【戦国こぼれ話】戦国時代の名将・伊達政宗が小姓に宛てたラブレターを検証してみよう。
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仙台市博物館に設置された伊達政宗像の三日月の前立てが地震の影響で折れ、修復のうえ移転を予定しているという。ところで、政宗には知られざる秘密がある。それは小姓宛にラブレターを出したことである。以下、検証を進めることにしよう。
■伊達政宗のラブレター
戦国時代は男色文化が花開いた時期であったが、その事実を如実に生々しく物語る史料が残っている。取り上げるのは、伊達政宗の手紙(仙台市博物館所蔵)である。
政宗は戦国乱世を生き抜いた戦国武将であり、豊臣秀吉、徳川家康らに仕えた。小説やテレビドラマにもよく取り上げられるので、お馴染みであろう。
政宗は永禄10年(1567)8月3日に、米沢城(山形県米沢市)で誕生した。父は伊達輝宗で、幼名を梵天丸といった。
実は、政宗は小姓に宛てた手紙を残している。この手紙は政宗の小姓に対する愛情が豊かに綴られており、かなりの長文である。
政宗の手紙は、おおむね元和3・4年(1617・18)頃のものと推測されている。日付は1月9日で、手紙を送った相手は小姓の只野作十郎である。当時、政宗は50歳前後だった。
慶長18年(1613)、作十郎は小姓として政宗に仕え、諱(実名)を勝吉といった。のちに政宗の近習(主君の側に仕える者)となり、知行として1000石を与えられている。
政宗と作十郎は、ともに衆道(男性同士の関係)の契りを交わした間柄であった。その時期は、おそらく作十郎が政宗に小姓として仕えた時期とほぼ一致するであろうから、政宗が40代後半の頃と考えられる。ところが、この作十郎と政宗の間に事件が起こったのである。
■政宗の謝罪
手紙の冒頭は、まず政宗の謝罪からはじまっている。事情は作十郎に横恋慕する者がいるとの密告があり、政宗が酒席で作十郎を非難したのである。
男の男に対する嫉妬である。政宗は常日頃から酒癖が悪かったらしく、酒の勢いでの乱暴な振る舞いをしたことがほかの史料の例でも確認できる。
おそらく政宗は、作十郎に対して相当口汚い言葉で罵ったと思われる。しかし、政宗は酔いのせいで、あまり言ったことを覚えていない。浮気の疑いをかけられた作十郎にとっては、愛する政宗から罵倒されたので、大きなショックだったに違いない。
密告をしたのは、ある物乞いの僧侶であった。しかも作十郎の相手は、政宗の知る人物だったようである。政宗の嫉妬の心が、火を噴くように燃え上がった。実は政宗自身が、作十郎の心が離れていくのを感じていたのかもしれない。
政宗の強烈な嫉妬心と作十郎に対する愛情は、やがて憎しみへと転化する。それが酒の力を借りて、一気に噴出したのであろう。しかし、政宗は決して作十郎を嫌いになっていたのではない。むしろ、作十郎を愛して止まなかったゆえに、お互いの愛情を確認したかったのであろう。
■作十郎の行為
作十郎は身の潔白を証明するため、刀で自身の腕を突き、起請文を政宗のもとに届けた。作十郎は身を呈して、政宗に真実の愛を証明して見せたのである。
起請文とは自分の行動を神仏に誓って遵守履行すべきことを誓約し、これに違反した場合は罰を受けてもいたしかたない旨を記した文書のことである。作十郎の覚悟のほどをうかがえる。
当時、男同士の契りを誓った者は、お互いの愛を確かめ合うために、「貫肉(かんにく)」あるいは「腕引」と呼ばれる行為を行った。自分の股や腕に刀を突き、傷つけることが愛の証となったのである。自傷行為の一種だ。
政宗は作十郎の行為を聞き及んで、自分がいれば止めさせたのにと述べ、本来お返しに自分も同じことをしなければならないが、子や孫がいるのでできないのだ、と苦しい弁明をしている。
さすがに政宗も50代になっていたので、「貫肉」や「腕引」まですることを恥じたのであろう。つまり、政宗は心の底から作十郎を罵倒したことについて、反省の意を表したようである。
しかし、政宗も若い頃は、しきりに股や腕に刀を突き、衆道にどっぷり浸かっていたようである。戦国時代の男色は、ごく当たり前の文化であったことが証明されよう。ただ、政宗はやはり年齢的に恥ずかしかったらしく、そこまではやらなかった、いや体面もあってできなかったのだ。
■血判誓紙を提出した政宗
結局、政宗は自ら血判誓紙(血判を捺した誓約書)を作成し、作十郎に届けたのである。作十郎と同じく、政宗の強い覚悟がうかがえるところだ。
もっとも手紙の文面を見る限り、「主君と家臣」という関係を超越し、対等もしくは政宗が必死に懇願している様子が読み取れる。これをもって、2人はお互いの愛を確かめ合ったのである。