子どもたちはなぜ学校給食を残すのか?「残すな」「残せ」より、なぜ残すのか裏側を見る必要があるのでは?
2018年11月6日付の東洋経済オンラインに掲載された学校給食は「残すな」より「食べ残せ」が正しい 完食指導が学校嫌いとメタボを引き起こすという記事にたくさんのコメントが書かれていた。食品ロスを無くすために完食を強要するのはおかしい、という、給食の量と質の面について言及した内容だった。記事に対して賛同の意見もあれば、「残せというのは強過ぎる表現では」という意見もあった。
量が多過ぎるのは大人もつらい!
確かに、量が多過ぎるのは、子どもだけでなく、大人もつらい。機内食などで、肉とご飯の定食に加えてパンも出ることがある。10時間以上も動かないで定位置に座っていて食欲もたいしてないのに、機体も揺れる中、たくさん出されるのは、つらい。かと言って、一人一人の量を変えるのも無理な話だから、せめて最小限の量にして欲しいと、いつも思う。
筆者の場合、食品ロスをテーマにした講演に呼ばれると、楽屋で昼食を準備されることがある。その量が多過ぎると、苦痛だ。テーマがテーマだけに食べ残しづらい・・・。
小・中学生が給食を残す理由の60%以上が「嫌いなものがあるから」
ここで学校給食に関する調査を見てみる。独立行政法人日本スポーツ振興センターが実施した、平成22年度の児童生徒の食事状況等調査報告書【食生活実態調査編】によれば、小・中学生とも、給食を食べ残す理由のうち、最も多いのが「きらいなものがあるから」で60%以上となっている。
次いで、「量が多すぎるから」「給食時間が短いから」などが挙がってくる。
平成17年度の同様の調査結果でも、同じような結果となっている。
嫌いな食べ物のトップ3は「野菜」「サラダ」「魚介類」
では、子どもたちは、学校給食で出される、どんな食べ物が嫌いなのだろうか。
「給食で嫌いな食べ物」(独立行政法人日本スポーツ振興センター 平成22年度の児童の食事状況等調査報告書【食生活実態調査編】)によれば、小・中学生とも、野菜・サラダ・魚介類がトップ3だ。
2018年7月16日付の日本経済新聞の記事に掲載された、小学校の教員対象の調査(トレンド総研による)でも、食べ残しが多い献立・食材を複数回答で質問した結果、「野菜のメニュー」が85%でトップになっている。次いで「魚のメニュー」(46%)、「海藻のメニュー」(36%)が多く、肉やデザートはほとんど挙がらなかった。10年前と比較して「給食の食べ残しが増えたと思う」が66%、「10年前と比べて偏食の児童は増えていると思う」も79%あった。
好きな食べ物のトップ3は「カレーライス」「パン」「めん」
前述の、独立行政法人日本スポーツ振興センター 平成22年度の児童の食事状況等調査報告書【食生活実態調査編】には、学校給食で出される食べ物のうち、好きな食べ物の順位も載っている。トップ3が、小・中学生とも、カレーライス・パン・めん。次いでデザート、揚げ物と続いている。
子どもたちの好きな食べ物だけを食べていていいのか
こうして見てみると、単純に「嫌いだから残す」「好きだから食べる」で済ませられないように見える。なぜなら、子どもたちが好きな食べ物の多くが、炭水化物をメインにしたものだからだ。しかも、どれも、さほど咀嚼しなくても食べやすいもの。食物繊維が少ない。炭水化物は必要だが、こればかりに偏ってはだめだろう。
逆に、嫌いな野菜類は、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素や、食物繊維を含んでいる。身体の調子を整える上では重要な栄養素を含む食べ物だ。
教員が、給食を生徒に「吐くまで食べさせた」という報道もあったが、これは論外だろう。心身の健康のために「食べる」のに、無理して食べることで健康が害されるのは、おかしい。量は無理しなくてもいい。ただ、食べ残しの主な理由が「嫌いだから」なのであれば、子どもたちの「嫌い」が、なぜ嫌いなのかの原因を知り、解消する努力はできるのではないだろうか。「嫌い」の理由が、ただの「食わず嫌い」なのか、調理方法によるものなのか、など。理由によっては、大人の工夫で子どもが食べられるようになることもできるのではないだろうか。
大人の工夫で子どもたちが食べるようになった事例(1)足立区の「おいしい給食」
工夫して食べるようになった事例の一つが、東京都足立区の「おいしい給食」だ。平成20年(2008年)から10年間、継続している。
足立区の「おいしい給食」は、子どもたちの好きなものだけをメニューにするものではない。給食の食材を提供している生産者や、給食を作っている調理師に対する感謝の気持ちを持ってもらい、いろんな食材をバランスよく食べることの大切さを学び、栄養に関する基礎的な知識などを子どもたちに学んでもらい、おいしく感じる給食を提供したい、という思いから始まっている。
たとえば、足立区の農家の方が学校を訪問し、足立区で採れる小松菜を使った給食を一緒に食べたり、小松菜の育て方や特長などを話したりしている(書籍『東京・足立区の給食』より)。
あるいは、足立区と友好関係のある新潟県魚沼市で、足立区内の中学生が田植えや稲刈りを体験し、自分たちで収穫したコシヒカリを食べる「魚沼産コシヒカリ給食」など。
その結果、平成20年(2008年)には小・中学校106校の食べ残しが10.6%あったのが、平成28年(2016年)には4.2%まで下がっている。
大人の工夫で子どもたちが食べるようになった事例(2)牛乳を生み出す牛と触れ合う
2つ目の事例として、東京都内の学校給食の栄養士が、小学校に牛一頭を連れてきて食育授業をやった事例が挙げられる。搾乳をしたり、牛に触れてみたり、牛の血液から牛乳ができていることを学んだりした結果、牛乳の飲み残しが激減した。
どこの学校ででもできることではないかもしれないが、牛の命に触れたことで、牛乳への見方が変わったことが影響しているだろう。
大人の工夫で子どもたちが食べるようになった事例(3)長野県松本市の環境教育
長野県松本市では、環境省事業の一環として、環境教育を行った小学校と、行わない小学校とで、学校給食の食べ残しの違いを比較する実証実験を行った。その結果、環境教育を行った小学校の方で、食べ残しが減る結果となった。
環境省は、毎年、この事業を実施している。
環境省平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物3R促進モデル事業報告「食品ロスと子どもの教育」
大人の工夫で子どもたちが食べるようになった事例(4)食べ物の5色を学ぶ
筆者の事例で恐縮だが、全国の小学校での授業で「赤い食べ物は?」「黄色は?」など、5色のそれぞれの色について、食べ物を考えてもらったことがあった。そうすると、「今日の学校給食には何色と何色があった」など、関心を持つようになることがあった。
赤・黄・白・緑・黒の5つを食卓に揃えると、栄養のバランスが取れるようになる、というものだ。ヘルシーピット代表取締役で管理栄養士の杉本恵子先生に教えていただいた。ビタミンやミネラルなどは小学生には難しい。緑や黒の食べ物にはビタミンやミネラルが多く、こういう色の食べ物を摂るといいよ、と「色」で食育を行う方式だ。
大人の工夫で子どもたちが食べるようになった事例(5)家で余っている食べ物の理由を学ぶ
これも筆者の事例で、宮城県石巻市立和渕(わぶち)小学校で、家で余っている食べ物を持ってきてもらい、その理由を発表してもらい、「日本には食べ物に困っている人がいるので、これを役立ててもらう」という授業をやったことがあった。
いわゆる「フードドライブ」を学校で実施した形だ。子どもたちは、余っている理由について「お父さんがピクルスの瓶を2個500円で買ってきて、お母さんも、2個500円で買ってきて、家に4個も溜まっちゃったから持ってきた」とか、「妹が、レトルトカレーについてるおまけのシールを集めてて、シールだけ使ってカレーが余った」などと発表した。
学校では、子どもたちと一緒に給食を食べた。
今の給食は、一食あたり250円くらいの予算で献立が作られている。その上、栄養バランスを考えるので、大変だ。
学校給食「しか」食べられない子どもがいる
冒頭の記事の主旨は、「食事量が多過ぎるのは弊害」という内容だったが、日本国内には、逆に、学校給食が、唯一の一日の食事という子どもがいる。筆者はフードバンクに務めている時、たくさんの例を目の当たりにした。そういう子どもたちは、夏休みなどの長期休暇が明けると、痩せている。唯一の食事である給食が食べられないからだ。
「そういう子どもは、まれだ」という意見には、少し古いが、このデータも提示したい。一般家庭で暮らしている小学4〜6年生100名を対象に、食事調査を行った結果、一日の食事の中で最もエネルギー源となっていたのが学校給食(35%)だった。全体の摂取エネルギー量は必要量に充足していなかったというものである(日本ケロッグ調査による)。一日の食事が必要量に充足していない上、頼みの綱が「学校給食だった」という結果である。
見えない部分を見る必要があるのでは?
目に見える「給食を残す」という裏側の目に見えない部分には、好き嫌いや量の問題だけではなく、学校側・子ども側の両面に、多様な要因が潜んでいるのではないだろうか。前述のアンケートで子どもたちが答えた回答も、準備された選択肢から選んだだけで、調査の選択肢にはない答えがあったかもしれない。家族が喧嘩している、いじめを受けているなどの理由でストレスがあって食べられない子どもだっているかもしれない。
学校給食は、一律に「残すな」とも「残せ」とも言えず、「残す」裏側にはどのような要因があるのかを見る必要があるのではないか。単純に一括りにはできないというのが筆者の考えである。