なぜレッドオーシャンを目指すのか ~ コンサルタント起業志望者が、なぜ多い?
・インキュベーション施設にはコンサルタントがいっぱい
西日本のあるインキュベーション施設の案内が届いた。「イノベーション」、「新規事業」、「起業家の時代」などといった華やかな言葉が並ぶ。
その施設の入居者一覧を見て、驚いた。ほとんどが「コンサルタント」なのだ。「あなたのアイデアを実現します」だとか、「事業の拡大のお手伝いをします」というキャッチコピーが書かれている。
起業家を支援するための施設に入居しているのが、起業家を支援することを仕事にしようとする人たちという状況なのだ。
・早く辞めたいが、何をして良いか判らないからコンサルタント?
「ここ数年、起業セミナーを開催すると、とにかく今の仕事には将来が無い、早く独立したい、すぐにでも辞めたいが、何をして良いのか判らないという人が増えている。そして、その多くが、これまでの経験と知識だけで、人の役に立つコンサルタント業ができるはずと言う。どこから、そういう自信が出てくるのか、私には理解しがたい。」
首都圏で起業家支援に携わってきた公的機関の職員は、そう嘆く。
・レッドオーシャンを目指す謎
やはり首都圏で起業家支援を行う別の機関の職員も、「コンサルタント業の世界は、過当競争のレッドオーシャン。ところが、簡単に始められて、華やかなイメージがあるのか、起業相談会などの参加者には安易なコンサルタント起業志望者が多くて困っている」と言う。
関西地方で実際に経営コンサルタントとして活躍する男性は、「確かに最近よく相談を受ける。突然、クライアントを紹介してくれと言ってくる人もいる。しかし、会社員としての数年ほどの実務経験しかないとか、ビジネス系の大学院にも行きましたと言う程度では、なにもあなたを雇わなくても、社内に同じような経歴の人がいるでしょう、と言うと、黙ってしまう」と言う。
・過度のポジティブシンキング?
関西地方で起業支援機関の職員は、「より高い知識や資格なども必要だとアドバイスするのですが、やりたいことだけしていれば成功するはずだとか、自分にはすでに充分な力があるという返答が返ってくる人が多くなっている。少し否定的な意見をすると、切れて来なくなる。私は、過度なポジティブシンキングと呼んでいます」と笑う。
こうした傾向について、起業相談を担当するある金融機関の職員は、「自己啓発セミナーやサロンといったものの影響が大きいのではないか」と指摘する。「教祖的な立場にある主催者が、参加者に自信を持て、今のままで充分に活躍できる、否定的な意見には耳を傾けるな、好きなことだけを追求して行動すべきだなどとアドバイスします。そこで自信を持って、他人に何かを教えることができると思い込むのでしょう。」さらに、「セミナーなどを開催すれば、自分が参加しているセミナーやサロンの仲間が参加してくれる。だから、参加者は集まるし、売り上げは上がる。そして、コンサルタントやアドバイザーとして自立できると思う。しかし、それは見せかけで、お互いのセミナーに参加し合うのですから、仲間内でぐるぐるお金が廻るだけで、本当の利益にはならないのです」と説明する。
30歳代前半のある会社員は、「私たちの世代は、自己肯定感が欲しいという人が多いのですよ。だから、誰かに必要とされる仕事をしたいという気持ちから、コンサルタントになりたいと思うのでしょうね。判らないでもないです。自分でなにか商売するより、投資もリスクも少なくて、自己肯定感高そうですしね」と言う。
・副業を一番しているのはコンサルタント業
パーソル総合研究所が、2021年8月13日に発表した『副業に関する調査結果』によると、副業をしていると回答した者の割合が高い職種はコンサルタント業で、約3割(29.8%)にもなっている。ならば、副業で多いのもコンサルタントかと思うが、トップはWEBサイト運営(12.6%)だ。
さらに興味深いのは、本業の年収が低いほど副業を行いたいと思っている人の割合が高い傾向がみられるが、実際に副業を行っている人の割合は、本業の年収1,500万以上から急激に高まっている点だ。簡単に稼げるかのように言われている副業だが、実際には高いスキルを持っている人材が、それを活かして副業を行っているのが実態であることが理解できる。
コンサルタント会社の幹部社員は「この業界、一部の企業、一部の社員を除けば他の業界と比較しても給与が特に良いということもない。なので、なにか別の副業で少しは稼ぎたいという人が多いのかも知れません。しかし、高度な知識や経験が必要とされるため、会社を離れて、副業でやるのも、フリーランスのコンサルタントでやっていけるのも、ほんのわずかでしょうね」と言う。理想と現実には大きな乖離があるのだ。
・フリーランスの年収は100万円以下が最多
つなぐマーケティングが2021年8月11日に発表した「フリーランスの働き方に関する実態調査」からは、厳しい現実が浮かび上がっている。全国のフリーランス男女400名を対象にしたアンケートによれば、フリーランスに多い職種1位は「ライター」、2位「デザイナー」、3位「エンジニア」となっており、年収は、独立系は41.5%、副業系の87.4%の人が「100万円以下」であり、非常に厳しい状況にある。
株式会社ビズヒッツが、2021年7月12日に発表した35歳で転職をした全国の男女を対象とした「転職した理由に関する意識調査」によれば、転職で年収がどう変化したか聞いたところ、「上がった(41.3%)」と「下がった(37.1%)」がほぼ半々という状況である。さらに、転職で年収ダウンした理由は「残業や勤務日数の減少」(33.3%)に次いで、「自営業になったため」が16.7%となっている。
もちろん収入だけが問題ではないが、華やかなイメージとは程遠い現実があるのは確かだ。
・「何かを他人に教えられそう」というだけでコンサルタントは、お勧めしない
転職支援会社の社員は、「ネットなどでは組織に所属するより自由に生きる方が良いといった話が溢れています。これまでの踏襲ではダメだ。パラダイムシフトだ。イノベーションの時代だ、年長者のアドバイスなどは無駄だという主張も多い。もちろん、ある意味正しいのですが、自分に当てはまるのかは別問題」と言う。
その上で、「何をしていいか判らないけれど、何かを他人に教えられそうというだけでコンサルタントになれると思い込んで、退職してしまうのは、絶対にお勧めしない」とも言う。
・必要なのはコンサルタントではなく、プレイヤー
首都圏で起業家支援を行う機関の職員は「地域社会で必要とされているのは、コンサルタントではなく、プレイヤーだ」と指摘する。
商店街にはコロナ禍の影響もあり、空き店舗が急増しているが、都市部では収益が見込めるビジネスも多い。空き店舗の多い商店街にコンサルタントばかりやってきても、経済は廻らない。必要なのは、そこでなにか新たな商売を始めようというプレイヤーだし、そこには多くのビジネスチャンスがある。
コンサルタントも、重要な仕事であることは確かだ。しかし、自分が生計を立てる仕事としてふさわしいか、本当に求められているスキルや知識を持っているのか。より慎重に考えた方が良さそうだ。
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