【政策会議日記11】「大きな政府」はスウェーデンよりフランス(財政制度等審議会)
4月16日に、私も一委員として出席した財政制度等審議会財政制度分科会が開催されました。
そこで、イギリス、EU(欧州委員会)、フランス、スウェーデンの現地調査の報告がなされました。
イギリスは、同会合の資料2(PDFファイル)にもあるように、2010年5月から、現キャメロン内閣が進める財政健全化が、イングランド銀行の積極的な金融緩和政策と相まって、景気悪化を避けながら、着々と実行している状況が紹介されました。
EU(欧州委員会)の現地調査報告では、同会合の資料3(PDFファイル)にもあるように、有名な安定成長協定のマーストリヒト基準だけでなく、新制度が補強されたことが紹介されました。ユーロ圏諸国では、統一通貨であるユーロの価値を維持すべく、マーストリヒト基準に従わなければならない、という話はご存知の方もおられるでしょう。マーストリヒト基準とは、財政赤字の対GDP比が3%を超えないようにすることと、政府債務残高の対GDP比が60%を超えないようにする、ということです。
しかし、2008年の世界金融危機や2012年の欧州財政危機に直面したことから、安定成長協定を補強しないとEU加盟国の財政に対する信認が揺らぎかねないとの認識が広まり、経済ガバナンス6法、財政協定、経済ガバナンス2法という3つの補強策が講じられました。詳細は、前掲の同会合の資料3(PDFファイル)をご覧下さい。
「大きな政府」は今やスウェーデンよりフランス
次いで、フランスとスウェーデンの現地調査の報告がなされました。フランスについては同会合の資料4(PDFファイル)を、スウェーデンについては同会合の資料5(PDFファイル)をご覧下さい。
スウェーデンといえば、わが国では「福祉国家」というイメージが定着しています。「小さな政府」のアメリカと対照的に、スウェーデンは社会保障が充実していて「大きな政府」の象徴的な存在とみられています。
しかし、それは20年以上前の話です。
今や、政府の規模は、スウェーデンよりフランスの方が大きいのです。スウェーデンは1990年代前半に財政収支が大きく悪化しました。これを受けて1990年代後半に、財政支出(対GDP比でみて)を大きく抑制し、1993年に約70%だった財政支出対GDP比は2000年には約55%にまで低下しました。この時点で、フランス(約52%)と大差なく、スウェーデンは突出して「大きな政府」とは言えない状況になっていました。
スウェーデンはさらに財政支出を抑制し、2007年には約50%にまで低下し、この時点でフランス(約53%)を下回りました。その裏側で、スウェーデンの財政収支は改善して、2004年から2008年まで財政収支は黒字を記録しました(ちなみに、日本は、対GDP比で、2000年頃は6~8%の赤字、それから改善しても2008年の約2%の赤字が最善で、その後8~10%の赤字になっています)。
直近では、財政支出対GDP比は、フランスが約57%、スウェーデンが約52%となっており、この状態が定着しています。もはや、スウェーデンが「大きな政府」の象徴とは言えないのが現状です。フランスは、財政支出をなかなか抑制できず、前述のマーストリヒト基準を達成できていない状況が続いています。最近の欧州の金融市場周辺では、フランスが富裕層に増税をしたせいもあってか、「フランスの財政みたいになるな」という評判があるのだとか。
話を元に戻すと、こうしたスウェーデンの取組みとして特筆すべきことは、前掲同会合の資料5(PDFファイル)にも示されているように、医療や高齢者福祉・保育の事務を委ねられている自治体には均衡財政が義務付けられていることです。社会保障給付は、有権者の要望に流されすぎると財源の手当てなく振舞いがちですが、スウェーデンではしっかりと収支尻を合わせなければならないルールになっているのです。今後さらに高齢化が進むわが国にとって大いに参考になる点といえるでしょう。