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なぜプレミアはハーランドを“確保”できたのか?カゼミロ、イサク…移籍市場の総括と主力流出リーガの課題

森田泰史スポーツライター
シティに移籍したハーランド(写真:ロイター/アフロ)

2022年夏の移籍市場が、閉幕した。

口火を切ったのは、アーリング・ハーランドの移籍だった。マンチェスター・シティが、契約解除金6000万ユーロ(約84億円)を支払い、ボルシア・ドルトムントでプレーしていたストライカーを確保。それが、すべての始まりだった。

リヴァプールに移籍したD・ヌニェス
リヴァプールに移籍したD・ヌニェス写真:ロイター/アフロ

シティと競ったわけではないかもしれない。だが、続くようにリヴァプールが大型ストライカーの獲得に動いた。移籍金7500万ユーロ(約105億円)でベンフィカと合意して、ダルウィン・ヌニェスのリヴァプール加入が決定した。

■プレミアの資金力

時を少し遡る。1996年、アラン・シアラーがニューカッスルに移籍した。ブラックバーンに支払われた移籍金は3500万ユーロ。当時、史上最高額の移籍金だった。プレミアリーグ創設から4年で、右肩上がりの傾向が、すでに現れていた。

時代は移り変わり、この夏、プレミアリーグでは22億4500万ユーロ(約3080億円)が補強に投じられた。

チェルシーはフォファナを獲得
チェルシーはフォファナを獲得写真:ロイター/アフロ

欧州の補強費ランキングで、トップ10のうち、実に7クラブがプレミアリーグのクラブだ。チェルシー(2億8200万ユーロ/約394億円)、マンチェスター・ユナイテッド(2億3800万ユーロ/約332億円)、ウェスト・ハム(1億8200万ユーロ/約254億円)、トッテナム(1億7000万ユーロ/238億円)、ノッティンガム・フォレスト(1億6200万ユーロ/約236億円)、マンチェスター・シティ(1億4000万ユーロ/約196億円)、ウルヴァーハンプトン(1億3700万ユーロ/約195億円)である。

ノッティンガム、ウェスト・ハム、ウルヴス、ユナイテッドに関しては、今季チャンピオンズリーグにさえ出場しない。そういったクラブが、欧州王者のレアル・マドリー(補強費8000万ユーロ/約112億円)より選手獲得にお金を使っているという事実に、驚きを禁じ得ない。

■プレミアと大型補強の理由

冒頭に触れたハーランドやD・ヌニェスだけではない。アレクサンダー・イサク(ニューカッスル/移籍金7000万ユーロ)、ヴェスレイ・フォファナ(チェルシー/移籍金8100万ユーロ)、アントニー(ユナイテッド/移籍金1億ユーロ)と次々に高額な移籍金での移籍が成立した。

ニューカッスルに加入したイサク
ニューカッスルに加入したイサク写真:ロイター/アフロ

プレミアが、補強に大金を投じられるのには、理由がある。

何より大きいのは、テレビ放映権だ。プレミアは、2022−2025シーズンの期間の放映権を120億ユーロで売却している。例えば、リーガエスパニョーラの2022−2027シーズンの期間の売却値(49億5000万ユーロ)と比べ、大きな差がある。

プレミアリーグを視聴している人の数は、188カ国で、13億5000万人に上ると言われている。

加えて、プレミアでは、基本的にそれが均等に分配される。2020−21シーズン、最下位のシェフィールド(1億1450万ユーロ)とシティ(1億6900万ユーロ)との差額は開いていなかった。リーガでは、同シーズン、ウエスカ(4680万ユーロ)とバルセロナ(1億6560万ユーロ)と受取額に大きな違いがあった。

一時は選手登録が危ぶまれたレヴァンドフスキ
一時は選手登録が危ぶまれたレヴァンドフスキ写真:なかしまだいすけ/アフロ

また、各リーグのファイナンシャル・フェア・プレーにも相違がある。プレミアのそれは、現状、リーガのものより「緩い」のだ。スペインでは、ラ・リーガがそれぞれのクラブに定めた数字をクリアできなければ、補強に関して4分の1あるいは3分の1という制限がかかる。そして、補強が敢行できたとしても、最終的にラ・リーガの「OK」が出なければ、選手登録は行えない。プレミアでは、そこまで厳格なルールはない。

さらに、プレミアでは、数年前から外国の資本が入ってきている。シティ(アラブ首長国連邦)、ニューカッスル(サウジアラビア)に外資が入っているのは有名な話だ。またリヴァプール、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドにはアメリカの資本が入っている。なおチェルシーに関しては、ロマン・アブラモビッチ氏(ロシア)が長い間オーナーを務めていたが、昨季、政治情勢を理由にトッド・ベーリー氏(アメリカ)への経営の「バトンタッチ」が行われた。

そういう意味で、国内の資本で賄っているのはブレントフォード、ブライトン、トッテナムのみだ。

この夏にチュアメニらを獲得したマドリー
この夏にチュアメニらを獲得したマドリー写真:ロイター/アフロ

一方、リーガでは、レアル・マドリー、バルセロナ、オサスナ、アトレティック・クラブがソシオ(会員)制だ。つまり、これらのクラブを「買う」のは実質的に不可能である。

今季昇格組のアルメリア、ジローナ、バジャドリー、そしてエスパニョール、マジョルカ、バレンシアと外国人オーナーを迎えるクラブは増えてきている。だが、バレンシアなどは「失敗例」として考えられており、そのハードルは決して低くない。

ユナイテッド移籍を決断したカゼミロ
ユナイテッド移籍を決断したカゼミロ写真:ロイター/アフロ

この夏、30歳のカゼミロが移籍金7000万ユーロでユナイテッドに、欧州最高峰の舞台での経験が乏しいイサクが移籍金7000万ユーロでニューカッスルに移籍したのは、ある種、衝撃だった。

だがスペインと欧州のチャンピオンチームと欧州カップ戦出場を獲得しているチームの主力が引き抜かれた事実は、看過できない。

リーガは、いやリーガだけではない、我々は岐路に立たされている。史上最高額で移籍が成立した、と喜んでいられる時代は終わった。「本当のフットボール」を取り戻すための戦いを、始めなければいけない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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