自動運転に必須と言われたLiDARは、不要のデバイスと化したのか?
今年1月の展示会「オートモーティブワールド2023」を取材していた時に感じたことがある。それはLiDAR(レーザースキャナー=赤外線レーザーで障害物の検知を行う装置)メーカーの出展が極端に減ったことだ。こうした自動車技術関連の展示会では、これまで中国や米国のLiDARを扱う企業がいくつも出展し、性能や機能、価格などで特徴を競い合っていたものだ。
ところが今年は、そんなLiDARの展示がほとんど見られなかった。以前は中国系のベンチャーが5、6社はあった印象だが、今年はほとんど見つからない。LiDAR単体での展示は1、2社、それもコンチネンタルとそのパートナーであるA Eye社が目立ったくらいだ。
仕事の都合で取材時間が足りない中、興味のある展示物については説明員にじっくりと話を聞いていたため、ますます時間が足りず、最後は駆け足で目ぼしいエリアを通り抜けた。そのため会場内で見落としがあったかもしれないが、それでも明らかにこれまでよりLiDARの展示は減っていた。
その後、首都圏の自動車技術関連の展示会でも同様の印象が続いている。なぜLiDARの展示は減ったのか、考えられる原因は大きく分けて3つある。一つはLiDARのコストがネックとなり、車載の機会が減少しているのでは、と思われるものだ。
テスラは値下げでライバルを蹴落とすためコスト圧縮へ?
テスラのCEO、イーロンマスク氏はテスラ車の運転支援装置に用いるセンサーについて、レーダーを廃してカメラシステムだけで検知させるようにすると宣言し、それを実行させた。これはシステムを簡素化させても同じ制御部を使うことにより、緻密で迅速な制御が可能になるというメリットがある。
だが、それよりもマスク氏はテスラの生産コストを下げたかっただけなのではないだろうか。炭素クレジットビジネスの終わりが見えつつある昨今、他メーカーの電動化が進んでクレジット収入が減少することに備えて、EV自体の収益率を高めたいのだろうか。
そもそもマスク氏は高価なLiDARを搭載することには否定的な考えを表明している。画像解析が得意なAIをフル活用することで、カメラのみでの自動運転を成し遂げようというのだ。だが、それはユーザーカーのビッグデータを利用することでもあり、β版のソフトウェアをユーザーに試させて開発に繋げるのは、従来の自動車メーカーにはできない芸当だろう。
2つめはコロナ禍の渡航制限が出展に影響を与えた、というものだ。しかしオートモーティブワールド2023には中国の他の企業は出展している。もちろんコロナの影響はゼロではないだろうが、LiDARの企業のみが減少している印象なのはそれが原因とは考えにくい。
LiDARの乗用車の普及への道はまだまだ遠い?
そうなると残る原因は一つ、市場が飽和状態にあり新規顧客獲得のチャンスが乏しいため、出展しても回収が見込めないから見合わせるというパターンだ。
市販車ではLiDARを装備しているクルマはまだ数えるほどしかなく、日本車ではレクサスLSとトヨタMIRAI、ホンダ・レジェンドのホンダセンシングエリート搭載車くらいのもので、欧州車でもボルボやアウディ、メルセデス・ベンツの最上級クラスの車両が採用している程度だ。
2018年にアウディがA8に搭載した当初、LiDARだけでコンパクトカー1台分の価格だと言われたものだ。そこからコストダウンやベンチャーの乱立によりLiDARの価格はグングンと下がっていったが、車載用として実際に使えるLiDARは高性能化も求められるため、二極化したようにも見える。
レベル4の乗用車導入は相当先になる
最新のトレンドはルーフに取り付けられる薄型幅広タイプで、できる限り高い位置からセンシングすることで、遠くや路面の状況を捉えやすいというメリットがある。これには赤外線でも網膜を攻撃しない波長であることも重要な要素となる。
こうやって考えると、やはり重要なカスタマーはすでに大手が抑えており、現在は寡占状態にあるとも言えそうだ。乗用車への自動運転の搭載は、なかなか進まない。それはレベル3ではユーザーのメリットはそれほど大きくなく、自動車メーカーにとってもリスクが増える上に、利益へと結びつきにくいのが現状だからだろう。
フラッグシップモデルに搭載し、技術力をアピールしてブランドの先進性をイメージさせるのが、現時点でのレベル3技術の役割だ。残念ながら乗用車へのレベル4の実用化はまだまだ果てしなく遠い。
それまでの間にLiDARは進化し、コストも圧縮させていくのか。それともマスク氏が言うように、AIがカメラ画像だけで判断するようになるのか(夜間や悪天候、光の反射などはどう解決する?)。デバイス一つ取っても興味をそそられるのが自動運転分野なのである。
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