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「気が済むまで現役を」37歳、衰え知らずの “漢” 妙義龍 大相撲の第一線で活躍し続ける秘訣とは?

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
大田区巡業で話を伺った、“漢”・妙義龍(撮影:倉増崇史)

大相撲9月場所で二桁勝利を挙げた妙義龍。昨日22日で37歳になったが、その体は衰えるどころかまだまだ進化しているように見受けられる。長く、しかも第一線で土俵に立てる秘訣はなんなのか。9月場所の振り返りのみならず、普段の生活やケアまで幅広く話を伺った。

二桁勝利の9月場所は「総じてバッチグー(笑)」

――9月場所は10勝5敗の好成績でした。場所前から調子はよかったのでしょうか。

「巡業が終わってすぐ番付発表だったので、ちょっと体が疲れていました。疲れたまま稽古して、そのまま初日を迎えてしまい、調子の良し悪しはわかりませんでしたね。ただ、始まってしまえばいつもと同じペースですし、結果が出たのでよかったです」

――今回の好調の要因をどう分析しますか。

「痛い箇所もちょっとあったけど、ケアしながら疲労を取っていたし、体がよく動いていたんじゃないですかね。自分らしさが出たと思います」

――印象に残っている取組は。

「千秋楽(金峰山戦)が一番いい相撲だったんじゃないですか。自分はこの相撲で上がってきて、いまもここで取れているんだという、自分の相撲が千秋楽に出ました」

――13日目に勝ち越しを決めて、さらに白星を重ねましたね。

「相撲は、勝ち越した後と負け越した後が大事なんです。勝ち越したら積み上げていく、負け越しても拾っていく。そういう意味では、二桁に乗せられたのは大きいですね。9番と10番では違いますから」

――総括して、9月場所の感想は。

「もう一番くらいは上乗せできたんじゃないかと思っています。特に熱海富士との対戦はもったいなかったなと。割と流れで取れていたのに、最後の土俵際で逆転を食らってしまいました。でも、総じてバッチグー(笑)。無事に終わったのが大きいですね」

ジョークも交えながら、取材中は終始和やか(撮影:倉増崇史)
ジョークも交えながら、取材中は終始和やか(撮影:倉増崇史)

長く土俵を務める秘訣は「継続すること」

――秋巡業はいかがですか。

「お客さんがいっぱい入ってくれていますね。力士は本場所の相撲も巡業のファンサービスも大事だと思うので、できる限りがんばろかいな!と思っています」

――こうして、第一線で長く土俵を務められる秘訣は、ずばりなんでしょうか。

「20代前半から、することがあんまり変わっていないんですよ。年齢と共に落ちるといわれるけど、だからといって相撲の基礎やトレーニングなど、することは同じ。体力の衰えを感じてトレーニングを始める人が多いと思うし、自分も体力は落ちているんでしょうけど、特別新しいことを始めたわけではないです。10年前に比べたら、稽古の番数を減らしてもらったり、トレーニングもそこまでガンガンしないようにしたりしていますが、することのベースは変わっていないんです」

――することを変えない。それが秘訣ですかね。

「そう思います。継続することは結構難しいので。基礎を入念にするのも昔からなので、それがいい方向に行っているのかなと」

――逆に、昔と比べて変わってきたことは何かありますか。

「なんやろ…老けた?」

――それは人間みんなそうです(笑)。

「あ、食欲が少し落ちてきたかな」

――そうなんですか。食事で気をつけていることはありますか。

「基本的には好きなものをバランスよく食べています。“ベスト体重”っていう概念はなくて、いま体重155キロくらいですが、10キロ増えても10キロ落ちても動ける体にはしています。自分で体を見たら、脚の筋肉が落ちたなとか、背中が落ちたなとかわかるのでね」

――関取は筋量が多く、以前基礎代謝を測ったらものすごく高かったんですよね。

「2700(キロカロリー)だったかな。普通にしていると、寝て起きたら体痩せているんですよ(笑)。寝ている間にも消費しちゃうから、寝る前にしっかりと栄養をとろうとか、そういうことを結構考えていますかね。18時に夕飯食べて、次の日の稽古終わりの11時までご飯を食べないとなると、結構な時間空くじゃないですか。そういう体のサインを気にするかな」

ケガをしない理由は「体の使い方」

――サプリメントも活用されているとお聞きしています。

「はい、変わらずグリコのパワープロダクションシリーズを愛用しています。プロテインやアミノアシッドなど、自分のパフォーマンスを維持するためには欠かせないものですね」

――私も、パワープロダクションのグルタミンを毎日飲んでいます。免疫力をつけたいので。

「へえー!俺あれ一袋4日でなくなるよ(※注:通常1ヵ月分)。半端なく飲んでいます。下手したら365日飲んでいるので、それが好調の要因かもしれません」

――すごいですね(笑)。関取はこれまで数々のケガを乗り越えてきましたが、ケガをしない体づくりができるようになってきた要因はなんですか。

「体の使い方が変わってきたんじゃないですかね。ケガしたことによって、力を抜くところと入れるところが変わりました。俵の感覚の変化もあります。やっぱり俵に詰まったときにケガするんですよね。もう少しいけるだろうと思ったら、いけなくて詰まってケガする。そのあたりの感覚はお相撲さんにしかわからないと思うんですが、年齢を重ねてその加減がわかってきていると思います」

体の使い方や感覚の変化で、ケガなく長く取り続ける(写真:筆者撮影)
体の使い方や感覚の変化で、ケガなく長く取り続ける(写真:筆者撮影)

――これからまだまだ長く取り続けてほしいと思っていますが、今後の目標は。

「自分が納得いくまでは、長く現役を務めたいなと思います。今月で37歳ですが、40歳までやろうとかそういうことではなくて、自分の気が済むまで、納得するまでやろうと思っています」

――ご自身が納得するとはどんな状態ですか。

「もうできないと思ったら辞めます。いまは体もよく動いていますし、まだ大丈夫だと思っているので。次(九州場所)は、番付が上がって対戦相手もガラッと変わるので、ちょっと気合入っています」

――非常に楽しみにしております。では、その九州場所の目標は。

「年々応援してくれる人たちが変わっていく一方で、昔から変わらず応援してくれる人もいます。どんな形であれ、応援してくれるすべての人の期待に応えられるように、元気な姿を土俵で見せることだけですね」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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