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井上尚弥の相手に米国ファンが待望するタンク・デービスが1階級下の王者と年末防衛戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
無敗を誇るタンク・デービス(写真:ロイター/アフロ)

12月ワシントンDC

 今、アメリカのボクシング界はタレント不足が深刻だという。独自に調べてみると、テレビ中継の頻度でボクシングを大きく上回る総合格闘技UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)に人材が流れていることが判明した。また近年、キッズ時代の大会が隆盛している日本と比べてアメリカではボクシングの危険性を憂慮した親たちが子供にジム通いを控えさせる傾向があるという。麓で起こっていることが頂上をゆすぶっているのかもしれない。

 その中で確実にチケット売り上げや視聴者が別料金を払って観戦するPPV(ペイパービュー)購買件数で利益を上げるボクサーはWBA世界ライト級王者“タンク”ことジェルボンテ・デイビス(米)ぐらいだといわれる。スーパーフェザー級、ライト級、スーパーライト級まで制したデービスの次戦は12月21日、ワシントンDC(連邦直轄地)のキャピタル・ワン・アリーナで開催されることが有力な状況となった。以前ESPNドットコムなどで活躍し現在フリーのダン・ラファエル記者が第一報を伝え、複数のメディアが続報した。

ロマチェンコとの統一戦は見送りに

 デービス(30勝28KO無敗)は6月にラスベガスで行った防衛戦でフランク・マーティン(米)に8回KO勝ち。前評判が高かったマーティンを沈めた痛烈なフィニッシュは彼の強さをファンの目に焼き付けるものだった。そして5月に敵地でジョージ・カンボソス(豪州)を倒して3年7ヵ月ぶりに王者にカムバックした現役レジェンド、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ=IBF世界ライト級王者)との統一戦が話題に上った。

 しかしこのドリームマッチは、しばらくお預けとなりそうだ。ロマチェンコが年末まで休養宣言したためだ。デービスにはWBC世界ライト級王者シャクール・スティーブンソン(米)とのもう一つのビッグマッチが待望されているが、スティーブンソンは10月12日サウジアラビアで予定された前IBF世界スーパーフェザー級王者ジョー・コルディナ(英)との防衛戦を右拳の負傷を理由にキャンセル。復帰してもデービスとすぐに対戦する見込みは薄い。

マーティン(右)を追い込むデービス(写真:PBC)
マーティン(右)を追い込むデービス(写真:PBC)

ソフトタッチな相手選び

 次戦でデービス陣営が選択した相手はラモント・ローチ(米)。1階級下、スーパーフェザー級のWBA世界王者である。試合地ワシントンDC出身の29歳。アマチュアエリートとしてプロデビューし、当初はゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)傘下でキャリアを進め、ランキングを上昇。ところが2019年、当時のWBO王者ジャメル・へリング(米)に挑戦して判定負けで初黒星。その後、思うようにリングに上がれない時期を過ごした後、昨年11月、エクトール・ルイス・ガルシア(ドミニカ共和国)を攻略してWBA王座を奪取。今年6月、地元リングで初防衛に成功した。

 これまで戦績は25勝10KO1敗1分。スピード、スキル、ボクシングセンスに優れるが、猛獣のような迫力と狡猾さを持つデービスを前にしては線の細さがぬぐえない。ソフトタッチな相手と表現したら彼に失礼だろうか。王座を獲得した相手ガルシアをデービスは9回ストップ勝ちで下している。

GBP傘下でキャリアを進めたローチ(右)。19年のオケンド戦(写真:BoxingScene.com)
GBP傘下でキャリアを進めたローチ(右)。19年のオケンド戦(写真:BoxingScene.com)

タンクvs.モンスター

 前回のマーティンはまだスリル感が楽しめたが、ライト級王者のデービスに対してスーパーフェザー級のローチはハンディが隠せない。試合が締結に向かっている要因、平たく言うとこのカードの売り物は“地域因縁対決”だ。デービス(29歳)の地元メリーランド州ボルティモアとワシントンDCは目と鼻の先。2人はアマチュア時代の2011年に対戦歴があり、デービスが判定勝ちしている。だが、かと言って両者に因縁じみたエピソードはなく、アメリカのファンが将来、待望して止まないモンスター、スーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)との日米対決のような背景は望めない。

 デービスvs.井上はまだ架空ファイトの域を出ていないが、井上がフェザー級タイトルを手にしたあたりで対決ムードが再燃しそうだ。今後デービスがロマチェンコと雌雄を決する運びになれば、ウエートはライト級になり、“タンク”がまだスーパーライト級以上へ上がらないことを意味する。もしかしてデービスがスーパーフェザー級まで下げることが可能なら実現の可能性が拡がる。そういった展望から、今回のローチ戦は調整試合の主旨が強いと見られる。正式発表はもうすぐ行われるだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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