環境省平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物3R促進モデル事業報告「食品ロスと子どもの教育」
学校給食で発生する残渣は児童1人あたり年間17.2キログラムにも及ぶ。環境省は「平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業」を実施した。その報告会が開催されたので聴講し、筆者なりにまとめてレポートしたい。
プログラム概要は下記の通り。
1、開催日時
2018年(平成30年)2月26日(月)13:30〜16:00
2、場所
フクラシア品川(JR品川駅高輪口から徒歩4分)
東京都港区高輪3-25-33 長田ビル6階
3、報告会テーマ
食品ロスと子どもの教育 食育・環境教育を始めるには?効果的な取組とは?
4、プログラム
13:30〜13:35 開催挨拶(環境省)
13:35〜14:25 基調講演「子どもたちの暮らしが変わる確かな食育・環境教育」
武庫川女子大学 文学部教育学科 専任講師 藤本勇二氏
14:25〜14:40 モデル事業報告1
「学校から始める食品ロス削減の輪 『ごみへらし隊』『給食支援隊』の取組など」
山梨県甲府市 環境部 廃棄物対策室 減量課
山梨県甲府市 教育委員会 教育部 教育総室 学事課
14:40〜14:55 モデル事業報告2
「リデュース ザ 食べ残し 〜小学校での10の取組と効果〜」
京都府宇治市 市民環境部 ごみ減量推進課
14:55〜15:00 休憩
15:00〜15:15 先進事例
「小学生を対象とした環境教育事業 〜モデル事業を市内全校実施へ〜」
長野県松本市 環境部 環境政策課 課長 三沢眞二氏
15:15〜16:00 質疑応答・パネルディスカッション
「食育・環境教育を始める工夫とは?効果的な授業・取組とは?」
<パネラー>
武庫川女子大学 文学部教育学科 専任講師 藤本勇二氏
山梨県甲府市 環境部 減量課 課長 萩原貫二氏
京都府宇治市 市民環境部 ごみ減量推進課 中田茂樹氏
長野県松本市 環境部 環境政策課 課長 三沢眞二氏
環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室 鈴木弘幸氏
<進行>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 松岡夏子氏
16:00 閉会
16:00-17:00 平成30年度モデル事業相談会(自治体関係希望者のみ)
5、主催等
主催:環境省
事務局:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
環境省 平成30年1月18日 報道発表資料 平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業報告会「食品ロスと子どもの教育」の開催について
まず、環境省・環境大臣政務官の武部新(たけべ・あらた)氏より挨拶があった。
次に、武庫川女子大学文学部教育学科専任講師の藤本勇二氏が基調講演「子どもたちの暮らしが変わる確かな食育・環境教育」を行なった。
食品ロス削減では、実行コストをどれだけ引き受けられるか、ということ。子どもたちが学んだことが、変わることにつながる、ということ。
教育をすれば、知識はつく。でも、知識だけでなく、態度を育てることが重要。態度をきちんと育てることによって、行動へと転化する大きな可能性が生まれる。短い授業時間ではなかなか変わらないが、子どもたちに、小さな気づきや問いを生むことはできる。
暮らし学習における3つのアプローチは次の通りである(上智大学の奈須正裕氏の言葉を元に)
知識の教授や体験の提供
しつけによる行動調整
主体による思考の欠如からは、暮らしは変わらない
野菜を育てたら、食品ロスは確実に減る。でも、みんなが野菜を育てられるわけではない。そこで、(授業を通して)子どもたちから問いを引き出す。
「食育の教科書」の中で、食文化や食の社会性、食の自給率や食品ロスが最も重要だと考えている。
食品ロス削減国民運動のキャラクター「ろすのん」を使うなら、ただキャラクターの説明をするだけでなく、子どもの主体性を引き出すこと。たとえば「ろすのんを見て、気が付いたことを3つ挙げよう」と問いかけると、三年生から六年生までで、子どもたちの反応は違う。
人の判断には濃淡があり、それ(違い)を受け入れることが大事。同じことでも、反応が濃い子たちと薄い子たちがいる。水戸黄門のように印籠を渡すのでなく、子どもたちに「私は、様々なデータをみると、こう思うよ」「どう思う?」と問いかける。
食品ロスばっかりだと暑苦しくなる。食品の問題は、あらゆるところから入っていった方がいいと思う。子どもたちに問いを持たせること。学校でやっていることが、地域や家庭を変えていく、という点が大事。
食品ロスそのものを教えるのでなく、子どもたちが食品ロスに自然と向き合うように(授業で)することが大事。
問いと気づきが生まれる素材を見つける
思考のための活動を作る
見えないものを見えるようにする
たとえば「お米でできる食べ物を見つけてください」と子どもたちに問いかける。
お餅、お団子、お赤飯、お酒、お煎餅、おいなりさん・・・
大事なものには「お」がつくということ。お米が古くから日本人に親しまれてきたこと。お米への感謝や尊敬の気持ちの表れであることを教えることができる。
教えたいことをそのまま剥き身(で伝える)と、(子どもは)受け取れない。
食品ロスとは「想像力」の問題。誰が作ってくれたかわからないから、ぞんざいになる。
専門家は一方的に「おせち」を教える。でも我々小学校の先生は、子どもたちに「おせち」の白い絵を渡して、それに色ぬりをさせる。”フック”を見つけることが大事。
「食品ロスは子どもが絶対だめだと思っているんでしょうか?」という問いから始めること。
子どもが生まれながらにして持っている「学びのメカニズム」を大事にすること。
教育の営みの原点「子どもの視点に立つということ」。
大人が熱く語ることには意味がある。専門家が熱く言うことも大事。だけど、子どもに届かないこともある。「食品ロス」に、名前のある大人が何人いたかどうか。子どもの態度を育ててあげることでそれは環境配慮行動につながる。
子どもの行動変容のためには、質のいい問題解決や体験活動、実感と手応えを感じてもらうこと。
次に、モデル事業報告1を行なった。
「学校から始める食品ロス削減の輪 〜『ごみへらし隊』『給食支援隊』の取組など〜」
山梨県甲府市環境部廃棄物対策室減量課
山梨県甲府市教育委員会教育部教育総室学事課
給食からのごみ発生量(平成28年度)は、年間131トン。うち食べ残しは3割を超える44トン。これを一人あたりに換算すると、食べ残しは約4.8キログラム/年。
「ごみへらし隊」は職員3名(今年からは4名)で、自治会への出前講座や、幼児・小学生を対象に、エコ工作教室などを行なっている。
また、給食支援員といって、平成29年3月まで給食調理員を経験していた職員2名が、子どもが喜ぶ飾り切りなど調理の工夫や、児童とのコミュニケーションを通して食育を啓発してきた。
食べ残しが少ないメニューは、普段からレストランで食べているメニューで、たとえばカレー、ビビンバ、麺類、ハンバーグ、唐揚げなど。
食べ残しが多いのは、焼き魚や煮物、酢の物などの和食メニューだった。
食べ残しを減らすために、1、好き嫌いをなくし、2、給食時間を確保し、3、自分の食べられる量を知り、4、感謝の気持ちを伝えることができるようにした。
その結果、取組を行ったA小学校では、食べ残しが最大で65%削減できた。
もともと少なかったB小学校でも、以前よりも食べ残しが削減できた。
食べ残しの堆肥化は、次の3つの方法で行なった。
1、登録再生利用事業者によるもの
2、しんぶんコンポストキット
3、液肥化
合計で5.9トンを堆肥化することができた。
堆肥化に協力した児童を「ごみへらし隊」に任命し、隊員証を交付した。
夏休みには、親子向けの「学んで減らそう!食品ロス」のイベントや、親子料理教室を開催した。その様子は全国紙・地元紙など3紙に掲載され、親子からも好意的な意見が得られた。このイベントを通して、食品ロスに対する認知度が高まり、取組が意欲的になった。
今後は、新たな学校で残渣量の調査や堆肥化を実施予定。
次に、モデル事業報告2の紹介を行なった。
「リデュース ザ 食べ残し 〜小学校での10の取組と効果〜」
京都府宇治市 市民環境部ごみ減量推進課
宇治市の家庭系ごみひとり一日あたりの排出量は、平成28年度が447g。平成30年度にはこれを416gまで減らすことを目標としている。
昨年度にも同じ事業を実施し、A校では、食べきり週間を実施した学年で、約72%の食べ残し削減、B校では約37%の食べ残し削減が実施できた。教材を全校配布した6校では平均69%の削減と、ある一定の効果が確認できた。しかし、取組が終わるとまた食べ残し量が元に戻ってしまうなど、課題もあった。そこで、今年度はその課題も踏まえての事業取り組みとした。
5校で実施するにあたり、メインの取組3つとサブの取組3つとに分類し、食べ残し削減に繋げるような内容にした。
その結果、準備時間を減らして喫食時間を増やす取組では、食べ残しが65%削減でき、昨年度に続き、高い効果が得られた。
給食学習会や給食交流会の実施でも、40%削減が実現できた。
市民啓発のための啓発イベントでは、アンケートの結果、来場者1,000名のうちの96%が「食品ロスを減らそうと思った」と回答した。
昨年度に比べて、より多くの学校や学年で取組を実施し、よい結果が得られた。
将来的には全校での実施を目指し、食べ残しが多い学校を重点的に取組を実施すべきと考えている。
休憩をはさんでの後半の部では、先進事例「小学生を対象とした環境教育事業 〜モデル事業を市内全校実施へ〜」を、長野県松本市 環境部 環境政策課 課長 三沢眞二氏から発表された。
平成27年度は、食べ残し量の調査、小学校での環境教育、保護者に対する意識調査の3つを行なった。
環境教育を行なったA校では34%食べ残しが削減、B校では17%削減した。一方、行わなかったC校では11%増えた。
保護者に対する意識変化調査の結果、A校、B校共に、親に話をした割合は三年生がもっとも高いという結果が得られた。そこで松本市内全小学校三年生を対象に、継続的に環境教育を行なうこととした。
保育園の園児に対しては、平成24年度から全公立の保育園・幼稚園46園で、ダンスを交えての参加型・楽しい形での環境教育を行なってきた。
平成28年度は、小学校の環境教育、保護者に対する意識変化調査に加え、担任の先生に対する意識変化調査という3本の柱で実施した。環境教育の工夫として、マイクやプロジェクターなど必要な機材を市職員が持参し、学校教員の負担を軽減した。
環境教育のプログラム内容、スタート当初は、少し説教くさい部分もあったが、いまは、もっと柔らかく、子どもたちに考えてもらう、わかりやすい内容にブラッシュアップされている。たとえばお店では「すぐ食べるなら、商品棚の手前の方から取ったらどう?」と子どもに問いかけるような内容。そのほか、30・10(さんまるいちまる)運動応援ソングや、レシピ・冊子なども担任の先生経由で配布してもらい、活用してきた。
家庭で話をする年代への環境教育は、家庭への波及効果が高いことが調査からわかった。
今後も、園児や小学校三年生を対象に、環境教育を継続して行なっていく。小学校高学年や中学生への拡大として、環境教育用のDVD教材を作成しているところ。「自給率」などの課題は最後に出てくるようにして、誰が作っているのか、などを先に伝えるような工夫をしている。
最後にパネルディスカッションを行なった。
「食育・環境教育を始める工夫とは?効果的な授業・取組とは?」
<パネラー>
武庫川女子大学 文学部教育学科 専任講師 藤本勇二氏
山梨県甲府市 環境部 減量課 課長 萩原貫二氏
京都府宇治市 市民環境部 ごみ減量推進課 中田茂樹氏
長野県松本市 環境部 環境政策課 課長 三沢眞二氏
環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室 鈴木弘幸氏
<進行>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 松岡夏子氏
藤本氏
宇治市
Q&Aコーナー
Q 甲府市へ
食べ残しが65%減ったとのこと。「リサイクルしてるから食べ残してもいいよね」という子どもからの意見にどう対処しているか?
A
確かにそういう意見はあった。かつて、学校給食の栄養士をしていたことのある、給食支援員さんが、そうじゃないんだよ、というふうに説明して(解決して)いった。
Q甲府市へ
食べ残し、平成28年度と29年度とで、メニューはどうだったのか?変わったのか?同じだったのか。
A
献立は、毎年、特には変わらない。完全にメニューは一緒ではないが。
Q 藤本先生へ
「給食の向こう側」とはどういう意味?
A
誰が作っているのか?誰が運んでいるのか?を伝えるということ。
たとえば、農産物が学校まで運ばれてくるビデオを、逆回しにして子どもたちに見せる。
米粉を使って、パン屋さんと協働で、パンを販売しようとしている。
地域に出かけていって、作っているところ(生産地)まで出かけていく。自分が作った人参は食べる、というのと一緒。
Q全員へ
これから始めたい自治体、取り組みたいけど関係者と連携できないからできない。環境部局、教育委員会の壁や、保護者からのクレームなど、連携が難しい。連携のとき工夫したことは?学校へ負担かけない工夫、など・・・。
A 甲府市
それぞれの学校に1から2時限ずつ取ってもらおうと思ったら、カリキュラムがすでに詰まっていて(そこに入り込むのは)大変だった。校長は前向きであっても、実現は難しい。給食の時間ならば空いている、ということで、給食の時間を活用していった。押し付けではなく、食べ残しが自然になくなるようにした。親御さんからのクレームはなかった。
A宇治市
もともと環境教育をやっていたので、その点ではアドバンテージ(優位性)があった。カリキュラムいっぱい。新年度の校長会や。今ある総合学習の時間や、四年生のごみの時間、調理実習の時間を活用していった。担当者とだけ話すのではなく、校長も含めてすべての人とコミュニケーションを取っていくこと。いろんな取組方法を準備した。保護者からのクレームは、子どもの嫌いなものを食べさせられることなので、食べ残しを出すな、ではなく、体調もあるので、無理ない範囲で、と投げかけた。「この子のせいで(食べ残しが増えた)」などという個人攻撃はしない。
A松本市
松本市は、健康推進課が食育を担当している。そこに、農政、商工、観光、さまざまな部署。意見交換しながら取り組んでいる。平成27年度は、学校給食課、の協力を得られた。部局横断。子どもたちに強要するのはNG。食べろを強要するのでなく、楽しく食べる。別な方向で言って欲しいというアドバイスを受けてきた。
A藤本先生
学校は保守的。初期投資大変だけど、そこで頑張る。
宇治市は戦略的。マッチングをさせることは大事。相手のやりたいこと。食品ロスをやることのメリットを伝えることが大事。12月にプレゼンする。一生懸命やっている、忙しそうな先生に頼む。頑張ってる人に振り向かせる。ぼーっとしてる先生ではなく。
Q全員に
どうしたら効果を持続させられるのか。態度を見ていくことなのか。より大きな効果を生み出すには?その事業は何のためにやってるんですか?コストも人員も制限される中、取組を維持するためには。
A甲府市
給食支援士が行なった取組。完食したときに花をつける。最後は満開になる。模造紙で作った枯れ木に。目に見えて効果がわかる。
食べる、ごみを出すのは毎日、習慣的にやっていることなので、クセにさせること。考えるときには、家庭。保護者、親御さんがどういうことをしているか。ごみの量をはかるとき、生ごみをぎゅっと絞れば水が減る。学校の取組を家庭に波及させて、家庭でも効果を出していく。
A宇治市
四年生が97%、減りました。食べ残し減らすポスターづくりを先生がやったりして、食べ残し減らす取組が続いている。先生に、減らす意義、メリットを感じてもらい、継続的に学校に働きかけていくこと。
A松本市
小学校30校、保育園50園で、環境教育をやっている。議員さんの視察も多い。自治体の講演に行くと、こんなこと、無理ではないか?という空気になる。でも、何かを始めてみないとわからない。今はプログラム化して、負担も軽くなっている。人数の少ないところで工夫していく。平成24年からやっていて、小学校三年生は、保育園に次いで、2度目。忘れていたけど、またやってよかった。もっと上の学年でもしてほしい。
A藤本先生
松本市の例、間口を広くすることは、とても大事。食品ロスの持っている要素のさまざまな深さを持っておくことが大事。子どもが参画すること。
教員研修。大事。学校は、その本人に仕事がついていく。自治体は、部署で仕事しているので、そのメリットを活かすべき。
進行役からは、「次年度もモデル事業は続けられる予定。大変なところを簡単にすることで全国に広がることが期待される」という言葉があり、締められた。
最後に、主催者を代表して、環境省 環境再生・資源循環局 総務課 リサイクル推進室の鈴木弘幸氏より、閉会の挨拶があった。
以上、拙いレポートだが、参加できなかった人の参考になれば有難い。
筆者も、2月28日に東京都主催の南多摩食育シンポジウム(於:八王子クリエイトホール)で学校給食の関係者へ食品ロスについての基調講演とパネルディスカッションのファシリテーションを行なう予定なので、今日の学びを28日の参加者にも伝えたいと思う。
参考資料: