本日、確定拠出年金制度の成人式 日本に20年かけてどう普及してきたか
本日は、確定拠出年金制度の成人式
2021年10月1日は、日本で確定拠出年金法がスタートしてから20年になります。2001年10月1日がその施行日であり、いわば成人になった記念日ということです。
20年前といえば「自己責任」という言葉すらまだなじみがない時代でした。資産運用を一般個人が行うことすら奇異な目で見られていたものです。
そんな時代にスタートした自己責任型の年金制度である確定拠出年金は、20年を経てどう普及したのかみてみたいと思います。
わが国の確定拠出年金制度は2種類あります。ひとつは企業型DC(DCは確定拠出年金の意味)で、これは会社が退職金・企業年金制度の一部ないし全部として導入するものです。原則として会社が積立金を拠出します。
もうひとつはiDeCo(個人型確定拠出年金)で、こちらは個人が任意に加入し自分のお金を積み立てます。
制度の大きな特徴は税制優遇のあることで、積立金(掛金)は非課税になり、所得税や住民税の課税がされません(会社負担分も非課税)。運用収益についてはNISAと同様に非課税ですが、受取時まで何度も売買して非課税収益を確保することができます。また、受取時に課税(一度は税金を払う必要がある)されますが、優遇税制により無税もしくは軽い税負担ですみます。
利用の規模:約1000万人が利用する制度に成長
まず利用規模についてみてみます。
企業型DCの加入者数は今年の3月末時点で750万人です(信託協会プレスリリース)。毎年4月に新規導入される企業が20~30万人あることを考えると、現在は800万人に近づいているものと思われます。
いわゆる会社員(厚生年金の第1号被保険者)が役4000万人ですから、おおよそ20%が加入しているというイメージです。
iDeCoの加入者数は8月末の最新データで214万人です。こちらは母数をどこに置くかは難しいところですが、生産年齢人口(15~64歳の人口)は7400万人ですから、先ほどの企業型DCの加入者を加えても、利用率13%くらいということになります(iDeCoは原則20歳以上加入、現在は60歳まで加入など、比較軸は厳密には異なります)。
成人式を迎えて「1000万人は達成」したものと思われますが、まだまだ伸び代の大きい制度ということになります。
(国民年金基金連合会ホームページ)
https://www.ideco-koushiki.jp/library/status/
(信託協会プレスリリース)
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/archives/013/202106/NR20210601-2.pdf
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/archives/013/202106/NR20210601-1.pdf
(総務省ホームページ)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
資産規模:20兆円に近づき老後資産形成に寄与
確定拠出年金の資産規模はどれくらいでしょうか。今年3月末のデータでは、企業型DC16.3兆円、iDeCo2.6兆円の資産規模であると報告されています。合計すると18.9兆円と20兆円に近づいています。
また、新規の積み立てが継続していることもこの制度の特徴です。新規の加入者、既存の加入者は毎月一定額を積み立て続けていくことになるので、継続的な規模拡大が当面は見込まれています。
同時期の確定給付企業年金が67.5兆円の規模であることと比較すると、DCの資産規模はまだまだ小さいものの、すでに他の制度を上回る水準となっています(2020年3月末データになりますが、企業年金に類似した制度として、中小企業退職金共済4.9兆円、厚生年金基金13.4兆円、個人年金に類似した制度としては財形年金貯蓄2.9兆円、小規模企業共済9.8兆円、国民年金基金3.8兆円などがある。つみたてNISAは今年3月末で0.9兆円)。
規模についてもまだまだ伸び代はありますが、それでもなお、20兆円に近い資産が、国民の老後のために蓄えられつつあるといえます(また、個人の資産として分別管理されており、どこかに消えてしまうこともありません)。
ひとりあたりの金額:「老後に1000万円」を支える制度に
アメリカでは401(k)プラン(日本の企業型DCに相当)、IRA(日本のiDeCoに相当)といった制度が、国民の老後資産形成を強力にサポートしています。どちらも平均残高が10万ドルを超えており、「老後に1000万円」の準備が整っていることになります。50歳代にもなると、この制度だけで2000万円以上確保していることも珍しくありません。
40年以上の歴史をもつアメリカの制度にはまだ及ばないものの、日本の確定拠出年金制度もこうした資産規模を備えつつあります。
昨年3月末のデータになりますが、運営管理機関連絡協議会の統計資料をみると、企業型DCの平均資産額が182万円、iDeCoが98万円です。金額はまだまだ小さいものの、新しい加入者が増えるほどにゼロ円スタートとなって平均額が下がるという関係もあり、平均だけを見ても正確ではありません。
50歳代に限ってみると、企業型DC358万円、iDeCoが145万円と平均を大きく上回ります。また、受取直前と思われる60歳代では企業型DCが407万円、iDeCoで341万円と金額が増えています。
受け取りを考える世代においては、現在でも相応の規模に達しており、今後はアメリカと同様に「老後に1000万円」くらいを支える制度に成長すると考えられます。
(運営管理機関連絡協議会 統計資料)
https://www.pfa.or.jp/activity/tokei/files/dc_toukei_2020.pdf
まだまだ伸び代も大きく、日本の老後を支える重要な制度としての成長に期待
いくつかの数字をピックアップしてみました。いずれも「一定の手応え」を感じつつも「まだまだ伸び代が大きい」という数字になっているかと思います。
この制度がこのまま普及し、2000万人以上が利用、平均残高が1000万円を超えてくれば、老後の不安は大きく減少することになるはずです。
「老後に2000万円」問題が私たちに教えてくれたのは、現役で働いているうちから、自分の老後のために公的年金以外にも資産形成をしておくべきという示唆でした(公的年金破たんなどのミスリードもありましたが)。
それでは具体的な手立てやアクションはあるのか、といえば、この成人を迎えた確定拠出年金こそが、それです。
20歳といってもまだまだ若僧の制度です。批判ばかりせず、むしろこの制度がより発展し、日本人の老後の豊かさや安心づくりに寄与する制度としてさらに普及していくことを期待したいと思います。