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日本バスケを担う東海大2年生 大倉颯太が千葉ジェッツで得たものと意外な縁

大島和人スポーツライター
大倉颯太選手(右) 写真=B.LEAGUE

日本の次世代を担うPG

大倉颯太は遅かれ早かれ、日本代表のポイントガード(PG)を務める逸材だ。東海大学2年生の彼はバスケットIQが高く、統率力を備えたフロアリーダー。184センチのサイズとスキル、ダンクシュートを決めるアスリート性も兼ね備えている。

野々市市立布水中3年時には全国中学校大会の制覇に貢献し、北陸学院高では全国4強入り。タレント軍団の東海大でも、入学直後から正PGを任されていた。

大倉は昨年末に特別指定選手として千葉ジェッツへ合流し、約2ヶ月にわたってチームと行動をともにした。彼が年代別の日本代表合宿に合流するため、今回の帯同は16日の大阪エヴェッサ戦で一区切りになる。

プレータイムが少なかった理由は?

ベンチを温めるだけの試合も多く、出場は7試合で合計36分弱にとどまっている。他の特別指定選手に比べて数字は残せていない。しかし本人の言葉から「数字以上」の収穫が伝わってきた。

大野篤史ヘッドコーチ(HC)はプレータイムの短さをこう説明する。

「本当はもっとゲームに出してあげたい。ただ1年間このチームを作っていく中で、彼が抜けてしまうところにリスクがあると思っていた。彼が悪くてプレータイムがないわけでなく、あくまでもチームを作っていく上でプレータイムが少なかった」

石川出身の20歳は千葉で得た学びをこう振り返る。

「こうやって強豪クラブで練習させてもらう中で、フラットに自分を見つめ直せた。バスケット以外での身体のファンダメンタルだとか、そういう部分をやれた」

まず脇役の難しさを知る2ヶ月間だった。

「大学では僕が先頭に立って、チームの中心となって引っ張る感じで2年間を過ごしてきました。大学とは違う役割をすぐに見極めて、少ないプレータイムで表現をするのが難しい。他の選手はその中でも自分がやることにフォーカスしてできるのがすごいなと思いました」

大倉颯太(左)と大野篤史HC(右) 写真=B.LEAGUE
大倉颯太(左)と大野篤史HC(右) 写真=B.LEAGUE

「僕のほうが成長している」

大学生にとってB1の実戦経験には大きな意味がある。ただし千葉はB1制覇を目指すビッグクラブで、選手層が厚く、チーム作りも綿密だ。そんな環境で大倉は他の特別指定選手と違う狙いを持っていた。それはハイレベルな場に身を置き、自らの能力を引き上げることだった。

東海大の先輩・後輩は特別指定選手としてB1に旋風を巻き起こした。寺嶋良(京都ハンナリーズ)、西田優大(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、入学予定の高3・河村勇輝(三遠ネオフェニックス)はいずれも主力級のスタッツを記録している。仲間たちに対して羨ましさ、焦りはないのか? そう尋ねると、きっぱりした答えが返ってきた。

「僕は試合に出るより、自分自身を向上させたいと感じていました。他のクラブで学べないところがジェッツにはすごくある。プレータイムよりも、そこを学びたくて来た。自分をゼロから見つめ直して、自分に何が必要かーー。プロとしてジェッツの選手がどうやっているかを知るために来ていた」

そう強調した上で、大倉はこう言い切る。

「僕のほうが(他クラブの特別指定選手より)成長していると思います」

学びはファンダメンタルから

彼は千葉の全体練習後にスキルコーチ、トレーナーから個人指導を受けていた。ケガが多い理由を掘り下げ、筋力のバランス改善や基本動作の習得に時間をかけて取り組んだ。戦術、試合の読みについてもチームメイトから貴重な学びを得た。枝を外に拡げるためでなく、ファンダメンタルという根を深く下ろすために時間を費やした。

大倉は振り返る。

「(西村)文男さんも(富樫)勇樹さんもアキ(藤永佳昭)さんも、何を感じながらプレーしているのか、気になって時間があれば聞くようにしました。例えばビッグマンにトラップにいったほうがいいのか、いかないのかとかーー。試合で必要なことを話していました」

千葉にはタイプの違うポイントガードが3人いて、それぞれに違う思考回路を持っている。実際の試合、練習を見ながら「講習」を受けられるのだからそれはなかなか贅沢だ。

大野HCとの縁は幼少期から

大倉にとって大野HCは布水中の大先輩だ。大野が1992年に全国中学生大会を制したエースで、大倉は22年ぶり2回目の全国優勝を達成した。そんな関係もあって、後輩は先輩を早くから意識していた。

大倉は両者の縁をこう明かす。

「(大野HCは)僕のおじさんと同級生なんです。昔からそのおじさんに『そういう選手がいた』とよく聞かされていた。地元の先輩として『すごい選手がいるんだな』と思っていました。中学校のときは練習に何回か来てくれたし、全中も見に来てくれていたみたいです」

中学時代の大野を知る指導者が「やんちゃでお前と似ているところもあったけれど、大野はこうやって頑張っていた」と引き合いに出したこともあったという。

「一緒にやりたい」

大野はこう口にする。

「(大倉を)小さい頃から見ていますし、大きく育ってほしい。そのお手伝いができればと思っています。彼が千葉ジェッツに来てくれるか分かりませんし、そのときに僕がいるかどうかも分からない。こればかりは何とも言えないんですけど。どこに行っても良いキャリアを積んでもらえるように、ずっと応援していきたい」

大倉はこう返す。

「僕も一緒にやりたいと思っていましたし、入ってみても本当にそう感じます。先輩後輩を抜いて、Bリーグのヘッドコーチとして尊敬している。先輩後輩が運命かは分からないけれど、いい関係だなと思います」

プロスポーツは来年どころか明日の保証もない世界。若者とクラブ、先輩の幸せな関係がこの先も続くかどうかは分からない。しかし彼が強豪クラブで得た学びは薄れずに残っていくはずだ。千葉での経験が大倉のキャリアを上昇させる「ジェットエンジン」となることを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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