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金正恩総書記に跡継ぎの男の子はいない!「子供は女の子で、ジュエは第1子の長女」 韓国専門家の分析

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2024年元旦新春公演会での「金正恩親子」(左端は李雪主夫人)(労働新聞から)

 昨日、暇つぶしに韓国のメディアを検索していると、韓国有数の北朝鮮問題専門家として知られている世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)韓半島(朝鮮半島)戦略所長が大手紙「中央日報」とのインタビュー(北朝鮮 「SUNDAYがあった人」)で金正恩(キム・ジョンウン)総書記の後継者問題について興味深い情報を披露していた。

 一つは、インタビュアーが「2013年生まれのキム・ジュエが後継者とするには早すぎるのでは」との質問に「私が2021年に米国で会った金正恩の叔母・高容淑(コ・ヨンスク)とその夫の李剛(リ・グァン)の話では金正恩が金正日(キム・ジョンイル)の後継者に公式決定したのは2008年末だが、金正日が正恩を後継者に内定し、側近らに私の後継者になると言い出したのは正恩が満8歳になった1992年1月8日からだ。この時、正恩を称える賛歌『パルコルム』(足音又は足跡)が金正日とその核心側近ら、及び正恩の前で披露され、その場で金正日が『今後、私の後継者は正恩である』と話していた」と語っていたことだ。

幼年時代の金正恩総書記と母親の高容姫(北朝鮮のドキュメント映画から)
幼年時代の金正恩総書記と母親の高容姫(北朝鮮のドキュメント映画から)

 金総書記の叔母・高容淑は2004年5月に乳癌で亡くなった母・高容姫(コ・ヨンヒ)よりも6つ下である。金総書記が兄の正哲(ジョンチョル)の後を追い、1996年にスイスに留学した際には1998年に米国に亡命するまでの約2年間、現地で親代わりとして生活の面倒を見ていた最も近い肉親の一人である。

 高容淑は北朝鮮の宿敵である米国に亡命したこともあって外部に露出されるのを極度に警戒していたが、ほとぼりが冷めたのか、亡命から18年経った2016年5月に米紙「ワシントンポスト」のインタビューに応じ、1度だけ重い口を開いていた。その結果、彼女の証言で金総書記が出生した年が「1983年」ではなく、「1984年」であることが判明した。

 「1983年生まれ」は金正日ファミリーにお抱え料理人として2001年4月まで20年近く仕えていた藤本健二氏が2003年6月に出版した著書で明らかにしたことでそれまでは「定説」となっていたが、高英淑は1984年生まれの根拠について「正恩は私の長男と同じ年に生まれ、生まれた時から一緒に遊んでいたし、おむつも替えてやった」と断言していた。

 もう一つは、「ジュエ後継者説に関連した国家情報機関(国情院)の初動判断がなぜ間違ったのか」との質問に鄭所長は「北朝鮮社会が男尊女卑であるとの考えから女性が最高指導者になれないとの先入観と、正恩の第1子が男の子という判断に誤りがあった。私が把握している限りでは(正恩の)子供は2人で、第1子は2013年生まれのジュエで、それに性別不明の第2子がいるだけだ」と答えていた。

 「国情院」はこれまで金総書記には「2010年生まれの男の子がいる」と国会情報委員会に報告してきた。昨年3月も国会情報委員会に「第1子は息子と把握している」と報告していた。確証はないものの2010年当時に得ていた「フュミント(人的情報)と外国情報機関の情報と一致した」というのが「国情院」の根拠になっていた。

 鄭所長によると、「白頭血統一家を支援する金正日書記室が2010年に海外で男の子用の乳児用品を購入したとの情報に接し、誤判したようだ。金正日書記室は他の一家一族が必要とする物品も購入しており、勘違いしてしまったのではないかと思っている。趙太庸(チョ・テヨン)国情院院長も今月初めに『2013年生まれのジュエの他にも性別不詳の子供がいる』と言っていただけで、息子の話は出なかった。私は金正恩には娘2人しかいないとみている」と語っていた。

 金総書記がスイスのベルン国際学校に留学していた時の同級生、ジョエル・ミカエロ氏は金正恩政権が発足した年の2012年7月と翌2013年4月に2度にわたって金総書記に招待され、訪朝しているが、昨年5月、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)の電話インタビュー(24日)で「金総書記から男の子の話は全く聞かされなかった」と証言していた。

 筆者は昨年5月26日付のこの欄で「崩れた!?『金正恩の第1子は息子』説 第2子とされていた『ジュエ』が第1子ならば、後継者の可能性も」とする見出し記事で2010年第1子説について以下のように疑問を呈していた。

 「李雪主(リ・ソルジュ)夫人は2011年1月の銀河水管弦楽団の新春講演会で『兵士の足跡』という歌を披露していた。また翌2月には中国大使館職員ら平壌駐在の外交官らを招いて銀河水管弦楽団の音楽会が開かれたが、朝鮮中央テレビには『リ・ソルジュ』という名の女性歌手がステージの正面で歌う姿が映しだされていた。ちなみにこの時、李夫人は実に意味深な曲名『まだ言えないわ』を披露していた。即ち、第1子を出産したとされる2010年の時点では李夫人はまだ現役の歌手として舞台に立っていたことになる。後継者になったばかりの正恩氏の妻でもあり、将来跡目を継ぐかもしれない1歳の幼子の母親でありながら果たして歌手との両立が可能だろうかとの疑問が湧く」

 李夫人が金総書記の妻としてお披露目されたのは「ジュエ」が生まれる前年の2012年7月6日に行われた牡丹峰楽団の公演会場で金総書記の隣に座ってからである。牡丹峰楽団が米国映画をバックスクリーンで流し、またディズニーのキャラクターそっくりの着ぐるみが登場するなど異色の公演を披露し、世界に衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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