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英中銀、独自の新仮想通貨を年内導入へ(その2)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
英中銀のマーク・カーニー新総裁=英中銀サイトより
英中銀のマーク・カーニー新総裁=英中銀サイトより

もともと、イングランド銀行(英中銀、BOE)は古くから仮想通貨に関心を寄せていた。2016年3月にも英国版仮想通貨「RSコイン」の創設をめぐって英国メディアを騒がせている。RSコインは中央銀行間の決済利用を目的にBOEがユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのコンピューター科学の研究チームに委託して開発した仮想通貨だ。RSコインの開発に携わった同大学のジョージ・ダネジス教授は昨年12月30日付の英紙デイリー・テレグラフ紙で、「デジタル通貨を使えば中銀はマネーサプライの管理が容易になり、一国の経済の通貨量を正確に把握できる」と述べている。

また、米経済誌フォーブスのコラムニストで英アダム・スミス研究所の研究員でもある、ティム・ウォーストール氏は昨年3月14日付電子版で、「RSコインは決済に関してはビットコインよりも速く、世界オンライン決済サービス最大手ペイパルよりも多額の支払いができるという優位性がある」と指摘している。

2016年当時と現在の違いについて、ビットコインを中心とした米仮想通貨専門ニュースサイトCCNは1月2日付電子版で、「2016年当時のRSコインは仮想通貨の理論を検証するレベルだったが、今度は理論レベルから実用化レベル移った」と本格的なデジタル通貨の時代が動き出すとみている。また、英国の国家的なポンドペッグの新仮想通貨の創設はイスラエルの通貨シェケルやロシアの通貨ルーブルに続く動きとして注目されるが、CCNは、「各国中銀の独自の仮想通貨導入はデジタル通貨による国際送金・代金決済の選択肢の多様化を阻害するばかりか、英国内ではリテール銀行の反発を買い英国の銀行に対する顧客の選好度も脅かされる」と警告する。

しかし、ビットコインの急激な相場上昇ばかりが目立ち、仮想通貨本来の目的が達成されていないことを批判する声も少なくない。テレグラフ紙は1月10日付電子版で、「仮想通貨の購入者はどの通貨が急騰するかばかりに関心を持っているが、本来の目的は現在の(中央銀行による一極集中の)貨幣制度に代わってさまざまな仮想通貨に分散する代用貨幣制度を投資家に提供することにある」と述べている。仮想通貨には発券主体がないにせよ、日本でも明治時代の大蔵少輔伊藤博文が米国のナショナルバンク制度にならって地方の国立銀行が自由に貨幣を発行する考え方に似ている。

ビットコイン市場の取り締まりは中国や韓国、ロシア、エジプトなどイスラム圏でも拡大しているが、その一方で富国政策の一環として仮想通貨天国を目指す国もある。ベネズエラとベラルーシがそれだ。ベネズエラ政府は昨年12月、同国独自のビットコイン版仮想通貨「ペトロ」の導入を発表した。ペトロは同国の豊富な石油・天然ガスを裏付けとすることで経済苦境からの脱却を狙っている。一方、ベラルーシ政府は昨年12月、ビットインなどの仮想通貨の取引や新たな仮想通貨をローンチして資金調達するICO(新規仮想通貨公開)、仮想通貨のブロック(取引単位)を生成(採掘)するマインニングを正式に許可する欧州で最初の国となった。仮想通貨は着実に国力の象徴とされた金を超える大きな存在になりつつある。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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