世界の大企業対象“人権尊重ランキング”で日本企業は平均点以下続出 人権後進国日本はジャニーズ離れか
日本航空、サントリー、キリン、日産自動車、日本海上、花王など世界的にビジネスを展開している大手日本企業が、次々と、ジャニー氏の性加害問題を認めたジャニーズ事務所のタレントのCM起用を取り止めている。
背景には、人権侵害を容認しない世界の厳しい視線がある。中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧やロシアのウクライナ侵攻など深刻な人権侵害が起き、世界の人権侵害に対する視線は、近年、いっそう厳しさを増しているようだ。
黒人警官ジョージ・フロイドに対する暴行致死事件やプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの女優に対するセクハラ・パワハラ事件など、米国では世界の注目を浴びる事件も起きた。
米国内外で人権問題に関わる出来事が勃発するなか、バイデン大統領も、民主主義的価値観と人権の重要性を訴え続けている。
世界はこれまでにないほど人権問題に敏感になっていると言っていい。
世界的に人権重視が高まっている風潮から、日本企業もジャニー氏による性加害のような人権問題から目を背けることができなくなっている。そもそも、日本の大手企業は、人権に対する取り組みが遅れていると世界では低評価されてきた。日本企業としては、ジャニーズ事務所のタレントをCMに起用し続けることで、それでなくても低い人権に対する評価を地にまでは落としたくないところだろう。
多くの日本企業が平均点以下
日本の大手企業の人権尊重の低さを示している指標に、国際人権NGO“The World Benchmarking Alliance”が世界的企業の人権に対する取り組みを調査し、採点している「企業人権ベンチマーク(CHRB)」がある。この指標によると、多くの日本企業が平均点以下というヤバい点数だ。
このNGOの2022年度の調査では、世界的な大企業127社が調査対象となったが、そのうち、日本企業が22社、米国企業が47社、英国及び欧州企業が27社、中国企業が13社という内訳で、調査対象となったセクターは、食品・農業、ICT製造業、自動車製造業の3業種だった。調査された日本企業には、今回、ジャニーズ事務所のタレントのCM起用を取りやめると発表した日産自動車やサントリー、アサヒ、キリンも含まれている。
昨年11月にその調査結果が発表されたが、「企業の人権尊重ランキングの日系企業に対する評価とその対応策について」によると、サントリーが30位で27.5点、キヤノンが34位で25.2点、キリンが38位で22.7点、残りの日本企業は全て20点以下で、そのうち6社は10点以下だった。調査された127社の平均点は17.3点。平均以上の得点を得た日本企業は22社中7社だけだったのである。
日本の自動車メーカーは全社平均点以下
特に、調査された日本の自動車メーカーは調査された全社127社の平均点以下で、トヨタ15.7点、スバル14.5点、ホンダ11点、日産自動車10.5点、三菱7.5点、マツダ7点、スズキ2.4点という低評価だった。
また、自動車製造業のセクターだけ取ってみた場合、調査された自動車メーカー29社中、日本の企業は7社で、うち、トヨタ、スバル、ホンダだけがこのセクターの平均10.8点を上回っており、日産、三菱、マツダ、スズキは平均以下だった。
ちなみに、他の主な日本企業の得点を見てみると、アサヒグループ19.8点、ソニー19点、イオン17.9点、日立16.8点、東京エレクトロン15点、パナソニック12.7点、任天堂10.3点、セブン&Iホールディングス8.4点となっている。
全社のトップ5は、1位がユニリーバで50.3点、それにウィルマー・インターナショナル43.5点、ペプシコ40.1点、ヒューレット・パッカードとコールス・グループの39.1点が続いた。
取締役レベルの説明責任では、日本企業は0点が続出
ちなみに、このNGOは、世界の大企業の人権に対する取り組みについて5つの項目から採点している。ガバナンスと方針に対するコミットメント(10%)、人権尊重と人権デューディリジェンスに対する取り組み(25%)、救済処理と苦情処理メカニズム(20%)、企業による人権プラクティスの実績(25%)、深刻な申し立てへの対応の実績(20%)の5つで、それぞれの領域には括弧内の割合が採点に当てられている。
この中で、「ガバナンスと方針に対するコミットメント」の項目の中の「人権に関する取締役会レベルの説明責任」という点では、日本企業は特に低得点で、キヤノン、ホンダ、三菱自動車、任天堂、日産自動車、パナソニック、セブン&Iホールディングス、ソニー、スバル、サントリー、スズキといった多くの日本企業が0点となっており、説明責任がなされていないことが示されている。
また、「人権デューディリジェンス」という“自社のビジネスにおいて人権に関するリスクがあるかどうかを調べ、リスクを抑える取り組み”という点で、10点以上を獲得しているのはサントリーとキヤノンだけで、日本企業は0点も散見され、取り組みが遅れていることがわかる。
今回、スポンサー企業が次々とジャニーズ離れする動きは、「人権デューディリジェンス」という点で遅れている日本企業が、人権に関するリスクを抑える必要性を感じていることの表れだろう。
また、前述の「企業の人権尊重ランキングの日系企業に対する評価とその対応策について」によると、日本企業の成績が振るわない理由の一つとして、「企業人権ベンチマーク」自体が日本で十分に認知されていないため、対策が遅れている可能性があるという。今回のジャニー氏の性加害問題を機に、日本企業は、「企業人権ベンチマーク」の5つの評価項目を参考にして、人権に対する取り組みに力を入れる必要があるのではないか。
政府の対策とルール作りが必要
また、7月に日本を訪問して、ジャニー氏の性加害問題について聞き取り調査を行った、国連人権理事会作業部会メンバーのピチャモン・ヨーファントン氏は、問題の背景には政府の無策があると批判し、「加害者に対する透明性のある調査と被害者が有効な救済を得るための主体的責任者として(政府は)行動する必要がある」と政府が対策に乗り出す必要性を訴えていた。
さらには「日本のメディアとエンターテインメント業界全般にわたり、深刻な問題があることがわかった。職場での態度に関する規則や規定の欠如が性暴力とハラスメントに対する無罪放免の文化を生み出している」とエンターテインメント業界におけるルール作りの必要性も訴えた。
人権後進国日本は、官民ともに、人権問題への対応を世界から迫られている。
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