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子どもたちは大人より賢いのか・・〝稼ぐ授業〟から見えてきたかも

前屋毅フリージャーナリスト

 美女木小学校(埼玉県戸田市)の3年生たちは、〝おカネを使う〟ことに頭を悩ませている。買いたいものはたくさんあるのだが、予算には限りがあるからだ。

| 同じことをやる必要がないことだってある

 自分たちで稼いだおカネが学年で約8万円、クラスあたりでは約2万円となった。総合学習の時間に自分たちが制作したグッズを販売できる「SUZIRI(すずり)」を使って、自分たちの力で稼いだのだ。それを使って何を買うのかを記したクラスごとの「購入候補」リストを見せてもらった。

 そのなかで、ダントツに購入候補の数が多いのが2組だった。カブトムシの幼虫、クワガタ幼虫、クヌギの苗木、紙粘土・・・その数は8つだ。ほかのクラスが3つ~5つなので、群を抜いて多い。

「総合学習で虫をテーマにしたところから始まったわけですが、『虫と自分たち』で子どもたちが考えていくなかで、やりたいことがいろいろでてきました。そして話し合っていくうちに、カブトムシとクワガタを育てる、虫の良さを知らせるポスターをつくる、虫の世界を知ってもらうために箱庭的なものをつくろう、という4つのグループに落ち着きました」と、2組担任の後藤香織さんは説明する。

 クラスで同じことをやらせたがるのが従来の学校スタイルだろうから、それに従えば、「絞り込み」の作業を子どもたちに指示するはずである。それをやらなかった。絞り込みをしなかった理由を訊ねると、次のように後藤さんは答えた。

「子どもたちがやりたいことをやるのがいいのかな、とおもいました。自分がやりたいことをやるほうが学びになるし、学びを深めることにもつながるはずだからです。『何をやるか』を話し合っている過程で、自分がやりたいことを子どもたちそれぞれが見つけていたこともあって、無理にまとめる必要はない、とも考えました」

「まとめる」ことは、誰かの「やりたいこと」を捨てることにもなってしまう。それをやってクラスをひとつにまとめることが、どれほど意味のあることなのだろうか。全部のケースではないにしても、否定することは可能なかぎりやらないほうがいい。

| 自分たちで稼いだおカネだから

 バラバラでもいい、と2組の方針は決まった。そうなると、購入するものが多くなるのは当然である。そうなれば、予算も増えていくことになる。

 しかし予算は、自分たちが稼いだ約2万円だけだ。このなかでやり繰りしなければならない。そこで心配してしまうのが、「奪い合い」である。限られた予算を奪い合うことは、大人の世界では珍しくないことだ。後藤さんが続ける。

「各グループで何を購入したいのか、その代金がどれくらいになるのかを合算しながら、話し合いながら探り、金額の折り合いをつけていました。おカネがあるからといって、『あれも買いたい、これも買いたい』とはならなかった。ちょっと前なら、金額の上限も気ににせずに『あれも買いたい』とか短絡的に言いだしそうな子はいっぱいいたはずなんですけどね」

 大人のように醜い奪い合いなどなかったのだ。担任の目には、あきらかに変わりつつある子どもたちの姿が映っている。その理由を、後藤さんは次のように想像している。

「自分たちで稼いだおカネだからではないでしょうか。これが単純に学校から2万円を配られて『必要なものを考えて買いなさい』と言われたのなら、違ったんだとおもいます。私はこれ、僕はこれ、と予算も考えないで短絡的に言い合っていたかもしれません。自分たちで稼いだおカネだから、かなり建設的に考えている。そこに、私は子どもたちの成長を感じています」

 ただ与えられたおカネで買い物するのではなく、自分たちで稼いだおカネで買い物するのだ。同じおカネでも、子どもたちの価値観は大きく違っているのではないだろうか。そこに「おカネを稼ぐ授業」の意味も、価値もある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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