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【高プロ】「長時間労働助長、高年収の人以外も適用」弁護士らが街宣、過労死NHK記者の母親も涙の訴え

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
過労死したNHK記者・佐戸未和さんの母親。「働く人々の命と健康を守って」と訴える

 安倍政権が進める「働き方改革」の柱の一つ、「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)。高収入の専門職を、労働基本法による労働時間の規制の対象から外すというものだ。この「高プロ」に反対する市民グループの街頭アピールが、先週17日、東京都・新宿駅前で行われ、弁護士や「東京過労死を考える家族の会」のメンバーらが、「働く人々の命を守って」等と訴えた。

〇高度プロフェッショナル制度とは?

 「高プロ」について、安倍晋三首相は「高度な知識、技術を持つ専門職の自律的に働きたいというニーズに応えて、意欲と能力を十分に発揮できるよう、めり張りのある効率的な働き方を可能とする観点から設けるもの」と国会で説明(今年2月13日、衆院本会議)。経団連も繰り返し、「高プロ」の導入を求めている。だが、労働時間の規制の対象外となる「高プロ」は、今でさえ過労死・過労自殺の原因となるなど社会問題化している長時間労働を、さらに助長するものではないかとも懸念されている。

  

〇適用範囲は高収入の人以外にも拡大

 最低賃金引き上げや長時間労働是正を訴える若者グループ「AEQUITAS(エキタス)」が、17日に新宿駅前で行った街頭アピールでは、日本労働弁護団事務局次長の中村優介弁護士が発言。「高プロ」の危険性を指摘した。

 「残業代などの割増し賃金は、コストをかけることで長時間労働の抑制させようという趣旨で、労働基準法は割増し賃金という制度を設けているのです。労働時間規制の対象外となると、会社・使用者側は文字通り、時間に関係なく、労働者を働かせることができるようになります。政府は、働いた成果が評価される制度だと説明しますが、それは歩合給など、現在の制度でもできることです。ですから、『高プロ』を導入しよう目的はただ一つ。使用者側が、労働時間規制外で労働者を働かせようというものにほかならないのです。このような法律が成立したら、長時間労働の助長につながると言えるでしょう」(中村弁護士)。

中村弁護士の発言に耳を傾ける聴衆。新宿駅前にて。
中村弁護士の発言に耳を傾ける聴衆。新宿駅前にて。

 また、今回の法案では「平均年収の3倍」と、「高プロ」は高年収の労働者のみを対象にしているが、中村弁護士は、高年収以外の人々にとっても他人事ではないと警鐘を鳴らす。

「10年前、『ホワイトカラー・エグゼンプション』というかたちで、『高プロ』と同じような制度が画策されていた時も、経団連が求めていた年収要件は400万円でした。とりあえず法案を通して、その後で年収要件を緩和するということは目に見えています」(同)。

〇過労死したNHK記者の母親、涙の訴え

 エキタスの街頭アピールには、過労死したNHK記者の佐戸未和さんの母親で「東京過労死を考える家族の会」の佐戸恵美子さんも参加。未和さんの遺影を手に「働きすぎで死ぬことがあってはいけない、皆さん、生き抜いて下さい」と文字通り渾身の訴えを行った。

 未和さんが亡くなったのは、2013年7月だった。「知らせを受けた私達は、死後4日目のの変わり果てた姿の娘と対面しました。夏場で遺体の損傷が激しいため、翌々日に葬儀を出しました。膨れあがった未和の指に、婚約者の方が、急遽サイズを大きくした結婚指輪をはめてくれ、荼毘に付しました。なぜ、我が子を守ることをできなかったのか。深い後悔の念にさいなまれ、今もなお、もがき苦しんでいます」(恵美子さん)。未和さんは亡くなる直前まで、東京都議会議員選挙と参議院選挙の報道に奔走。昼も夜もなく働き続けていたという。「過労死直前の1カ月間の時間外労働時間は209時間。その前の月は188時間でした」(同)。

 恵美子さんは「働く皆さん、時々立ち止まって、自分の体の生の声に耳をすまして下さい」と声を振り絞る。「生きることができなかった未和の分も、(その場にあつまった人々を指して)あなたが、あなたが、あなたが、生きて下さい。私達と同じ苦しみを味わう人々が今後二度と現れることのないよう、働く人の命と健康を守られる法律をつくっていただけるよう、切に願っています」(恵美子さん)。

〇「週7日休めば幸せか?」自民党議員が過労死遺族に暴言

 東京過労死を考える家族の会代表で、小児科医だった夫を過労死で亡くした中原のり子さんもマイクを握った。中原さんは、今月13日の参院予算委員会の公聴会で公述人として証言した際、自民党の議員から侮蔑的な発言を受けたと憤る。

 「私は、国会で『高度プロフェッショナル制度』の危険性を訴えました。私の家族に何が起きたか、二度と過労死を起こしてくれるなということを申し上げたのですけども、(自民党参議院議員で、08年に従業員の過労死を起こしている居酒屋チェーン『和民』創業者の)渡辺美樹議員から、『お話を聞いていると、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえる』という発言が出てきたわけです」(中原さん)。

 その後、批判を受けて渡辺議員は謝罪。国会の議事録からも、渡辺議員の発言は削除されることとなった。

 また、中原さんは「『働き方改革』案では、時間外労働で月100時間の上限規制が設けられていますが、労災認定されている脳・心臓疾患の死者の半数以上が月100時間以下の時間労働で亡くなっています」と政府案の上限規制は不十分だと指摘した。実際、厚生労働省は、いわゆる「過労死ライン」として、脳・心臓疾患の発症前2~6カ月間に月80時間以上の時間外労働を、労災基準としている。

〇裁量労働制に続き、高プロも批判の的に

エキタスの街宣にプラカード持参で参加する人々。
エキタスの街宣にプラカード持参で参加する人々。

 「長時間労働を助長する」との批判を受け、政府与党は「高プロ」を含む働き方改革関連法案について、労働時間の把握を法律で企業に義務付け、医師の面接指導を受けられるようにすることを修正案に盛り込むとしている。だが、「高プロ」と同じような制度である「ホワイトカラーエグゼンプション」も、野党や労働組合等の強い反発を受けて断念してきた経緯があるだけに、「働き方改革」関連法案への批判は、今後も高まりそうだ。

(了)

*本稿の写真は全て筆者の撮影。無断使用を禁じる。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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