北朝鮮がMIRV(複数個別誘導再突入体)の初期レベルの発射実験を成功させたと主張
6月27日、北朝鮮は昨日26日に発射したミサイルについて「(多弾頭)個別機動戦闘部の分離および誘導制御実験を成功裏に行った」と主張しました。これはICBM(大陸間弾道ミサイル)用の多弾頭誘導技術であるMIRV(複数個別誘導再突入体)を意味しています。
MIRV : Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle
韓国軍の推定していた発射失敗ではなく(発射当日の記事)、わざと飛行性能を抑えた初期レベルの実験であり、極超音速兵器でもないと説明しています。なお使用ミサイルの説明は発表文には「固体燃料弾道ミサイルの第1段エンジンのみを使用」とありますが、しかし発表された写真を見る限り、ミサイルの外観形状は火星17(液体燃料ICBM)に酷似しています。これはどういうことでしょうか?
形状は火星17(液体燃料ICBM)に酷似だが、説明は固体燃料
※写真拡大。噴射炎は固体燃料ロケットの特徴と一致
※直径のみを揃えた比較(実際の火星17は火星18より大きい)
※直径のみを揃えた比較(火星16ナ、MIRV実験)
火星16ナの第1段の流用と推定
6月26日発射のMIRV実験に使用されたミサイルの外観形状は火星17(2段式液体燃料ICBM)に非常によく似ています。
ですが北朝鮮の発表文には「中長距離固体燃料弾道ミサイルの第1段エンジンを利用」とある以上、火星16ナ(2段式固体燃料IRBM+極超音速滑空弾頭)ないし火星18(3段式固体燃料ICBM)の第1段のみを使用していると解釈することになります。
火星18の第1段の上に弾頭を搭載する想定だと、直径と長さの比率が全く合っていません。ミサイルに描かれた白い線の位置を見る限り、火星16ナの第1段を流用している可能性が高くなります。
MIRV(複数個別誘導再突入体)とデコイの分離
- 개별기동전투부분리 (個別機動戦闘部分離)
- 기만체분리 (欺瞞体分離)
MIRV(複数個別誘導再突入体)3個に加えて欺瞞体(デコイと呼ばれる囮)も放出したとあります。デコイは螺旋回転しながら飛んで行っており、これがまるで不具合が起きているかのように目撃されたことになります。韓国軍合同参謀本部が「破片は半径数kmにわたり散らばり海に落ちた」としたのは、3個の弾頭と1個のデコイ、PBV(ポストブーストビークル)、フェアリングなどの部品だったことになります。
ただしこれは北朝鮮側の説明が正しいと仮定した場合です。北朝鮮が発射実験失敗を誤魔化す為に虚偽の説明をしている可能性もあります。MIRVの実験をこんな低い高度と短い距離で行うのは聞いたことがありませんが、初期レベルの実験だというなら有り得るのかもしれません。
追記:北朝鮮ミサイルは爆発四散して失敗したと韓国軍が改めて指摘し証拠の動画を公開(2024年6月28日)
韓国軍は北朝鮮の主張に対し再反論を行いました。
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※北朝鮮がMIRV(複数個別誘導再突入体)の開発方針を初めて公表したのは2021年1月9日。この時の表現は「다탄두개별유도기술(多弾頭個別誘導技術)」。
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※2024年1月14日の発射はミサイル正式名称の発表は無し。火星16(無印)ないし火星16カ(火星16A)であると推定されている。データ取得用の試験用で正式採用する予定が無い可能性がある。