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スーパーで牛乳欠品の裏で一人年間牛乳83本分の給食が廃棄 飲み残しを無くした学校栄養士の取り組みとは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2018年9月6日に発生した北海道の地震により、首都圏のスーパーで牛乳が欠品する可能性が報道されている(2018年9月10日11:26am報道、TBS Newsより)。

停電で工場の稼働が止まり、生乳の供給が一時的に停止したため、大手乳業メーカーは首都圏のスーパーに欠品の可能性を報告し始めたという。9月から再開する学校給食用を優先しているためだそうだ。

大手乳業メーカーの明治は、一部のチーズや牛乳など4製品の販売停止について、取引先である量販店に通知を始めた(2018年9月11日付毎日新聞東京版朝刊2面)。首都圏で100店以上を展開する中堅スーパーは「一部商品が入荷できない」と客への告知を店頭に貼り出した(2018年9月8日付朝日新聞東京版朝刊3面)。

環境省「学校給食で一人年間17.2kgの食品廃棄物が発生」

学校給食用の牛乳が優先される反面、学校給食の現場では食べ残しや飲み残しによる残渣が発生している。環境省によれば、一人あたり、年間17.2kgの食品廃棄物が発生している(学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について(お知らせ)平成27年4月28日付、環境省発表)。

児童・生徒1人当たりの年間の食品廃棄物発生量(平成25年度推計)(環境省、平成27年4月28日発表資料より)
児童・生徒1人当たりの年間の食品廃棄物発生量(平成25年度推計)(環境省、平成27年4月28日発表資料より)

給食残渣を牛乳200mlに換算すると「児童・生徒一人あたり年間83本分」

この「一人あたり年間17.2kg」という量は、想像しづらい。そこで、わかりやすくするために、牛乳1本(200ml)の重さに換算してみると、およそ83本になる。(牛乳は水よりも約1.032倍重いので、200×1.032で、牛乳200mlは206.4グラム)児童・生徒一人あたり、年間で牛乳83本分に相当する食べ物が捨てられていることになる。

政府は、国民一人一日あたりの食品ロス量(139g/人日)を「ご飯一膳」という表現にしている。この換算でいくと、「児童・生徒一人あたり、一年間にご飯123膳分の学校給食を捨てている」という表現になる。牛乳1本分やご飯一膳分にたとえた方が、「年間17.2kg」より、具体的に想像しやすい。

東大阪市の調査によれば「12校で年間27,392本の牛乳が廃棄」

大阪府東大阪市が2018年6月に12校(約5077人)の児童を対象に実施した調査では、1週間に残った給食の量は、パン約749個分、牛乳約706本分、ごはん約80kg、おかず約347kgと発表されている。

大阪府東大阪市が2018年6月に実施した学校給食の残渣調査
大阪府東大阪市が2018年6月に実施した学校給食の残渣調査

東大阪市の学校給食は平成30年度で年間194日間実施されるとのこと、1週間を5日と考えると、およそ39週。単純計算で、年間27,392本の牛乳が捨てられている。

環境省は毎年「学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業」実施

このように、学校給食の現場では、食べ残しなどによる残渣は課題となっており、環境省が毎年、「学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業」を実施し、全国から参加校を募り、できる限りのロスを減らす取り組みが続けられている。2018年度は静岡県藤枝市の取り組みなどが採択される(2018年7月17日付 静岡新聞朝刊1面より)。

学校栄養士が牛乳残渣をほぼゼロにした取り組みとは?

知人の学校給食の女性栄養士は、小学校に、生きている牛を一頭連れて来た。子どもたちに搾乳をさせたり、牛で出来ているもの(ランドセルやベルト、バッグなど)を持ちより牛の命から頂いているものを学んだりした。牛乳は牛の血液からできていることを知るため、栄養士は、赤い絵の具を溶いた水をペットボトル200本用意し、「牛の血液からできている」ということを子どもたちに伝えた。

その結果、牛乳の残渣はほとんどなくなったそうだ。

彼女は、他にも、台風の被害を受け落下したりんごをあえて発注したり、子どもたちにゴボウ掘りの体験をさせ、それを給食に使ったりなど、自然から食べ物を頂いていることを、学校給食を通して伝えていた。

現在ではすでに退職しているが、当時は、もはや「食育」だけにとどまらない、「生きる力育て」と称したいくらいの熱意で、周りの先生や子どもたちを動かし、成果を出していた。それは、食べ物が命そのものであることを、言葉だけでなく、子どもたち自身に体感させたからではないだろうか。

長野県松本市では環境教育を行った小学校で残渣が減った

長野県松本市では、環境教育を実施した小学校と、実施しない小学校とで、学校給食の残渣がどう変わるかを調査した。その結果、実施した小学校では2校とも減り、実施しない小学校では逆に増える結果となった。

2016年10月17日、川口市で開催された「食品ロス削減シンポジウム」で長野県松本市の発表資料より(長野県松本市より提供)
2016年10月17日、川口市で開催された「食品ロス削減シンポジウム」で長野県松本市の発表資料より(長野県松本市より提供)

食べ物が命から成り立っていることを学ぶ

台風や地震の被害により、全国で、農産物などが「規格外」となり、出荷できなくなっている。しかし、これからも、自然災害はなくならないし、防ぐことはできても被害をゼロにするのは無理な話だ。

食べられるものを無駄にしないためには、子どもたちへの食教育や、食と農との距離を近づけることが求められる。食べ物がモノではなく、命であることを体感しなければ、「いただきます」という心からの言葉は言えないだろう。

2018年9月11日の朝に報道されたNHK「おはよう日本」では、自然災害により規格外となる農産物が20%から30%に及んでいる農家の苦悩が紹介された。厳格過ぎる規格についても、見直しが必要な時機ではないだろうか。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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