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北朝鮮のICBM「火星18」の蓋が切り離し式から油圧駆動の開閉式に改良される

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良

 北朝鮮は12月19日、前日の12月18日に新型固体燃料ICBM「火星18」の発射試験を行ったことを発表しました。火星18は今年の4月13日と7月12日の発射に続いて3回目の試験となります。発射方法はロフテッド軌道(高く打ち上げる)で、発表された飛行数値は以下の通りです。

  • 最大高度6518.2km
  • 水平距離1002.3km
  • 飛行時間4415秒

 火星18は第1回目の4月13日の試験では飛行性能をわざと抑えて実施しており、第2回目の7月12日の試験は全力発揮を行っています。今回の第3回目の12月18日の試験も全力発揮しており、もし通常の角度で発射する最小エネルギー軌道ならば最大射程1万5千km級の性能を発揮するものと推定されます。

【火星18発射試験:関連記事】

  1. 北朝鮮が新型固体燃料ICBM「火星18」を初発射試験、加速中の上昇角度変更と時間遅延分離始動を実施(2023年4月14日)
  2. 北朝鮮が新型固体燃料ICBM「火星18」2回目の発射試験、今回は時間遅延分離始動を実施せず(2023年7月15日)

北朝鮮ICBM発射兆候の察知と観測体制

 火星18は北朝鮮の平壌近郊から発射されて日本海に着弾しています。なお12月18日の発射について日米韓は発射の兆候をかなり早くから事前に察知しており、日本の基地から弾道ミサイル追跡艦「ハワード・O・ローレンツェン」や弾道ミサイル追跡機「RC-135Sコブラボ―ル」を日本海に派遣して観測に成功したものと見られます。

  • 12月10日:アメリカ海軍の弾道ミサイル追跡艦「ハワード・O・ローレンツェン」が横浜ノースドックを出港。
  • 12月13日:ローレンツェンは対馬海峡から日本海に入った直後にAIS信号の発信を切って作戦行動を開始。
  • 12月13日:アメリカ空軍の弾道ミサイル追跡機「RC-135Sコブラボ―ル」が嘉手納基地を離陸して日本海の上空へ。
  • 12月14日:コブラボ―ルは以降毎日、日本海の上空で監視飛行を繰り返す。
  • 12月15日:韓国国家安全保障室の金泰孝第1次長が北朝鮮ICBM発射の兆候に言及。
  • 12月17日:韓国の釜山にアメリカ海軍の原潜「ミズーリ」が入港。
  • 12月17日:北朝鮮が夜間に短距離弾道ミサイルを発射。釜山の原潜入港への反発?
  • 12月18日:弾道ミサイル追跡機「RC-135Sコブラボ―ル」が嘉手納基地を離陸。
  • 12月18日:北朝鮮が午前8時24分ごろにICBMを発射。

2023年の北朝鮮ミサイル発射:弾道ミサイル系は34基

 北朝鮮の2023年のミサイル発射は以下のような内訳になります。国連安保理決議違反となる弾道ミサイル/衛星ロケットの発射は34基分です。特に重大な違反となる大型のものはICBMと衛星ロケットの8基となります。なお巡航ミサイルは発射しても国連安保理決議違反ではありません。巡航ミサイルは低空を飛ぶので遠距離からは正確な観測が困難で、6回の発射機会で12~20基を発射したものと推定されます。

  • 3基:衛星打ち上げロケット(2基失敗)
  • 5基:ICBM(火星15×1基、火星17×1基、火星18×3基)
  • 25基:SRBM(短距離弾道ミサイル)
  • 1基:正体不明の弾道ミサイル(発射直後に失敗)
  • 12基以上:巡航ミサイル(低空を飛ぶので観測が困難)

「火星18」の蓋が切り離し式から油圧駆動の開閉式に改良

 今回の2023年12月18日の発射では火星18の仕様に細かい変更がありました。固体燃料式の火星18はミサイルをキャニスターに封入してコールドランチで発射するのですが、キャニスターの先端の蓋が切り離し式から開閉式に変更されています。

北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良
北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良

北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良
北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良

北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良
北朝鮮・朝鮮中央通信より火星18のキャップ開閉機構の改良

 寝かせた状態の蓋の下部に支えを装着してヒンジによって車体と繋いであります。そして油圧シリンダーによって動かせるようになり、蓋は切り離さず開閉できるようになりました。蓋のロックを外して少し下げて、キャニスターを起立して発射態勢に持ち込めます。発射した後はキャニスターを再び倒して蓋を再装着して自走移動します。

 従来の蓋は、キャニスター起立前に仕込んだ少量の火薬の起爆によって切り離して、地面に落として転がしておく仕様でした。これは車載移動式ICBMを開発した先駆者であるロシア方式で「トーポリM」や「RS-24ヤルス」が採用しており、中国(東風41)や北朝鮮(火星18)も参考にして同様の蓋の切り離し方式を採用していました。

蓋の切り離し:2023年7月12日の「火星18」発射試験の様子

北朝鮮KCNAより2023年7月12日の火星18発射試験の動画キャプチャー(7月13日発表)
北朝鮮KCNAより2023年7月12日の火星18発射試験の動画キャプチャー(7月13日発表)

 蓋を切り離して地上に転がしておくロシア方式は「ICBMには予備弾は用意されておらず実戦では1発撃ったらその発射車両の任務は終わりなので、蓋の回収は考えなくていい」というものでした。戦略核兵器であるICBMを使うような戦いは世界最終戦争になるでしょう、蓋など捨てて置いても構いません。しかし平和な時の試験や訓練では地面に落とした蓋をいちいち回収しなければならないわけで、北朝鮮はこれが手間だと考えて、蓋を開閉式に改良したのでしょう。

【関連記事】北朝鮮の固体燃料ICBM火星18とロシアのICBMの類似点と相違点 ※蓋について差異の考察

 ただし北朝鮮の火星18はミサイルがキャニスターの奥に収納されているので、そもそもコーン形状の蓋を採用する必要がありません。もっと浅い皿のような形状の蓋でも構わなかった筈です。おそらく参考にしたロシア方式をそのまま採用した後に改良を行っている最中なので、将来また新たに蓋の仕様を変更して登場する可能性があります。

ロシア国防省より2022年2月19日公開のRS-24ヤルスの発射動画のキャプチャー
ロシア国防省より2022年2月19日公開のRS-24ヤルスの発射動画のキャプチャー

※ロシアの車載移動式ICBMはキャニスターよりもミサイル先端が飛び出しており、収納の為には蓋がコーン形状である必要があった。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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