「ジュエ」後継者確定の決定的なシーン!
先月(7月)末に韓国情報機関「国家情報院」(国情院)の新旧トップが金正恩(キム・ジョンウン)総書記の後継者について相反する意見を述べていた。
口火を切ったのは「国情院」の趙太庸(チョテヨン)現院長で後継者と目されている娘の「ジュエ」について7月29日の国会情報委員会の全体会議で「後継者としての教育を受けている」と報告し、遅まきながら「現時点における有力な後継者である」ことを示唆していた。
「国情院」は「ジュエ」が2022年11月に初めて登場した際には「第2子と判断している」と、国会情報委員会に報告したものの金総書記には「第1子の息子がいる」と付け加え、「ジュエ後継説」に組していなかった。昨年3月3日の報告でも「第1子は息子と把握している」と念を押していた。
ところが、その後「男の子であるとの情報はあるものの物証はなく、現在確認中」と揺らぎ始め、政権内では北朝鮮担当部署の統一部の権寧世(クォン・ヨンセ)長官(当時)らが「『キム・ジュエ』と呼ばれる娘以外には確認されていない。息子がいるかは確認できていない」と言い始めた。
極め付きは昨年12月3日の国家安保室長当時の趙院長の発言で「(これまでの)動きをみれば、後継者の可能性も念頭に置かなければならない」と、軌道修正し、息子の存在については「まだ確認できていない」と与党議員の質問に答えていた。その3日後には新任の金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官が「ジュエが正恩の後継者になる可能性を検討する必要がある」と発言し、足並みを揃えていた。
「国情院」は今年1月に国会に提出した資料の中でも「ジュエ」が「現在のところ有力な後継者とみられる」との分析を示していたが、今回の報告では「現時点における有力な後継者である」とする根拠について▲「ジュエ」の活動の約60%が父親に同行する軍事分野であること▲「ジュエ」に対して指導者を意味する「嚮導」という表現が使われたことなどを挙げていた。
この「国情院」の分析に対して文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の2020年から22年まで国情院院長だった最大野党「共に民主党」の朴智元(パク・チウォン)国会議員は7月30日に出演したラジオ番組で「娘は後継者ではない」と断言し、本命は「留学中の息子だ」と自信満々に語っていた。
その根拠について朴議員は「韓米の情報当局は第1子は息子、次に『ジュエ』、そして第3子が生まれたと把握している」として「息子がいるのに社会主義国家で娘を、女性を指導者にしたことがあるのか」と、「国情院」の過去のデーターを基に「ジュエ後継説」に疑問を呈していた。
朴議員は息子については金総書記が10代の頃、「妹と一緒に密かにスイスに留学していた時、北朝鮮は完全に隠していた。身の安全のためにも隠さなければならなかったからだ」と述べ、そうした前例から「息子が海外留学しているために隠しているのではないかと思う」と推測していたが、留学先についての言及はなかった。最も知りたい名前も、年齢についても情報を持ち合わせていなかった。
「国情院」が今回の報告で「後継者が変わる可能性も排除していない」として最終確定していない理由も朴議員が「娘ではない」と主張する理由も「第1子に息子がいる」との拘りがあるようだ。
それもこれも昨年3月、趙院長の前任者でもある当時の金奎顕(キム・ギュヒョン)院長が国会情報委員会で「具体的な物証はないが、諜報上(第1子が)息子であるのが確実ということを外国情報機関との情報共有を通じて確信している」と報告していることに基づいているようだ。
脱北者の間では金総書記が第1子の息子を表に出せない理由について「身体的、精神的問題がある」との怪情報も流れているが、金元院長は「別途の情報で確認されたことはない」として、その噂を否定していた。
しかし、こうした「国情院」の新旧院長のやりとりは今月4日に平壌で行われた新型戦術弾道ミサイル発射台の国境第1線部隊への引き渡し式典に「ジュエ」が登場した際の光景で吹っ飛んでしまった。
「ジュエ」の登場は北朝鮮のメディアには紹介されていなかったが、朝鮮中央通信が配信した写真にはその姿が写っていた。さらに北朝鮮が公開した動画をみると、父親の後ろから雛壇に上がろうとする青いスーツを着た「ジュエ」をエスコートする叔母、金与正(キム・ヨジョン)党副部長の姿も映し出されていた。それも「ジュエ」は腰をかがめ雛壇まで案内する叔母の前を威風堂々と歩いていた。
昨年7月の閲兵式でも雛壇で軍No.1の朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長が膝を曲げ低姿勢で「ジュエ」に挨拶する場面が映し出されていたが、次期後継者の一人として目されている実質No.2の金与正党副部長までが「ジュエ」に丁重に接しているところをみると、どうやらこれで「ジュエ後継」は決まりのような感じがしてならない。