日本とは無関係ではなかった今年のスーパーボウル!チアリーダーからハーフタイム・ショー出演ダンサーまで
『アメリカが一年で最も盛り上がる日』とも呼ばれているスーパーボウル開催日。テレビの視聴率が40%を超えるスーパーボウルは、アメフトやスポーツファンでなくてもチャンネルを合わせる『アメリカ版紅白歌合戦』のような国民的大イベントだ。
昨日、2月13日(日本時間14日)に行われた第56回スーパーボウルは、例年通りにアメリカでは大きな盛り上がりをみせたが、日本ではNHK-BSでの生放送がなくなったこともあり、それほど話題にはならなかった。
一見すると、日本とは無縁なスーパーボウルだが、実は今年のスーパーボウルでは、日本人チアリーダーが試合を盛り上げ、日本人ダンサーがハーフタイム・ショーに出演。日本人ではないが、日本人の血を受け継いだシンガーが試合前に美声を響かせ、出場チームのオーナーも日本で育った日系アメリカ人だった。
米国愛国歌を独唱した日系シンガー
キックオフ前に米国愛国歌『アメリカ・ザ・ビューティフル』を歌ったのがグラミー賞の候補に6度も挙がった実績を持つジェネイ・アイコ。
ユニバーサル・ミュージック・ジャパンの公式サイトでは、「アフリカ系アメリカ人の父と、日本人の母の間に生まれる」と書かれているが、本人によると「母方はスペイン系、ドミニカ系、日系で、父方はアフリカ系アメリカ人、ネイティブ・アメリカン、ドイツ系ユダヤ人」だという。
多くの国の文化と血統を受け継いだアイコだが、日本のアイデンティは大切なものみたいで、アイコ(愛子)と日本の名前を名乗って歌手活動をしているだけでなく、娘にもナミコ(波子)と日本的な名前を与えている。
ロサンゼルスで生まれ育ったアイコは、地元で開催されたスーパーボウルで見事に大役を務め上げ、会場に集まった7万人のファンと、テレビを通して試合を観戦した1億人以上の視聴者に素晴らしい歌声を届けた。
「必要とするすべての人たちの心の中心に癒しと調和をもたらし、永遠の愛を受け取るために」歌ったと言うアイコ。
父親はシンシナティ出身、母親と自身はロサンゼルス出身のアイコにとって、シンシナティ・ベンガルズとロサンゼルス・ラムズが戦ったスーパーボウルは特別な意味を持つ試合だった。
日本育ちのベンガルズのオーナー
惜しくもスーパーボウルでの勝利は逃したが、ベンガルズのエディソン・ミヤワキ氏はハワイ生まれの日系アメリカ人。
生まれはハワイだが、幼少時に日本へ移り、17歳まで日本で暮らしている。大学でアメリカに戻った後は医学の道に進み、ハワイで複数の医療施設を運営している。
カンザスシティ・チーフスの名物オーナーで、『スーパーボウル』の名付け親としても知られるラマー・ハントの紹介でスポーツビジネスにも手を出したミヤワキ氏は、秋山翔吾が所属するMLBのシンシナティ・レッズとNFLのベンガルズのオーナーグループの一員として名前を連ねる。
ハワイのテレビ局である『KITV』の報道によると「NFLで唯一のアジア系オーナー」であるミヤワキ氏は、スポーツが持つ強い力を信じており、多くの若いアスリートに奨学金を与えながら支援を続けている。
ベンガルズのチアリーダーにも2人の日本人が
ミヤワキ氏が住むハワイで、大学時代を過ごしたのがベンガルズでチアリーダーを務める猿田彩。
中学生のときに「NFLチアリーダーになる」と将来の夢を決めた猿田は、その目標に到達するためのプランを練り、一歩一歩夢に近づいてきた。
NFLチアリーダーに必要な英語力を身につけるために、高校時代、そして桜美林大学時代の2回に渡ってアメリカへ留学。留学先のハワイ大学ではチアリーダー部のメンバーとしても活動して、机上の英語勉強だけではなく、チアリーダーに必要とされる英語を身体を動かしながら学んでいった。
日本に帰国後はアメフトを学ぶために、Xリーグのハリケーンズでチアリーダとして活動。2020年にベンガルズ・チアリーダーのオーディションを受けて、最終審査まで進んだが、新型コロナウイルスの影響で最終審査は1年延期。宙ぶらりんな状態に心を折られることもなく、1年越しとなった昨夏のオーディションで見事に合格を勝ち取った。
昨年まで弱小チームだったベンガルズがシンデレラ・チームとしてスーパーボウルまで勝ち進んだのは、猿田が勝利の女神的な存在だったからかもしれない。
24歳のルーキー、猿田と母と娘ほど年齢の離れた山口紗貴子は42歳のベテラン・メンバー。
30代半ばからNFLへの挑戦を始めるが、合格を掴んだのは挑戦して5年目、39歳のときだった。
挑戦するのに年齢は関係ないことを身を以て証明した山口だったが、入ったベンガルズはリーグ屈指の弱小チームで、憧れだったスタンドは空席が目立っていた。
NFL3年目の昨シーズンはコロナの影響で、無観客の中で試合が行われただけではなく、チアリーダーがフィールドに立つことも禁止された。
苦労の末に掴んだNFLチアリーダーの座は、挑戦前に描いていたような明るくキラキラするだけの世界ではなく、NFLチアリーダーになってからも困難は続いた。
それでも努力する姿勢を続けてきた山口は、夢のような1年を過ごすことができた。
弱小だったチームは強くなり、ガラガラだった観客席は満員で、多くのファンがベンガルズに熱い声援を送る。そんな中で掴んだスーパーボウル出場というご褒美を受け取った山口は涙を流して喜んだという。
玉川大学の後輩である西村樹里(元デンバー・ブロンコス・チアリーダー)に続く、スーパーボウル制覇は叶わなかったが、若きベンガルズは来季以降も優勝を狙えるポテンシャルを備えている。
ヒップホップ界の大御所が勢揃いしたハーフタイム・ショーにも日本人が
ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、エミネム、ケンドリック・ラマー、メアリー・J.ブライジとヒップホップ界の大御所が素晴らしいコラボレーション・パフォーマンスを披露した今年のスーパーボウル・ハーフタイム・ショー。
グラミー賞アーティストのアンダーソン・パークが「ドラマーが必要ならば教えて」とボランティアでの参加を直訴するほど質の高いパフォーマンスだった。
シークレット・ゲストとして50セントが登場したが、その50セントの真横で踊っていたのがCahogoldこと北折香保里。
愛知県出身で、現在はロサンゼルスを拠点とするCahogoldはジャネット・ジャクソンやアッシャーも認める実力派ダンサー。
ヒップホップ・カルチャーの歴史的なショーに、日本人ダンサーが出演するだけでも異例のことなのに、50セントの隣で日本人ダンサーの実力を全世界にアピールしてみせた。
アメリカ4大スポーツリーグで唯一、これまでに日本人選手が誕生していないNFL。
そのNFL最大の祭典であり、アメリカの国民的お祭りであるスーパーボウルで、こんなにも多くの日本人と日系人が活躍していた。
アメリカ人の中にも、試合よりもハーフタイム・ショーやテレビ中継中に流れるテレビ・コマーシャルが楽しみで番組を見る層も少なくないが、色んな楽しみ方ができるのがスーパーボウルの魅力の1つ。
現在のアメリカの姿がダイレクトに感じられるスーパーボウルを、来年こそ観てみてはいかがだろうか?