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タバコ「吸い殻」は街中「ポイ捨て」から海へたどり着く

石田雅彦科学ジャーナリスト
加熱式タバコも混じる海岸の吸い殻ゴミ:写真撮影筆者

 タバコの吸い殻のポイ捨ては長く社会問題になってきたが、単に美観や清掃費用の問題だけでなく、環境へ有害物質を大量に放出する汚染源としても重要だ。喫煙者は気軽に吸い殻をポイ捨てするが、それは海へたどり着き、有害物質は生態系で濃縮されてやがて我々の身体の中へ戻ってくる。

日本で最も楽しいゴミ拾い

 マイクロプラスチックや太平洋の「ゴミ大陸」、シャチの脂肪へ蓄積されているPCB(ポリ塩化ビフェニール)が話題になり、海の汚染が再び注目されるようになってきた。海に囲まれ、海岸線の長い日本では、行政が清掃活動を働きかけ、またボランティアの団体が各地にでき、海をキレイにする運動も活発だ。

 神奈川県・江ノ島「NPO法人 海さくら」は、小さい頃から江ノ島と親しんできた古澤純一郎代表が2005年に始めた活動で「タツノオトシゴが帰ってくる江ノ島」「日本で最も楽しいゴミ拾い」をコンセプトに月1回、有志が集まって海岸のゴミ拾いをしている。活動は古澤代表が一人から始め、今では子ども連れや若い世代を中心にリピーターを含めて100〜150人が参加するという。

 海さくらは、誰でも参加でき、途中で江ノ島観光に切り替えても大丈夫という自由度と多種多様なイベントを企画する楽しさが特徴だ。例えば、3分間でタバコの吸い殻を何本、拾うことができるかを競う「タバコフィルター選手権」には子ども連れも多く参加する。

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タバコフィルター選手権の様子。今回は小さなプラスチック片も含めた。1位106個(タバコ22個)、2位97個、3位60個という結果で、1位は藤沢に住む40代の母親と7歳の娘さん。「プラゴミや吸い殻は拾い始めるときりがないが、少しでもキレイになった海を見ていると気持ちがいい」と1年半くらい前から毎回参加しているという。写真撮影筆者

 参加者にはリピーターも多く、スタンプを集めると特製のTシャツやトング(ゴミを拾う挟み)などがプレゼントされる。タバコフィルター選手権で1位だった母娘も連続参加を表され、1位の商品以外にTシャツをもらっていた。

 海さくらの活動には若い世代の参加者も多い。初参加だという地元の女子高生2人組は「マイクロプラスチックの問題にショックを受け、なんとかしなければと思い立って参加した」という。

 また、男女カップルでの参加も目立った。平塚在住の30代の男性は4回目の参加、知り合いの藤沢在住の20代女性を誘った。今回で2回目というのは台湾から来日1年半の30代の女性。50代の男性を誘って参加していた。

街のゴミが海を汚す

 高校2年生という男子は、最近付き合い始めたという彼女さんと2回目の参加。「冬の時期は雨が少なく、街のゴミが流されてきにくい季節なので、海岸にゴミが目立たない」といっていた。

 この男子高生がいうように、古澤代表は「海岸ゴミの7〜8割は街からやってくる」と説明する。雨が降ると街のゴミが下水へ流れ、河川を通じて海へたどり着く。雨が多く降った後、海岸には多くのゴミが漂着するが、タバコの吸い殻が最も多く、驚くほどの量になるという。

 古澤代表は「アルミ缶のプルタブが一体化してから、海のプルタブ・ゴミは確実に減った。タバコの吸い殻も企業努力と工夫でなんとかできるのではないか」という。また、海さくらはタバコフィルターのリサイクル活動にも参加している。

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ゴミ拾い活動の後、タバコの吸い殻を手にして説明する海さくらの古澤代表。2011年には江ノ島のゴミを象徴するタバコのフィルターを集めてカヌーを作り、街から海へのルートをたどるドキュメンタリー映画『あなたの心が流れる先に』を製作し、タバコの吸い殻を含めた街のゴミを少なくすることが海をきれいにすることを広めている。古澤代表の後ろに並ぶイケメン集団は、6人組の男性外国人モデル・グループ「アセバウンド」の面々。海さくらの活動に共感し、毎回、ゴミ拾いに参加している。写真撮影筆者

 筆者も海さくらでの取材とは別に鎌倉の由比ヶ浜でゴミ拾いをしたが、とにかく細かいプラスチック片とタバコの吸い殻の多さには辟易した。どこで誰が使い、元はどんな物体だったのかわからないプラスチック片に比べ、釣りのルアーなどの漁具とともにタバコの吸い殻は誰が使ってどの会社が作っているのかよくわかる。

 日本では、JT(日本たばこ産業)とフィリップモリスジャパン、ブリティッシュアメリカンタバコの3社しかタバコを製造販売していない。つまり、タバコの吸い殻を作り出しているのは、これら3社のタバコ会社であり、喫煙者のポイ捨てに責任を転嫁しているというわけだ。

タバコ・ゴミは半分以上

 海のゴミに占める、タバコの吸い殻を含めたタバコ関係のゴミの量は半端ない。

 海さくらと海と日本PROJECT(日本財団)、渋谷区、グリーンバードが主催する「海のピンチは街が救う」のイベントでは、2018年6月17日に湘南で、7月14日に渋谷でゴミ拾いを実施した。湘南のイベントで回収されたタバコ関係のゴミは個数として半分以上になる。

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海さくら、海と日本PROJECT(日本財団)などが主催する「海のピンチは街が救う」イベント(2018/6/17)で回収されたゴミの種類と割合。資料提供:NPO法人海さくら

 千葉市の千葉ポートパークで海岸清掃のボランティア活動をしている「かもめのクリーン隊」の谷口優子代表も「他のゴミは減っているし、喫煙率も下がっているのに、なぜかタバコの吸い殻は減らない」という。

 活動を続けてきた10年間で人々の意識が変化したせいか、ゴミの量はかなり減ったが、タバコの吸い殻は近くの岸壁の釣り人や堰堤にやってきた喫煙者がポイ捨てするものも多く、減ったという実感はあまりない。実際にゴミの数と量を分析したところ、タバコ関係のゴミがダントツで1位だった。

 東京湾の千葉県沿岸は世界でも最長規模の人工海岸線で、千葉港ポートパークも人工の砂浜だ。海水浴はできないが、干満の差が激しく干潟が出現するので潮干狩りシーズンには観光客でにぎわう。谷口代表は「潮干狩り後には客が残したゴミがすごい量になる」という。また、東京湾内のゴミは回遊し、千葉には対岸の横浜や横須賀のゴミもやってくる。

 日本貝類学会や漂着物学会の会員でもある谷口代表は「海氷面に漂うマイクロプラスチックは、小型の魚類やクリオネなどが補食する浮遊性巻き貝によく似ている。生態系に与える影響が心配だ」という。

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かめものクリーン隊の皆さん。千葉市在住の谷口優子代表が10年前から始めた活動。奇数月の30日に主にHPと口コミで有志が集まり、人工海岸の千葉ポートパークでゴミ拾いをしている。写真撮影筆者

想像力の問題か

 街のゴミでもタバコの吸い殻は多い。筆者は実際に近所を60分ほど散歩しがてらゴミを拾ってみた。すると3/4以上がタバコの吸い殻だった。アイコスやグロー、プルーム・テックなどの加熱式タバコの吸い殻も混じる。プルーム・テックの吸い口はプラスチック製なので、タバコの吸い殻汚染とともにプラスチック汚染も生じさせる危険性がある。

 喫煙者は、なぜか道ばたの側溝をめがけてポイ捨てする。筆者もタバコを吸っていた頃は、なにげなく吸い殻を捨てたこともあった。今では深く反省しているが、喫煙者にとって吸い殻は早く身辺から遠ざけたい「汚物」であり、タバコを吸っている自分の合わせ鏡のような存在だ。見えないところへ、臭いものに蓋とばかり、側溝へ投げ入れるのだろう。

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ポイ捨てされたタバコの吸い殻は、側溝から下水溝へ……タバコの吸い殻は、このルートから環境へ広がるためのサイズと浮力を持つ。一方、側溝へ入らないサイズのゴミは、行政や近所の清掃により回収されると考えられる。写真撮影筆者

 だが、路上へポイ捨てされたタバコの吸い殻は、側溝から下水へ、河川からやがて海へたどり着く。砂浜にはタバコの吸い殻が散乱し、そこから浸み出した有害物質が環境を汚染し続けている。少し想像力を働かせれば、街のポイ捨てが海を汚すことは容易に理解できるはずだ。

 タバコの吸い殻は量も半端なく、有害性も凶悪で環境へ与える悪影響は無視できない。引き続き、タバコの吸い殻汚染について記事を書いていく。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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