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なぜバルサはヤマルに対する”324億円“のオファーを断るのか?メッシの後釜と将来に向けた投資。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶカンセロとヤマル(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

手塩にかけて育てた才能を、易々と手放すわけにはいかない。

今季、バルセロナで台頭しているのがラミン・ヤマルだ。ここまで、37試合に出場して6得点7アシストを記録。チームの攻撃を牽引している。

エムバペの代役を探しパリSG
エムバペの代役を探しパリSG写真:ロイター/アフロ

そのヤマルに、ビッグクラブが触手を伸ばしている。獲得に動いているのはパリ・サンジェルマンである。

パリSGはキリアン・エムバペの移籍が濃厚になっている。今季終了時に契約が満了を迎えるエムバペだが、契約延長にサインしておらず、ナセル・アル・ケライフィ会長にすでに退団の意思を伝えたといわれている。

■パリ・サンジェルマンとネイマールの移籍

パリSGはエムバペの後釜を探している。そこで、ヤマルに目を付けた。クラブは移籍金2億ユーロ(約324億円)を準備。ジョルジュ・メンデス代理人がバルセロナに赴いて、交渉に臨んだ。

バルセロナでプレーしたネイマール
バルセロナでプレーしたネイマール写真:なかしまだいすけ/アフロ

2億ユーロの移籍金で取引が成立した場合、史上2番目の高額な移籍金が発生することになる。史上トップはネイマールで、奇しくもバルセロナからパリSGへの移籍だった。

パリSGは2017年夏、契約解除金2億2200万ユーロ(約359億円)を用意して、ネイマールの獲得に踏み切った。当時、バルセロナのジョルディ・メストレ副会長が「200%ない」と明言していたが、世紀の移籍は成立した。

スペインの規則上、契約解除金が支払われてしまえば、成す術がない。バイアウト・ルールを巧みに利用される格好で、バルセロナはエース級の選手を放出せざるを得なかった。

■同じ轍を踏まないために

同じ轍は踏まないーー。以降、バルセロナは、選手たちと契約延長を行う際、契約解除金を引き上げていく。

実際、バルセロナは昨年10月にヤマルと契約延長で合意しているが、その時に契約解除金を10億ユーロ(約1620億円)に設定している。2026年夏までの新契約を締結し、慰留に努める姿勢を示した。

ヤマルに関して、バルセロニスタは安心していいだろう。前述の理由で、カソ・ネイマール(ネイマールの件)は繰り返されない。契約解除金を破格の額にアップすることで、抑止力が働くのだ。

■MSN時代と代償

バルセロナが最後にチャンピオンズリーグを制したのは、2014−15シーズンだ。ルイス・エンリケ監督の下、リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの3トップが躍動。ラ・リーガ、コパ、CLの3冠を達成した。

「MSN」と呼ばれた3トップはスペイン国内外で脅威になった。ゆえに、ネイマールの移籍のショックは大きかった。

ネイマールの移籍後、バルセロナはその代役探しに奔走した。奔走の末に、迷走があり、バルセロナのネイマールの後釜確保においては成功したとは言い難い結果になった。ウスマン・デンベレ(移籍金固定額1億500万ユーロ/約163億円)、フィリップ・コウチーニョ(1億2000万ユーロ/約194億円)、アントワーヌ・グリーズマン(1億2000万ユーロ)を次々に獲得したが、上手く行かなかった。

また、その過程で、バルセロナは大事なものを失った。それはカンテラーノ(下部組織出身選手)だ。

■大型補強とカンテラーノ

大物選手獲得に目が眩んで、カンテラーノをおざなりにしていた。2021年8月にトップデビューを果たしたガビが出てくるまで、バルセロナは中々、ワールドクラスのカンテラーノを輩出できなかった。

ただ、今季、将来有望なヤング・タレントが台頭してきている。ヤマルだけではない。パウ・クバルシ、マルク・ギウ、フェルミン・ロペス、エクトル・フォルトらが大きく成長している。

今季のリーガエスパニョーラ1部で“デビュー”を飾った選手で、トップ10のうち、4名がバルセロナの選手だ。その功績はベティス(2名)、ジローナ(1名)、バレンシア(1名)、アルメリア(1名)、アラベス(1名)と他クラブの追随を許さない。

バルセロナで成長するヤマルとクバルシ
バルセロナで成長するヤマルとクバルシ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「不当な言動はできない。(ジョアン・)カンセロ、(イルカイ・)ギュンドアン、イニゴ(・マルティネス)たちも素晴らしいプレーをした。クバルシは違いをつくった。彼は17歳でありながら、ベテランの選手のようにプレーする。対戦相手にフィジカルの強い選手がいながら、デュエルの場面で全く負けていなかった」

「(カンテラーノの成長は)すべてがポジティブだ。そして、彼らをベテランの選手たちが助けてくれる。だが、試合のベストプレーヤーが16歳や17歳の選手だったら、それはニュースになるだろう」

これはシャビ・エルナンデス監督のコメントだ。

選手に指示を送るシャビ監督
選手に指示を送るシャビ監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

バルセロナにとって、ヤマルを残留させる意味は大きい。カンテラーノを大事に育て上げるというメッセージが、クラブ内外に発信されるためだ。

また、現在のバルセロナには、ロベルト・レヴァンドフスキやギュンドアンといった経験豊富な選手がいる。彼らの存在が、若い選手にプラスに働く。

大物選手とカンテラーノの融合。バルセロナの躍進に向けたヒントはやはり、そこにある。メッシがロナウジーニョの影響を受けたように。ヤマルが次世代に繋いでいく。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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