事の終わり」ではないから」
(入社内定者に配布される人材開発部作成の「質疑応答」)
(過労死遺族の被害の話を聞いて)「お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」(2018年3月13日の参議院予算委員会の中央公聴会)
「とにかく残業を減らせというのは何か違うと思いますね。」
(「プレジデント」2013年12月30日号)
過労自死事件も、このように労働者の権利を不当に貶めるような思想の社内風土のもとに起きたものであると考えられる。こうした思想を徹底的に改めなければ、ブラック企業から立ち直ったとは言えないのではないだろうか。
筆者の批判に対して法的措置をとるという脅迫状を送ってきたワタミ
最後に、もう一つエピソードを付け加えておこう。筆者はベストセラーとなった著書『ブラック企業』をはじめとする執筆活動で、ワタミの問題点を指摘してきたが、これについてワタミから「脅し」を受けたことがある。
2013年5月に、ワタミ株式会社は、筆者に「通告書」と題した内容証明郵便を送りつけ、「5日以内に…謝罪文を提出され度く通告します。万一不履行の場合は法的措置に及ぶ所存につき申し添えます」と脅してきたのである。
上に見る渡邉氏自身の発言や過労死事件の事実に基づく言論活動に対して、5日以内の謝罪文を出さなければ法的措置に及ぶというのである。
このように、ワタミは自社の労働者の権利を侵害する思想を発信するだけだけでなく、自分たちの労働条件を批判する者に対してまで、強硬な対応をしてきた(実際には筆者は謝罪文など出さなかったが、法的措置は何ら取られなかった)。
このことに対してむしろ筆者が謝罪をほしいところだが、いまだに謝罪や撤回の意思表示はない。つまり、本稿で指摘してきたような「事実」に対しては、渡邉氏は反省していないということのようなのだ。
ワタミがブラック企業からホワイト企業に変わったと社会的に認識されるには、形式だけの「ホワイト企業」を誇示するのではなく、きちんと過去のブラック企業批判や過労死事件に向き合い、それらを根本的に否定することが不可欠だろう。