初期宇宙にだけ存在する未知の天体「LRD」の正体が解明!?宇宙論の大問題を解消へと近付ける新発見
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「初期宇宙の天体の深い謎が解明か?」というテーマで動画をお送りします。
これまでジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope, JWST)の観測により、標準的な宇宙論では説明できない銀河が初期の宇宙で数多く発見され、大問題になっていました。
そのような天体の代表例として、「LRD(Little Red Dots、小さな赤い点)」があります。
しかし最新の研究により、LRDを含む初期宇宙の数多くの天体が標準宇宙論で説明できないほど巨大で明るい原因が解明されたかもしれません。
●標準宇宙論に反する初期天体とLRD
○JWSTが観測した初期宇宙の謎
宇宙の進化の仕方や性質を的確に表現できる現代の標準宇宙モデルに「Λ-CDMモデル」があります。
このモデルは宇宙がビッグバンから始まったという仮説を基に、ダークマターやダークエネルギーの影響を受けて宇宙が現在まで進化してきたということが表現されています。
このモデルの正しさを支持する様々な観測事実や理論的な証拠があり、現時点では「標準的な宇宙モデル」の地位を確立しています。
JWSTが実際に観測する以前から、このモデルによって超遠方・超初期の宇宙に存在する天体の姿が予想されていました。
しかし実際の観測の結果、標準的な宇宙モデルでは全く予想できないほど、非常に初期の宇宙から予想外の大質量と明るさで輝く天体が数多く存在していたことが判明しました。
この結果は宇宙がビッグバンから始まったことを否定するものでは決してありませんが、宇宙やそこに存在する天体の進化の仕方の理解に修正が必要である可能性が浮上しました。
○LRDとは?
JWSTが初期宇宙で発見した、標準宇宙論にそぐわない天体の代表例に、「LRD(Little Red Dots、小さな赤い点)」があります。
ビッグバンから数億年~20億年程度の、初期宇宙にしか見られない天体で、非常に数が多く、JWSTの観測で得られた画像データのほとんどに写り込んでいます。
その独特の赤さは、赤方偏移によるものでもありますが、もとから長波長の光を大量に放出していたことを示しています。
これが本質的に赤い銀河によるものなのか、それとも光を赤くする大量の塵によるものなのかは、よくわかっていません。
典型的なLRDの半径は500光年以下で、中には150光年未満のものもあります。これは、現代の宇宙にある天の川銀河の100分の1以下のサイズです。
それほど小柄であり、地球からは点にしか見えないにもかかわらず、地球から明確に観測できるほど明るいという特徴があります。
この明るさから、この点は極めて多くの恒星を含む、高密度の銀河であると考えられていました。
●宇宙論の大問題を解明!?
JWSTを用いて初期宇宙における銀河形成と進化を解明することを目的としたCEERS(Cosmic Evolution Early Release Science)プロジェクトにより、先述のLRDを含む初期宇宙の天体の謎が解明された可能性があると発表され、話題になっています。
論文は科学誌「アストロフィジカルジャーナル」で2024年8月に公表されています。
LRDを含む初期の銀河は非常に明るく、その輝きからこれらの天体は極めて大質量の銀河であると解釈され、その質量が標準宇宙論の予測を超えていたため、科学者たちを驚愕させていました。
そんな中最新の論文では、新しいデータと解析手法を用いて、初期の天体の本質に関する再解釈が行われました。
その結果、これらの天体の強い輝きが必ずしもその天体自体の質量、つまり膨大な数の星々によるものではなく、「中心に存在する超大質量ブラックホールの活動やその周囲の降着円盤からの強力な放射」によって引き起こされている可能性が高いことが示唆されました。
極めて多くの物質が降着する活動的なブラックホールだと、その周囲に存在する銀河全体の輝きを遥かに凌駕するほどのとてつもないエネルギーを放って輝くことがあります。
JWSTが捉えた初期宇宙の極めて明るい天体の輝きがブラックホールによる影響が大きいなら、その異常な明るさから実際の銀河の質量を過大評価していた可能性があります。
そしてブラックホールの影響を加味して再度分析を行うと、実際の初期宇宙の銀河の質量は標準宇宙論の予測に概ね一致していることが示され、この標準モデルを大きく修正する必要はないという結論に至ったのです。
実際、LRDの光の波長ごとの強度分布(スペクトル)を分析した結果、そこにブラックホールの降着円盤が存在することを示唆する特有の信号も得られています。
このような観測的な事実も、最新の論文で語られるように初期宇宙の極めて明るい天体の質量は、ブラックホールの異次元の輝きによって過大評価されている可能性を支持するものであると言えます。
○ブラックホールの成長の謎
この新たな解釈が正しければ、ブラックホールは初期宇宙において、私たちが考えていたよりも遥かに速いペースで成長していた可能性があります。
あらゆる銀河の中心に巨大なブラックホールが存在する可能性がありますが、このブラックホールと銀河がどちらが先に成長したのか、あるいはどちらも共に成長したのかについて、謎があります。
そして現代の宇宙では、銀河の総質量に対する中心ブラックホールの質量は、概ね0.1%程度であるという特徴があります。
しかしJWSTが観測した初期の銀河の輝きがブラックホールによるものであるという新たな解釈が正しければ、初期の宇宙においてブラックホールは銀河よりも速く成長していた可能性があります。
そしてその銀河に対して、ブラックホールの質量は数%~10%を超えるほど大きい物であった可能性もあります。
仮に最新の説が正しくても、初期宇宙にはこのようなブラックホールの成長の謎や、まだまだ説明がつかない未知の天体が数多く存在するため、JWSTによる積極的な観測が行われるでしょう。