南半球で珍しい「成層圏の突然昇温」が発生
1952年の冬、ドイツの著名な気象学者リチャード・シェルハーグ氏は、ある奇妙な現象を発見しました。
上空30キロメートルの気温が、わずか数日で40度以上も急激に上昇していたのです。この現象は当時「ベルリン現象」と名付けられ、現在では「成層圏の突然昇温(SSW)」などと呼ばれています。
成層圏の突然昇温とは
成層圏の突然昇温とは、地上から20~50キロメートルほどの高さ(成層圏)の気温が、数日で数十度もジャンプする現象をさします。
これが起きると、成層圏の下の対流圏で気温が急激に下がることがあります。それは「極渦」と呼ばれる極域の空気の渦が崩れ、冷たい空気が極域を越えて南下してくるからです。
珍しい南半球の昇温
成層圏の突然昇温の頻度は、北半球では、2年に1度くらいとされています。一方で南半球は、地理的な要因から突然昇温の例は少なく、20~30年に1度程度といわれています。直近の大規模な突然昇温は、2002年のものでした。(※)
いま、この珍しい南半球の突然昇温が発生し始めているようです。上空30キロメートルの高さの温度が、平均と比べて60度以上も上がっていたそうなのです。
現在南半球は冬ですが、今後春にかけて、オーストラリアやニュージーランド、アルゼンチンやチリ、南アフリカなどといった国々に、強力な寒波がやってくる可能性があります。
先月は観測史上もっとも暑い6月だった
ところで先月地球は、175年の統計史上もっとも暑い6月を経験しました。これで13か月連続して各月の記録を更新してしまったことになります。
具体的には下のような高温記録が出ました。
- エジプトのアスワン:国内記録となる50.9度(6/7)
- サウジアラビアのメッカ:メッカの観測記録となる51.8度(6/17)。大巡礼の期間と重なり、1,300人以上が暑さで亡くなった。
- ギリシャのミロス島:44度(6/13)。ギリシャの島々にハイキングに出かけた観光客が次々に行方不明になる。
- 中国のペキン:6月の観測記録となる41.1度(6/20)。大規模な停電を想定した初めての緊急訓練が行われる。
- パラオのコロール: 国内記録となる35.6度(6/2)
- [おまけ]インド・ニューデリーで52.9度観測(6/1)。のちに計測ミスと判明。実際は3度近く低かった。
7月も記録となるか
7月も再び記録を更新するのでしょうか。
幸いにして、エルニーニョが終わったことで、この連続記録にそろそろ終止符が打たれるだろうとも予測されています。
さらに、この成層圏の突然昇温が大規模なものとなれば、南半球で気温が下がることが考えられますから、世界気温をやや押し下げる可能性が出てきます。
成層圏の昇温やラニーニャなど、少しでも気温が下がる要因が増えることは歓迎すべきことですが、地球の気温が右肩上がりに上がり続ける様子を見ると、それが一過性でしかないと感じ、肩を落としてしまいます。
※2019年にも南半球でSSWがありましたが、雑誌Atmospheric Chemistry and Physicsに掲載された九州大学などの論文(PDF)によると、「2019年に起きたSSWは、中下層成層圏の南緯60度で西風が東風に逆転しなかったため小規模な昇温現象と分類された」とあります。