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極寒のアメリカで不気味な揺れ その正体「氷震」とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
アメリカ本土の最北に位置するメイン州の資料画像(写真:イメージマート)

3日(金)、アメリカ北東部ニューハンプシャー州最高峰で、体感気温-78度の全米記録が作られました。北極由来の寒気と、ハリケーン並みの強風によるものです。

同じ頃、お隣メイン州では、なにやら不気味な揺れが起きていました。大きな音と共に地面が揺れたと、住民が口々に証言したのです。

一体、この奇妙な地震は何だったのでしょうか。

(↑地元の気象局のツイート。氷震の報告が相次いでいるとのこと。)

氷震のふしぎ

その正体は「氷震」、海外では「フロスト・クエイク」とか「クライオシーズム」などと呼ばれる現象です。北米などでは時々発生し、地震と間違われることがあります。アメリカでは1818年から報告されています。

メカニズムはこうです。

急激に気温が下がる→地中の水が凍る→膨張して地中に亀裂が入る→轟音を発し、地面が揺れる。

氷震はプレートの移動で起きるわけでも、マグマの涌出で起こるわけでもなく、地中の水が氷になって膨張した結果起こるのです。水は氷になると、体積が約10%増えます。

氷震の簡単なメカニズムの図。筆者作成。
氷震の簡単なメカニズムの図。筆者作成。

氷震が起きやすい条件は、地中深くに水分がたっぷりとあり、気温が急激に下がったときです。カナダ、そしてアメリカ北部の5州で、夜中から明け方にかけて発生することが多いそうです。地震と違うので、揺れのスケールは小さく、局地的、しかし数夜連続して起こることがあります。

興味深いことにAccuWeatherによれば、積雪がだいたい15センチを超えると、氷震は起こりにくくなるようです。というのも、雪が断熱材のような働きをして、冷たい空気が地中深くに影響しなくなるからなのだそうです。

爆発する木

世にも不気味な振動のほかに、メイン州では木にも異変が相次いだようです。低温によって樹液が凍って膨張し、木が裂けたり、ひび割れたりしたというのです。

このように、そのメカニズムは氷震のそれとよく似ているようです。時には銃声のような大音量をあげながら木が爆発し、粉々になることもあるといいます。

その昔、木の爆発音を聞いた、あるアメリカ人牧師はこう記しています。

「夜、氷点下40度になったとき、私は目を覚まし、木々が爆発する音を聞いた。それは、まるで真の自然の温度計のようだ」

(↓木が割れる音、メイン州)

水が凍ったことで大地が揺れ、木が裂けたアメリカ北東部ですが、10年ほど前には日本でもこんなことがありました。低温によってコンクリート製の像の中の水分が凍り、突然割れたのです。

凄まじい寒さは、数々の怪事件を引き起こします。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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