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教員の新しい研修制度が「新たな波乱」を呼ぶ

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 教員免許更新制度は今年7月に廃止され、来年4月から新しい研修制度がスタートする。その新研修制度には、懸念される問題がある。

| 新しい教員研修 いつやるの?

 教員免許更新制を廃止し、教員研修の記録作成を義務づける「教育公務員特例法及び教員職員免許法の一部を改正する法律案」が成立したのは5月11日だった。この改正法が施行される7月1日で教員免許更新制は廃止となるが、代わって来年4月から新しい研修制度がスタートする。

 新しい教員研修については、今年夏ごろまでに文科省がガイドラインを示すことになっている。教員免許更新制では10年ごとにまとまった研修を受けることになっていたが、新しい教員研修は「日常の研修」になる可能性が高い。

 そうなってくると、その研修を「いつ受けるのか」が問題になってくる。デジタル化によって、受講者が自分の都合のいい時間に受講できるオンデマンドでの研修も可能なはずである。帰宅後や休日に自宅で受講することも可能になるのだ。その可能性について、文科省総合教育政策局教育人材政策課教職員研修係に訊いてみたところ、次の答が戻ってきた。

「(帰宅後や休日に受講することは)想定していません。いずれにしても『職務としての研修』は勤務時間内に行われることが前提です」

 文科省としては、こう回答するしかない。というのも、今回の改正法には附帯決議が付けられているからだ。そのひとつに、「オンデマンド型の研修を含めた職務としての研修は、正規の勤務時間内に実施され、教員自身の費用負担がないことが前提であることについて、文部科学省は周知・徹底すること」とある。

 この附帯決議を守るためにも、文科省は勤務時間内に行う研修のガイドラインを示さなければならない。問題は、「正規の勤務時間内」に新たな研修を入れ込む余裕があるのかどうか、である。

 5月13日に記者会見を開いた内田良・名古屋大学教授らは、名古屋大学が行った全国の公立小中学校で働く教員の残業時間についての調査結果を公表している。それによると、1カ月あたりの残業時間は小学校で98時間、中学校で114時間にのぼっている。文科省が示している残業の上限は月45時間となっている。それを大幅に超えてしまっているわけだ。

 それほど、教員は多忙を強いられている。そこに、新たな研修を組み込まなければならなくなる。しかも、「正規の勤務時間内」という制約がある。

 先の内田教授らの調査では、休憩時間を「0分」と答えた教員が小中ともに約5割を占めている。新たに研修をくわえる余裕があるとはおもえない。

 それでも、研修は正規の勤務時間内にやるしかない。そうなると、これまで勤務時間内にやっていた業務を残業にまわすしかなくなる。どの業務を残業にまわすのか、まわせるのか、教員にとっては悩ましい問題になる。いずれにしろ残業時間の増加は避けられないにちがいない。現在でも多すぎる残業時間がさらに増えれば、それこそ大問題である。

 問題を大きくしないためには、残業時間を増やさず、正規の勤務時間内で受講できる研修にするのがいちばんだ。そんなガイドラインを、文科省は示すことができるのだろうか。それとも、盛りだくさんの研修でも「勤務時間内に行えるように工夫するように」と学校現場に丸投げしてしまうのだろうか。ひと波乱は避けられそうもない雲行きである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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