夏のマラソンでは胃腸の症状に気を付けて
持久力運動をしているとき、吐き気やげっぷ、腹痛や下痢などの胃腸の症状に悩まされる人がいます。そのような運動に関連しておこる胃腸の障害は「運動誘発性胃腸症候群」と呼ばれ、特に暑いこの時期に多いことされています。
ひどい時にはその後のパフォーマンスの低下につながることもあり、注意が必要です。
運動誘発性胃腸症候群の原因は?
運動時の胃腸障害は、主に2つの原因によりおこります。
まず一つ目は交感神経が活性化することにより、胃腸の動きが低下することで生じます。動きが低下すれば、胃酸が逆流して胸やけを感じたり、ガスがたまって膨満感を生じるのです。
二つ目は胃腸への血流が低下することで生じます。2001年のベルギーの研究では、最大酸素摂取量の70%の強度のエルゴメトリー運動を60分行ったところ、門脈血流は80%減少したとあります。おそらく胃腸への血流も、ランニングにより同程度減少することが予想されます。そして血流が低下して腸の細胞がダメージを受けると、腹痛が生じたり下痢となります。
特にこちらの方が問題で、さらに腸の細胞が大きなダメージを受けると、腸が損傷されて腸内細菌やその毒素が入り込み、全身の炎症を引き起こします。結果体が消耗したり、食事の消化や吸収が低下したり、免疫が低下する可能性があります。
どんな時に生じるの?
暑い環境での体温上昇や、脱水により胃腸症候群は起こりやすくなると言われています。2019年のオーストラリアの文献では、トレッドミルを2時間行った前後で腸管の損傷を示すI-FABPの数値を比較すると、22度の環境では27%増加したのに対し、30度では84%、35度では327%増加したという報告もあります。
暑さのなかのランニングは、それだけ腸の細胞がダメージを受けやすいのです。
さらに距離や時間が延びれば、それだけ胃腸障害は起こりやすくなります。100kmのウルトラマラソンともなると、胃腸障害が30-80%出現するとも言われています。
また鎮痛剤はプロスタグランジンの生成を抑制することで、胃腸の血流を落とすことが知られています。女子フルマラソンの前世界記録保持者のポーラ・ラドクリフの、2004年のアテネオリンピック女子マラソンの話は有名です。Wikipediaからですが、気温30度を超える猛暑のなかで脚の故障のためにたくさんの鎮痛剤を服用したため、内臓を痛めて途中棄権したということです。特に夏場には、鎮痛剤の服用は控えましょう。
予防のために
なお、走る際に多少のものは摂取したほうが、胃腸の血流は高まると言われています。そして摂食のトレーニングを行うことで、胃腸の症状が緩和するとの報告もあります。2023年のオーストラリアからの報告では、2週間の炭水化物摂取または炭水化物+たんぱく質の摂食トレーニングで、腸の不快感や吸収不良が改善したとあります。
そして運動誘発性胃腸症候群になりやすい人は、高FODMAP食(小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質)を避けた方がよいとも言われています。
個人差はあるものの整腸剤もよいとされ、ラクトバチルス属とビフィドバクテリウム属は消化管微生物叢を変化させることが示されており、人によって効果に差はあるものの胃腸症候群の発症率と重症度を下げる可能性があります。
また2023年の大阪首都大学からの報告では、暑熱馴化をしても運動誘発性胃腸症候群には効果がないとも言われています。
さいごに
夏の暑い環境で長い時間走ると、腸の細胞がダメージを受けて腹痛下痢・・・のみならず、全身がダメージを負う可能性があります。
もともとお腹の弱い方は暑さの中でのランニングを控えたり、普段から摂食トレーニングをしてレースでも栄養を摂取しながら胃腸の血流を高めたり、日頃から低FODMAP食や整腸剤を摂取するとよいかもしれません。
なお、ランニング中の差し込みについては、自分の以前の記事「ランニング中の腹痛(差し込み)の原因と対策」を参照下さい。