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知られざる超高層階あるある 羽田・新飛行ルートの爆音を気にしない理由

櫻井幸雄住宅評論家
都心部を通る飛行ルートで、超高層マンション上層階は騒音に悩まされそうだが……。(写真:アフロ)

 3月29日から予定されている羽田空港の新飛行ルート運用が間近に迫ってきた。

 新飛行ルートは、都心部を通ることになっており、ルート下のエリアでは飛行機の騒音によって不動産価格が下がるのではないか、という懸念が生じている。

 特に、地上150メートル以上になることもある超高層マンション最上階では、飛行機通過時に爆音に悩まされそう……ところが、超高層マンションの上層階に「飛行反対」といった垂れ幕は出ていない。そして、飛行ルートに近い港区内の超高層マンション最上階住戸の売れ行きも落ちていない。

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 その背景として、あまり知られていない事実がある。それは、「もともと、超高層の上層階は静かではない」ということ。ときに、びっくりするくらいうるさいこともある。以下、30階以上の住戸をいくつも取材し、実際に住んだ経験から得た「超高層マンション上層階における音の実状」を紹介したい。

都心の超高層マンションでバルコニーに出ると

 高さ60m以上という基準を持つ超高層建築物は、マンションの階数にしてだいたい20階以上。東京の都心部ではその倍となる40階以上の超高層マンションも少なくない。その超高層を下から見上げると、「上のほうは静かなんだろう」と思えてしまう。鳥のさえずりくらいしか聞こえないのでは、と。が、実際には鳥のさえずりなど聞こえない。それに代わって、いろいろな音が聞こえてくる。都心の場合、車の騒音がうるさく、強い風の音、そして、サイレンとヘリコプターの音も大きい。

 私自身、はじめて都心超高層マンションの上層階に上ってバルコニーに出たとき、頭に浮かんだのは「何か事件が起きた?」だった。頭上でヘリコプターの音が聞こえ、下から救急車やパトカーのサイレンの音が上がってくるので、地上で事件か事故が起きたのかと思ったのだ。

 しかし、目を凝らしても、事件や事故の現場はみつからなかった。広い範囲で発生する救急車、パトカーなどのサイレンが集まって聞こえ、頭上のヘリコプター音が混じるので、事件・事故がイメージされただけだった。

 なぜ、そのようなことが起きるのかというと、「マンションの上層階ほど、騒音が反響し合って上がってくる」という現象があるからだ。

以前から知られていた、「上層階ほどうるさい」

 「高速道路脇のマンションは、上層階ほど車の騒音がうるさい」

 これは、昭和の時代から不動産業界で言われていたこと。今よりも車のエンジン音がうるさかった昭和時代、高速道路の騒音は切実な問題だった。そこで、下層階、上層階で音の聞こえ方を調べると、意外や上層階ほど騒音が大きいことがわかった。この実体験を基に、「上層階ほど、騒音はひどい」と言われたわけだ。

 原因は、音が建物に反響し合って上がるから、とされた。そのため、高速道路脇のマンションは上層階でも遮音対策に力を入れた。窓に遮音性能の高いサッシを付け、換気口にも遮音装置を付けた。

 同様のことが、超高層マンションでも起きる。都心部の超高層マンション上層階には、広い範囲の都市騒音が上がってくる。だから、1キロメートル先を走る救急車のサイレンと3キロメートル先を走るパトカーのサイレンが同様に届いてしまう。

 一方で、上空を飛ぶヘリコプターの音は、地上で聞くよりも大きくなる。結果、超高層マンション上層階は、想像されるよりもはるかにうるさくなってしまう。といっても、「うるさい」と感じるのは窓を開けたり、バルコニーに出たとき。遮音対策が万全にされるため、窓を閉めて、室内にいる分には極めて静かな住み心地が実現する。

 そして、超高層マンション上層階で、窓を開けるケースは極めて少ない。いつも強い風にさらされるので、窓を開ける気にならない。窓を薄く開ければ、風切り音が激しい。風が強いので、洗濯物を外に干すこともない。バルコニーで鉢植えも育てない(鉢植えが飛ばされて危険である)。

 基本的に窓は閉めっぱなしで、バルコニーにも出ないため、サイレンの音もヘリコプターの音も気にならない。そこに、飛行機の音が加わっても、生活に変化はないだろう……そう考えられているわけだ。

都心飛行ルートは、昼間の3時間程度

 都心部を通過する新飛行ルートが運用されるのは、南風のときで15時から19時のうちの約3時間。北風のときで7時から11時半の間と15時から19時のうちの約3時間に限定される計画。昼間を中心にした3時間程度になるので、よけいに心配はなさそうである。

 残る不安は、墜落と落下物……が、墜落と落下物が生じたら、どんな場所でも大問題である。そんなことは一切起きないことを祈りたい。

 ちなみに、都心部を通過する新飛行ルートは、国際線のみとされる。これは、羽田空港を離着陸する国際線が増えることを意味し、海外旅行に出かける機会が多い、裕福な超高層マンション上層階居住者にとってはうれしい出来事。だから、頭の上を飛行機が飛んでも文句を言わない、と話す超高層マンション居住者もいた。

 が、それは、あくまでも“個人の見解”というものだろう。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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