欧州議会、欧州委員会、そして加盟国。イギリスの運命を握るEUの内部はいま:英国EU離脱ブレグジットで
欧州議会の混乱
イギリスの離脱延期を考える点で、5月下旬の欧州議会選挙が大事なポイントになってきている。
しかし、当の欧州議会で今どのような状況になっているか、日本語情報がほとんどない。なので、以下に書くことにした。
欧州議会では、もうイギリスの離脱の準備はできていた。
いま751人の欧州議会議員がいるが、このうちイギリスの議席は73。この議席を減らした上で分配することにして、27カ国のうち14カ国の議席が増えた。例えばフランスは5議席増えて、79議席になった。
欧州連合(EU)を運営しているリスボン条約には、はっきりと「その国の離脱日から」議席が消滅すると明記されている。だから3月29日には英国の議席は消滅するはずだった。
これは本格的な選挙キャンペーンが始まる前だ。イギリスがまだ出ていかないことを除いて、すべての準備は整っていたのだと、フランス最大の地方紙ウエスト・フランスは報じている。
もちろん、欧州議会では、イギリス向けのオーダーメイドで対応しようとしてはいる。でも、イギリスが投票しないシナリオが出回っているという。それもそのはず。合意があるにせよ、ないにせよ、離脱は動かない事実となっているのだ(今のところ)。延期とは、あくまで「離脱の延期」という意味に捉えられている。イギリス側も、EU加盟国側も、まさかこの状況でイギリスが欧州議会選挙に参加するなんて、とても信じられないという雰囲気なのは当然だ。
ところが、離脱延期となると、離脱日の前には議席は消滅しないことになる。ドイツ連邦議会は3月上旬に「離脱がなければ、イギリスでも欧州議会選挙が行われるべきだ」という法的意見を発表している。
現在の議会は、7月2日24時に終了する。それが最終締切となる。
あのブレグジット大キャンペーン(嘘あり)を張った英国独立党(UKIP)元党首のファラージ氏は(上記写真)、実は欧州議会の議員である。EUが大嫌いな男が、EUの議員。今週、英下院で採決の連続だった中でも、3月13日にはストラスブールの欧州議会にやってきて(現在、会期中)、ブレグジットについて演説をしていた。昼間ストラスブールで、夜はロンドンに戻ったのだろう。タフな奴だ。
この人は3月29日に予定通り欧州議会を去ることを熱烈に望んでいるだろうが、離脱延期となれば、7月2日までやってきて吠え続ける権利があるわけだ。
しかし他の情報筋は、5月23日から26日までに予定されている選挙の日程について言及している。
欧州委員会の専門家は、「これは白熱的な問題だ」と語った。「我々が法的な過ちを犯した場合、ロンドンのどちらか一方の側が、選挙の結果に異議を唱える可能性があることは間違いない」という。
もしイギリスが欧州議会選挙に参加したら?
3月14日、トゥスク大統領はツイッターで「英国が離脱に関する戦略を再検討し、コンセンサスを形成する時間を必要とするなら、長期の延期に前向きになるようEU加盟27カ国に要請する」と述べた。
少なくとも1年に及ぶ長期の延期を想定しており、21日のEU首脳会議で検討するよう求める考えを示したという。
これは、ユンケル委員長がトゥスク大統領に宛てた手紙にも書かれていたものだ。ツイッターで公表されている。1年離脱が伸びたら、以前書いたように、欧州議会選挙が国民投票の代わりになるのだろうか。(その場合でも、延期を説得する理由が必要になるだろうけれど)。
しかし、別の政治的問題を引き起こすのだという。彼らは離脱の準備をしながら、会計年度2021-2027の間、次の欧州委員会の任命において発言権を持つことになるからだ。
今週、欧州人民党から選出された、次の委員長候補であるドイツの欧州議員マンフレッド・ウェーバー氏は「考えられない」と述べた。
3つのシナリオ?
ということは、素直に情勢を読めば、以下の3つのシナリオになるのだろうか。
1,EU首脳会議が開かれる3月21日までに英下院が合意案を可決する。イギリスはもちろん欧州議会選挙に参加しないが、より一層秩序だった離脱のために、6月30日まで離脱は延期となり、余裕が与えられる。
2,もし否決になれば、予定通り3月29日に離脱をする。ただし合意なき離脱である。
3,もし否決になっても、メイ内閣が27加盟国が納得する何らかの理由を提示できて(あるいは方策をとって)、1年間離脱は延期されて、欧州議会選挙にも参加する。
バルニエ交渉官への中傷
外交官の多くも、英国が交渉戦略を変更したり、総選挙や新しい国民投票を開いたりした場合にのみ、延長を支持すると言っているという。
ブダペストでのスピーチで、バルニエ交渉官は、延長要請についてのコメントを拒否したが、「決定は加盟国次第です」と指摘したと、ユーロアクティブは報じている。
彼はまた、EUが離脱を定めた第50条に関する交渉の間に誠意のない邪悪さを見せたという、一部の断固離脱派による主張を否定した。
「悪意で攻撃する精神などなかったし、今もないし、これからもありません。それに復讐の意図もなかったし、今もないし、これからもありません。罰を与えようといういかなる目的などなかったし、今もないし、これからもありません」と答えた。
また「私は政治的な採点ではなく、行き詰まりを打破するための現実的な選択肢として、市民による投票を支持することを、繰り返し述べたいです」とも言った。
EU機関と加盟国は違う
欧州機関の論理と、加盟国の論理は異なる。
EU機関の人たちは、国籍など関係ない「EU市民」という空気の中で働いているのだ。EU官僚は、出身国ではなく欧州全体の利益のために働く、EU市民としてEU市民のために働くことが義務なのだ。
ソルボンヌ大学で教鞭をとるEUの元高級官僚は「同じフロアで働く隣の部署の人達がどこの国出身かなんて知らなかったし、聞くことさえしなかった」と言っていた。
だからトゥスク大統領やユンケル委員長、バルニエ交渉官の方向性と、国家主権をもつ27加盟国の方向性は、違って当たり前なのだ。
欧州委員会のリードの元に、今までブレグジット問題で素晴らしい団結を見せてきた27加盟国は、どういう対応をするだろうか。
誰も関心がないだけ
しかし、ル・モンド紙の3月13日付けの論説は、辛辣だ。
「27加盟国がアイルランドの問題にずっと団結していたのははなぜだろうか。マドリードのように、ダブリンからワルシャワまで、単一市場に品物が違法に侵入するのを防ぐエアロックとして機能する北アイルランドに、どの国も関心をもっていないからだ」
しかも、外交的で婉曲的な表現を散りばめながら、「EU加盟国は、悲嘆にくれさせるが最終決定的なブレグジットの現実を認めるべきである」、「イギリス人が離婚の結果に耐えなければいけないとしても、欧州連合は、自分の人生をもう一度始めると決めたパートナーを引き留めようとするべきではない」と主張した。
まあ・・・ル・モンド紙については美しいイメージの誤解があると感じるが、こういう人たちだ。フランス左派知識人の鋭さと知性、そして左派思想のフランス的限界を見せてくれる新聞だと思う。
でも、これが加盟国の論理の、現実の姿なのだろう。そして欧州連合において、最後に決めるのはEU機関ではない。加盟国の首脳たちなのだ。