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安倍元首相「国葬」と「死の商人」、夥しい流血

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
イスラエルを訪問した安倍首相(当時) 2018 年5月(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 明日、行われる予定の安倍晋三元首相の「国葬」。各マスメディア、通信社の世論調査で、いずれも「反対」が「賛成」を大きく上回っている。その理由としてあげられているのは、森友・加計・桜を見る会等のスキャンダルや、岸田政権の説明不足、多額の税金が費やされる見込みであること等だ。これらに加え、長く中東等の紛争地取材してきた筆者としては、安倍政権の異常なイスラエル贔屓や、憲法の理念に反する武器・兵器の取引を拡大させようとしてきたことも、国葬に反対する理由としてあげたい。

〇イスラエルの戦争犯罪と安倍政権

 イスラエルが、数々の国際法違反や戦争犯罪を繰り返してきた国であることは、誰の目にも明らかな事実である。そして、安倍政権によって、そのイスラエルと日本はそれまでにない程、関係を強化してきた。

 2018年5月2日、当時首相であった安倍氏は、イスラエルを訪問、ベンヤミン・ネタニヤフ首相(当時)と会談を行い、固い握手を交わした。この会談で、安倍氏は「第二次安倍政権発足時と比べ、日本からの投資額は11億円から1,300億円に達し、120倍となった」と述べ、「今後は政治・安全保障面も含めて戦略的な協力を深化させていく」と、ネタニヤフ氏と合意したのだった。

 だが、当時、イスラエルの占領下にあるパレスチナでは、子どもも含め非武装の多くの人々が、イスラエル軍の銃撃によって傷つき、或いは殺されていたのだ。同年3月から、パレスチナ自治区ガザでは、イスラエルに抗議する大規模デモが毎週金曜日に行われ、そのたびにイスラエル軍は、実弾射撃を行い、デモ参加者を殺傷してきた。2018年5月1日時点の現地のNGO「パレスチナ医療救援協会(PMRS)」のまとめ*によると、31人が死亡、1,600人超が負傷したとのことだ。

*日本国際ボランティアセンター「非暴力デモに対するイスラエル当局の武器使用に関して:現地NGOからの声」

https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/palestine-report/2018/05/20180501-pmrsreport.html

 また、国連人道問題調整事務所は同年4月27日、その声明で「民間人、特に子ども達を故意に危険にさらしたり、標的にしたりしてはならないということを、可能な限り最も強い言葉で繰り返します」としてイスラエルを非難した(関連情報)。

 当時、筆者はガザで取材を行っていたが、実際にすぐ目の前で、デモ参加者達がイスラエル軍に撃たれ、負傷していた。しかも、イスラエル軍は、殺傷力が高く、国際人道法で禁止されているダムダム弾の一種を使用していた。「バタフライ・バレット」(蝶の弾丸)と呼ばれる、その銃弾は人体の内部で先端が広がり、内臓や骨、筋肉等を広範囲に抉るという、非常に残酷極まりないものだ。

フェンス越しに撃ってくるイスラエル兵 筆者撮影
フェンス越しに撃ってくるイスラエル兵 筆者撮影

イスラエル軍に撃たれた負傷者を運ぶ医療従事者達 筆者撮影
イスラエル軍に撃たれた負傷者を運ぶ医療従事者達 筆者撮影

 この2018年のデモ参加者殺傷より、さらに深刻であったのは、2014年7月から8月にかけてのイスラエルによる大規模なガザへの攻撃だ。住宅地が爆撃され、病院や救急車、国連管理の避難所となっていた学校まで攻撃された。こうした攻撃により、2251人が死亡、その内、4割近くが女性と子どもだった。中でも悪質だったのは、一時停戦で家の外に出てきた子ども達に対し、イスラエル軍は無人攻撃機で攻撃し、死傷させたことだ

イスラエル軍の無人攻撃機のミサイルで重傷を負ったガザの少年 筆者撮影
イスラエル軍の無人攻撃機のミサイルで重傷を負ったガザの少年 筆者撮影

 その後も、イスラエルは度重なる国際社会からの非難にも耳を貸さず、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸では、元々の住民達を追い出し、彼らの家々を破壊して、国際法に反する入植地を建設し続け、ガザにも空爆を行った。だが、安倍政権以降、日本とイスラエルの関係が見直されないまま、今年8月30日には、浜田靖一防衛大臣とベンヤミン・ガンツ国防大臣が会談、「日本国防衛省とイスラエル国防省との間の防衛交流に関する覚書」に署名している。

 呆れるのは、この会談で浜田防衛大臣がロシアによるウクライナ侵略について強く反対するとの意思を表明したことだ。無論、ウクライナ侵略は絶対に許されるものではないが、イスラエルがパレスチナで行っていることも「力を背景とした一方的な現状変更の試み」そのものだ。安倍政権の負のレガシーは、その後の日本の対中東外交・安全保障政策にも悪影響を及ぼし続けているのである。

〇「死の商人」を日本に招いた

 これらに関連して、もう一点、安倍元首相の国葬に賛成できない理由としては、事実上の武器・兵器取引の解禁がある。安倍政権以前、日本は平和憲法の理念から、外国に対し武器・兵器を輸出することを禁じていた。だが、安倍政権は2014年4月1日、武器輸出三原則を撤廃し、防衛移転三原則を新たに設けた。これは武器・兵器の輸出を原則として許容するもので、それまでの日本の政策を180度転換したものだ。市民団体「武器取引反対ネットワーク」代表の杉原浩司さんは、「安倍政権以降、MAST ASIA やDSEI Japanなどの武器見本市が大っぴらに行われるようになりました」と指摘する。

 しかも、こうした「武器見本市」には、イスラエルの軍事企業も参加しているのである。「志葉さんが取材されたような、民間人を殺害しているイスラエルの無人攻撃機を製造しているIAI(イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ)や、エルビット・システムズといった企業も、日本での武器見本市に参加しています」(同)。杉原さんは「『死の商人』達に日本でビジネスをさせることはあり得ない」と憤る。

〇安倍元首相は国葬に相応しい政治家か?

 国葬とは、国を挙げて弔意を表すということだ。戦争犯罪を繰り返すイスラエルとの関係を強化し、そうした戦争犯罪に加担する企業に日本でのビジネスの機会を与えてきた安倍元首相が、果たして、国葬に相応しいのか。少なくとも、パレスチナの人々が傷つき殺されるのを、この目で見てきた筆者としては、とても国葬には賛成できないのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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