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非難轟々の「自動車走行距離税」。それでも「ぜひやるべきだ」と、僕が考える理由。

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
走行距離税導入案は、自動車関連諸税見直しの大チャンスです。(提供:イメージマート)

 政府の税制調査会が自動車走行距離税の導入を提案したことが公表されて以来、自動車ユーザーはもとより、業界団体やユーザー団体などから、一斉に反発の声が挙がりました。しかし、むしろ僕は、これは自動車関連諸税の不平等をなくすためにも、ぜひ導入するべきだと考えています。その理由をお話ししましょう。

 まず大前提として、現在の税金に走行距離税を上乗せするのではなく、すべての自動車関連諸税を見直すのが条件だということを頭に入れておいてください。

 走行距離税に反対する意見の中で多数を占めるのが「自動車が生活必需品で走行距離が長くなりがちの地方在住者の負担が増える」というものです。しかしこの状況は、現在すでに、燃料課税という形で不平等が起きています。

 たとえばガソリンには、消費税を除いても、1リッターあたり53.8円の税金が課せられています。ここで、東京23区在住者の年間平均走行距離が3,000km、燃費の平均が10km/lであると仮定しましょう(根拠はありません)。すると年間の支払い税額は、16,140円になります。一方、年間平均走行距離が15,000kmの”A県”があるとします。郊外なので燃費も良くなるでしょうから、15km/lで走れるとしても、年間のガソリン税負担額は53,800円となり、23区に比べて37,660円の負担増になっています。

走行距離を根拠とする課税なら、今より平等な税負担が実現できる!

 そこで、燃料に対する課税を一切やめ、走行距離税に切り替えます。

「それでも距離を走るほど税負担が増えるじゃないか!」との批判もあるかと思いますが、ちょっと待ってください。地域別の平均走行距離を根拠として、”係数”を設定すれば良いのです。

 ”係数”は、東京23区の年間平均走行距離を分子に、各都道府県のそれを分母にして算出します。東京23区は分子と分母が同じですから、係数は1です。上記A県は3,000/15,000ですから、係数は0.2です。これを走行1kmあたり税額に乗じれば、東京23区もA県も、年間の税負担額はまったく同じになるのです。

 具体的に計算してみましょう。たとえば、基準税額を1kmあたり5円とすると、東京23区は走行距離にそのまま乗じて15,000円になります。一方でA県は、15,000km×5円×0.2ですから、やはり15,000円になります。実際の走行距離はユーザーごとに異なりますから、各ユーザーの走行距離に応じた計算をするにしても、平等性は担保されます。

 もちろん、上記の数値をそのまま使用したのでは税収は減るでしょう。しかしそれは、1km走行あたりの基準税額や係数の算出根拠を調整することで、どうにでもなります。そこは優秀な官僚のみなさんに計算していただき、最低でも現状より税負担が増えないように、もっと言えば、暫定税率を除いた税収額になる程度にしていただければ良いと考えます。

自動車関連諸税の抜本的改革は、近い将来、必ず必要になる。

 電気自動車(EV)は家庭で充電されてしまうと、燃料税に相当するものを徴収するのは困難になりますから、いずれ必ず、燃料課税に代わる徴税方法は必要になります。走行距離税がEV普及の足枷になるならば、期間限定で減税措置をすれば良いだけです(ハイブリッド車がそうでしたね)。

 自動車税にしても、EVやFCV(燃料電池車)には排気量はありませんから、現状の500ccごとに課税額が変わる制度はいずれ破綻します。これについては、最高出力に応じた課税にすべきだと、僕は30年ほど前にある雑誌に書いています。

 走行に伴う道路の損傷を課税の根拠とするならば、車両重量を係数化して、ここに乗じることも考えられます。業務車両の負担を減らすならば、緑や黒など業務用ナンバーや、事業主として確定申告している所有者のクルマに適切な係数を設定すれば良いでしょう。このように、走行距離と諸係数を組み合わせれば、居住地域や使用形態に応じた柔軟かつ適切な課税システムが作れる可能性があるのです。

 ただ反対するだけでなく、これを「自動車関連諸税を抜本的に見直す好機」ととらえ、民間からもさまざまなアイデアを提案していくほうが建設的ではないかと僕は考えます。むしろ民間から合理的な案を出し、政府が理不尽な制度設計をしないよう監視していくことこそ、重要ではないでしょうか。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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