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コロナ禍2年目の夏、学童保育の奮闘

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

子どもたちの夏休みが明けようとしています。学校再開の可否が議論される中ですが、その間もずっと学童保育は運営されています。コロナ禍となり2年目の夏、学童保育の現場の声をお伝えいたします。

〇2021夏、使命感と共に始まる

7月下旬、今年も夏休みが始まりました。夏休みになると学童保育は朝から開けるようになります。1年で最も忙しい季節の始まりです。

当時の感染者数は全国で4千人前後でした。感染拡大傾向でしたので、怖さはありました。一方で使命感がありました。子どもたちは行事や旅行やキャンプやプールなどが色々と中止になっていますので、せめて学童保育が夏の楽しい居場所になれば!という思いです。不安に勝る使命感と共に夏休みが始まりました。

〇オリンピックと共に

夏休みと同時に東京オリンピックも始まりました。日本勢の活躍は素晴らしく、影響を受けた子どもたちからも「ソフトボールやりたい」「卓球したい」「スケボーやってみたい」という声が聞こえてきました。一方で夏は暑さが悩みの種です。熱中症対策がありますので、思うように外遊びができません。マスクをしながらの環境であればなおさらです。温度計を睨みながら、少しでも気温の低い午前中や夕方に限って外遊びを行う工夫は毎日のこととなりました。

その間も感染は拡大を続け、全国の感染者数は1万人を超え、8月2日には6都府県に緊急事態宣言が拡大されました。

〇クラスターの声が身近に

この頃から保育園や学童保育施設での感染事例が周囲から聞こえてくるようになりました。報道にもある通り、子どもが感染する事例が増えてきていて、クラスター認定されるケースもありました。

どこの施設でも感染症対策の基本は確実に実行されています。しかし一方で子どもたちへの徹底は限界があるのが本音です。子ども同士で距離をとること、マスクをするように注意し続けること、そしてそれを朝から晩まで終日続けることは非常に難しい状況です。まして多くの学童保育は施設的に広くないので、子どもが集まると既に密になってしまいます。利用自粛を保護者にお願いする学童保育も出てきました。

〇ワクチン接種は道半ば

スタッフのワクチン接種は道半ばという印象です。学校や保育園関係者には夏休みの間にワクチン接種を進める取り組みがありますが、学童保育スタッフをその中に含めてくれている自治体とそうでない自治体があります。また、民間の学童保育の多くはその対象になりませんので、スタッフが居住している自治体による通常の接種になります。私の周辺で見る限り、2回目まで打ち終えた学童保育スタッフはまだ半分もいない印象です。この夏休みの間はその状態での綱渡りの運営となりました。スタッフの不安も日に日に増していって、不安が使命感を上回り始めました。

〇緊急事態宣言延長

お盆に入り、子どもの利用数は少し落ち着いてきましたが、感染者数は拡大を続け全国で2万人を超える日が出てきました。8月17日、緊急事態宣言に7府県が追加され9月12日まで延長されました。

夏休みには子どもたちに向けた様々なイベントや夏祭りなどが企画されることが多いですが、そのような企画も次々に中止になっていきました。

「子どもの色々なイベントが中止されているので、学童保育の楽しみが最後の砦と考えて楽しい企画を練ってきたがそれも中止にしてしまって、子どもたちに申し訳ない」そんなスタッフの声も聞こえてきました。

〇2学期以降も不透明

現在心配されているのは2学期以降のことです。学校が予定通り再開するのかが不透明です。実際に遅らせる地域も報道され始めました。学校再開が遅れても、分散登校になっても、いずれも学童保育が対応する状態が続くことになります。学校のギリギリの判断にあわせて動く状況であり、また体力的には夏休みを過ごして既に相当きついものがありますが、一定の覚悟ができているスタッフが多いと思います。エッセンシャルワーカー家庭の子どももいますし、学童保育が心の居場所になっている子どももいるので“開け続けること”“子どもの居場所になること”を大切に考えています。

〇子どもの姿は希望

当の子どもたちはどういう心境でしょうか。ここには実は希望を感じています。子どもは社会の鏡といわれるように、大人や社会の空気が少なからず子どもに反映されます。したがって、子どもからもこの感染症状況によって色々なものが中止になることへの不満の声は聞こえてきます。

一方で、日々の子どもたちの顔を見ていると「普通に楽しそうだ」と思うことも多々あります。実際に子どもに聞いても「その時楽しいことを探すから大丈夫」なんて言ってくれます。色々と制約のある中でも遊びを見つけ、自分たちで能動的に楽しもうとする姿には勇気づけられます。

「みんなキャンプに行けないから」と、小学校内でのキャンプを自ら企画している子どもたちも出てきました。夏休みならではの学校全体でのかくれんぼ、夕暮れの校庭での映画会などを企画して楽しみにしている姿はとても頼もしいものです。社会が苦しい時には子どもの前向きな姿に勇気づけられます。

〇まとめ

コロナ禍2年目の夏、このように学童保育スタッフは使命感を持って頑張って乗り切ってまいりました。私たち組織も昨年からずっと“準最前線”という言葉を使っています。最前線で頑張る医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーの皆さんを支えるために、彼らの子どもたちが安心して過ごせる場を作り続けることで、私たちも社会に貢献したい気持ちです。

学童保育、保育園スタッフの皆さんが夏の間ずっとそんな気持ちで頑張っていることが伝わり、社会の皆さんの応援の声が増えれば何より嬉しく思います。

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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