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フリーランスを「見捨てる」国 新ガイドライン案の何が問題なのか?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
フリーランス宅配業者のイメージ画像。(写真:アフロ)

 コロナ禍において、フリーランスをめぐる法制度やセーフティネットの不備が明るみに出たことは記憶に新しい。

 通常、フリーランスには労働関係法令が適用されないため、例えば、契約先の都合で一方的に仕事をキャンセルされたとしても、法律に基づいて休業手当のような補償を求めることはできないし、仕事を失っても失業手当を受けることができない。

 コロナ禍では持続化給付金のような特別な補償が国からなされたが、平常時にはセーフティネットが存在しないという状況に現在でも変わりはない。「雇用類似の働き方」が広がるなかで、公正な取引や生活収入を保障する法制度の整備が重大な政策課題になっている。

 実は、現在、フリーランスに対する法的保護の確立に向けた動きは重大な局面を迎えている。昨年12月24日に、政府は「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)(以下「ガイドライン案」という。)を示しており、意見公募を経て、今月中に新たなガイドラインが策定されることになっている。

 しかし、現在示されているガイドライン案には重大な欠陥があり、当事者団体や専門家からも多くの批判が出ている。何が問題になっているのだろうか。

たった1回のツイートを理由に契約解除…?

 3月5日、フリーランスの労働組合3団体が、衆議院議員会館において、「現場から考えるフリーランスの労働問題」と題するシンポジウムを開催した。会場には報道関係者が詰めかけ、多くの国会議員も参加した。

 発言した当事者が共通して言及したのが、「一方的な契約終了」の問題だ。これは、労働契約でいうところの「解雇」に当たるが、フリーランスの場合、労働法の保護を受けられないため、解雇権濫用法理が適用されず、簡単に契約解除が行われてしまう実情がある。

 便利屋マッチングサイト「くらしのマーケット」に登録し、引越しサービスを提供していた宮南洋さんは「フリーランスが安心して働くためには、契約終了場面における一定のルールが必要だ」と訴える。

 「くらしのマーケット」には、エアコンの掃除、引越し、ハウスクリーニング、不用品回収など、様々な作業を引き受けてくれる人(出店者)が登録している。サイトには出店者の顔写真やサービス料金が掲載されており、利用者(予約者)は自らサイト上で出店者を選び、サービスを予約することができる。

 サービス提供後、出店者は、予約者から受け取ったサービス料金の2割を予約手数料としてサイトの運営会社に支払うという仕組みになっている。

 宮南さんは、2020年5月にツイッター上に以下の投稿をしたことをきっかけに、サイトの利用を停止されてしまった。

「当方は、くらしのマーケットさんに毎月、10万円~20万円の「みかじめ料」を払っています。いい面もありますが、事実上の下請け業者になっている側面もあり、この点は強く問題視しています。仲介屋さんに依存せず、自力でお仕事を取っている同業者のみなさんを尊敬しています」

 この投稿を問題視した運営会社から連絡があり、宮南さんはすぐにツイートを削除したが、投稿から5日後に、運営会社は「出店の継続について審議をするべく掲載停止」にするとのメールを送信し、宮南さんの個別ページの掲載を停止したという。

 その後、宮南さんが電話やメールをしても、運営会社から無視され、一切の連絡を拒否されているという。10ヶ月近くが経っても「審議」の結果が知らされることはなく、個別ページの掲載は停止されたままだ。当然、サイトを介して仕事の依頼を受けることはできなくなるから、事実上の契約解除に当たるといえるだろう。

 宮南さんは、運営会社の担当者から「どんどん売上伸ばしていきましょう」と言われ、多くの引越し業務をこなすために新車のトラックを購入したばかりであり、貸し倉庫も借りていた。多くのコストを支払っていたのにもかかわらず、猶予期間もなく、突然仕事をできなくなり、収入を得られなくなってしまったのだ。

 仮に利用規約に違反する不適切なツイッターの投稿があったとしても、宮南さんの言うとおり、その具体的内容を説明することなく、一方的に連絡を絶ったということであれば、運営会社の対応には問題があると言わざるを得ない。こうした対応は、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に当たる可能性もある。

 宮南さんは、今年1月、運営会社に対し、地位確認を求める訴訟を提起している。

いとも簡単になされるアカウント停止や仕事外し

 配達員が結成した労働組合ウーバーイーツユニオンの執行委員長を務める土屋さんも次のように述べる。

「飲食店側からのクレームを理由にアカウントを一方的に停止されるということが珍しくない。配達員をやっている限り、飲食店側の誤解やカスタマーハラスメントによってアカウントを停止されるということが誰にでも起こりうる」

 土屋さんは、以前、配達中に転倒し、怪我をしてしまったことがある。単独事故で他者に損害を与えることはなかったが、このことを報告したところ、運営会社から「このような事態を再度起こした場合にはあなたのアカウントが永久停止となる可能性があります」という旨のメールが届いたという。

 ウーバーイーツユニオンが昨年に実施した「事故調査プロジェクト報告書」によれば、分析した31件の事故のうち、事故後に配達員のアカウントが停止されたものが16%、「アカウント停止の警告」を受けたとするものが9.7%あったとされる。

 アカウント停止の理由や停止される期間についての明確な説明もないため、「アカウント停止を受けた配達員は、事故の怪我や事後対応に加えて、理由も期限も不明なアカウント停止による稼働停止状態に置かれることになる」のだという。

 業務委託契約に基づいてヨガスタジオで働くインストラクターが組織するヨギーインストラクターユニオンの塙委員長も、一方的な契約の終了について次のように問題提起した。

「昨年6月、組合活動を積極的に行っていた私と3名のユニオン役員は、全てのクラス担当を外された。連絡があったのは、わずか5日前だった。実質上の契約終了であり、このことによって収入が急に途絶えた。クラスがあることを前提に先々の予定を空けていたため、、他の仕事を入れることもできない。そのようなときに何ら補償を受けられない点について法整備が必要だと感じている」

 同ユニオンは、今回のシンポジウム開催に当たり、スポーツジムで働くフィットネス・インストラクターやモデルとの意見交換を行ったところ、他の職種においても、同様の契約打ち切りの問題が起きていることが確認できたという。

参考:「ヨガスタジオで「提訴」へ コロナ禍で問われる「名ばかりフリーランス」」

ガイドライン案は「一方的な契約終了」に言及せず

 このように、フリーランスが働く現場には、一方的で不合理な契約終了や仕事外しが蔓延っており、働き手の生活や権利を脅かしている。

 それにもかかわらず、冒頭に紹介したガイドライン案には、一方的な契約終了に関する規制が盛り込まれていない。

 フリーランスの労働問題に取り組む川上資人弁護士は次のようにガイドライン案を批判する。

「ガイドライン案の前半部分は労働者性の認められない本当の意味でのフリーランスに対してどのような保護をするかについての考え方が示されている。基本的には独占禁止法の優越的地位の濫用のみで全て解決するというものであり、全く中身がない」

「後半部分には、フリーランスと呼ばれていても、実態において労働者であるならば、労働法を適用して保護するということが書かれている。ウーバーイーツの配達員のような新しい働き方を伝統的な労働者概念では補足できていないという問題があるにもかかわらず、従来の伝統的な労働者概念を羅列しているだけだ」

「優越的地位の濫用について定めた独占禁止法2条9項5号は、一方的な契約終了についての明示的規定を欠いている。そのため、交渉力格差を背景とした一方的な契約終了には何の規制もないという誤った理解に基づく違法な解除・解約が行われている。ガイドラインには、フリーランスにとって最も過酷な措置に当たる契約解除について、優越的地位の濫用に当たり得ること、やむを得ない事由を要することなどを明記すべきだ」

 ウーバーイーツユニオンの土屋委員長も「アカウント停止はいつでも起こり得る身近な恐怖。今回のガイドライン案で全く触れられていないのはおかしい」と話す。

「一方的な契約終了」に対する規制の確立

 以上のように、一方的な契約終了や仕事外しは、フリーランスが働き、生活する上で非常に大きなリスクとなっている。

 フリーランスとして働く人々が少しでも安心して働くことができる環境を整備することを目的とするガイドラインがこの問題に歯止めをかけないのだとすれば、一体何のためのガイドラインなのだろうか。

 いつでも一方的に契約を終了できる状況が看過されてしまえれば、働き手が理不尽な目に遭っても、契約解除を恐れ、声を上げることすらできなくなってしまう。契約解除をちらつかされれば、不利な条件でも飲まざるを得ない。このような力関係のなかで、果たして公正な取引が実現するのだろうか。

 当事者の声に耳を傾け、ガイドライン案を見直し、一方的な契約終了に対する規制を確立することが求められる。

【参考】

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)〔2020年12月24日公表〕

川上資人弁護士インタビュー

「プラットフォームワーカーに対する法的保護のゆくえ

―コロナ危機のもとで進む政策議論の問題点は?」『POSSE』vol.46

ヨギーインストラクターユニオン 金子まゆ美さんインタビュー

「コロナ禍で「名ばかりフリーランス」問題に新展開

―yoggyインストラクターユニオンの取組み」『POSSE』vol.46

「ウーバーイーツユニオンが提起した社会的課題とは?  プラットフォーム型労働の法的問題を考える」

【シンポジウム共催団体】

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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