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強く感じる“次”への危惧 日本代表とバスケ協会に不足するものは何か?

大島和人スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

“過去最強”も3連敗で五輪を終える

バスケットボールの男子代表ほど、東京オリンピックで多くの収穫を得たチームはない――。そう書いたら違和感を持つ人が多いだろう。

確かに3試合を一言で総括するなら不完全燃焼だ。渡邊雄太主将の悔しがり方を見ても、ファンの反応を読んでも、「実力を出し切った」という受け止めをしている人は見当たらない。

チームは間違いなく“過去最強”だった。日本は2019年のワールドカップ(W杯)予選ではオーストラリアを倒し、今年7月18日の強化試合では優勝候補のフランスを下している。

スペイン戦の先発は平均身長が2メートルを超え、八村塁や馬場雄大は国際舞台でもアスリート性を強みにできる選手だ。アジアの人口は45億人強だが、2020-21シーズンのNBAでプレーしたアジア育ちの選手は八村、渡邊だけ。そんな希少な人材も擁していた。個別の局面を見れば比江島慎、富樫勇樹、金丸晃輔といった国内組も強みを発揮していた。

しかし結果は3連敗。初戦のスペイン戦は19年のW杯王者に対して77−88と善戦したものの、続くスロベニア戦を81−116と大敗。アルゼンチン戦も77−97の完敗だった。端的にいえば終盤、勝負どころで“やり切る”だけの遂行力が不足していた。

サッカー男子はベスト4、バレーボール男子はベスト8入りを決めている。ハンドボール男子も33年ぶりの勝利を挙げた。女子バスケもベスト8入りを果たしている。男子バスケは3連敗なのだから、この大会に限れば収穫より課題や反省が多い。

東京五輪を追い風にした日本バスケ

招致決定からの8年を振り返れば結論は違う。そもそも東京大会の開催が決まらなければバスケ界の改革と今の隆盛はなかった。

改革は残念ながら自力で進んだものでない。2013年6月に東京大会の招致が決まり、国際バスケットボール連盟(FIBA)はそれを受けて五輪開催国・日本のテコ入れに動いた。その時点で日本は男子の代表チームが低迷し、トップリーグも二つに分立していた。

FIBAは2014年秋から、ガバナンスと強化の両面で日本バスケに介入した。国際資格停止処分という究極の強硬措置も用いた。幸いにして川淵三郎というリーダーの存在もあり、短期間のプロセスで新リーグの大枠が定まった。日本バスケットボール協会の体制もリセットされた。

ただし代表強化は数ヶ月で完了するプロセスではない。2016年6月に東野智弥・技術委員長が就任すると、男子日本代表の長谷川健志ヘッドコーチ(HC)はその11月末に解任された。ルカ・パヴィチェヴィッチが中継ぎとして代表を指揮したのち、2017年8月からはアルゼンチン人のフリオ・ラマスHCがチームを任された。これらの人事は日本協会がFIBAと水面下で連携しながら進めたものだ。

有力選手の帰化や八村塁、渡邊雄太の台頭という後押しもあっったが、日本は2019年のW杯中国大会の出場権を得た。31年ぶりとなる自力出場だった。だがW杯は0勝5敗に終わり、この夏の五輪も0勝3敗にとどまった。

課題は選手層

W杯の出場国は「32」だが、五輪はよりすぐりの12カ国。世界ランク42位の日本に厳しい戦いが待っていることは誰もが想定していた。しかも日本は世界2位スペイン、4位アルゼンチン、16位スロベニアと同組で、ラマスHCが事前に述べていた大会の目標は1勝。「1勝できれば快挙」という感覚もあったが、それは叶わなかった。

当然ながらインサイドの柱だったギャビン・エドワーズの負傷は大きかった。エドワーズは2戦目(スロベニア戦)の第3クォーターに肩を負傷し、そこから一度もコートに戻れなかった。ゴール下の守備力が高く、走力やフットワークがあり、攻撃でも味方を活かせる彼の不在はどう考えても痛かった。

ただし日本は人材の質以上に“量”の問題があった。1試合平均のプレータイムを見ると八村は37.6分、渡邊は35.5分と明らかに過大。さらにアルゼンチン戦はエドワーズの欠場から八村がセンター、渡邊はパワーフォワードにポジションを移す必要も出た。

スロベニアはルカ・ドンチッチへの依存度が明らかに高いチームだが、ここまでのプレータイムは1試合平均で30.3分にとどまっている。八村、渡邊と同レベルは無理でも「10〜15分ならばつなげる」選手の台頭が必須だ。

日本はスロベニア戦、アルゼンチン戦とも終盤に突き放される展開で敗れている。体力不足、戦術理解不足の指摘は容易だが、キープレイヤーが終盤に消耗していたという前提は見過ごせない。

これからの“伸びしろ”は豊富

NBAプレイヤーといっても八村は2年目、渡邊は3年目の若手。彼らは経験面でスペイン、スロベニア、アルゼンチンの主力に劣っていた。高いレベルの経験値が多ければ多いほど、大局観や勝負どころの読みは蓄積される。ドンチッチは22歳だが、レアル・マドリーのトップチームデビューが16歳2ヶ月。十代からNBAでプレーしている中堅選手だ。

シェーファーアヴィ幸樹、渡邉飛勇の両ビッグマンはさらにキャリアが浅い。ただ逆にいえば若さと乏しい経験は“伸びしろ”でもある。26歳の渡邊雄太、25歳の馬場、23歳の八村とシェーファー、22歳の渡邉飛勇は2023年のW杯、2024年のパリ五輪をより充実した状態で迎えられるだろう。

八村、渡邊レベルの育成は容易でないが、実証された手法もある。富樫も含めて複数の成功事例を生んだ逸材の育成方法が海外留学だ。3x3の日本代表・富永啓生は桜丘高を卒業後に渡米し、2021-22シーズンからは強豪ネブラスカ大への転校が決まっている。彼も23年、24年の有力な代表候補だ。

もう一つ渡邉飛勇、U-19代表で活躍した山ノ内勇登のような「海外育ちの日本人」を発掘する方法もある。東野技術委員長が地道にネットワークを広げ、情報収集を行っているプロジェクトだ。

Bリーグを“世界基準”に

もちろん「Bリーグのレベルを上げる」ことが正攻法だ。Bリーグは2019-20シーズンから外国籍選手の同時出場枠が常時2名に拡大され、帰化選手も増えている。加えて2020-21シーズンからはアジア特別枠の新設もあった。

日本で生まれ育った選手、特にビッグマンは受難の時代を迎えている。人件費高騰などの危惧から、この施策へ反対する声も出ているようだ。

一方で竹内兄弟、シェーファーのようにしっかりプレータイムを取っている日本人ビッグマンは実際にいる。そもそも外国出身選手と“渡り合える”レベルでなければ、日本代表の戦力にならない。東野技術委員長が強調する「日常を世界基準にする」という発想は、少なくとも代表強化の観点から見れば大正解だ。

ただし日本代表の今後を楽観できるかというと、答えは「ノー」だ。確かに人材はいるし、いい流れも生まれている。だが八村、渡邊はNBAプレイヤーで、代表の合宿や強化試合へ簡単に呼べる立場にない。特に八村のような主力がコンディション低下、ケガのリスクを負って代表でプレーすることを、チームは喜ばしく思わないはずだ。

選手が参加したい代表に

サッカーとバスケは「連盟/協会とリーグ」の関係が違う。サッカーは代表チームが親善試合、予選から選手を招集できる。国際サッカー連盟(FIFA)や各国の協会がクラブを文字通り“支配”していて、ルールに従わせるだけのガバナンスがある。

国際大会はFIFAや各国協会に大きな収入をもたらすだけでなく、選手の商業的価値も上げる。だから選手は自ら進んで代表に参加する。対してバスケはFIBAよりNBA(リーグ)側が強く、代表の価値もそこまで高くない。

女子代表ならば主力は国内組で、選手も国際経験に飢えている。したがってチームの編成にそこまで大きな苦労はない。しかし男子は「呼びたい選手を呼ぶ」作業が困難で、人脈や信頼関係の構築が問われる。

だからこそ日本代表はまず選手に「参加したい」と思われるチームになる必要がある。代理人のようなステイクホルダーまで巻き込むビジョンを提示し、その上で参加の“実利”を生み出せればベストだ。逆に協会が代表で無理に稼ごうとすると、全体最適はおそらく崩れる。代表がまず選手に“与える”チームにならないと、強化や収益化の手前でブレーキがかかるだろう。

技術委員長に対するサポート体制は?

ラマスHCの次の人選は重要だ。もっとも世界のベスト4、ベスト8を経験した人材をそう簡単に日本へ呼べるわけはない。東京大会が終わればFIBAも日本の強化からは手を引くだろう。問題は現場の力を引き出すためのマネジメントだ。

東野技術委員長はBリーグの大河正明・前チェアマン(※2016年6月の時点では協会の事務総長を兼務)が登用した人物だ。Bリーグ誕生の立役者である川淵三郎氏との関係も近い。一方で伝統的なバスケ界の勢力図からはみ出た人材でもある。

日本協会、Bリーグは端的にいうと「非サッカー化」を進めている。そこで懸念される問題が、東野技術委員長の後ろ盾となる人材の不在だ。そもそも現協会はバスケの強化を理解する幹部がおらず、国内外の関係者と信頼関係を構築している人材も見当たらない。女子、3x3も担当している東野技術委員長が“負いすぎている”状況は不健全だ。

育成組織も含めたBリーグの充実、海外拠点の開設といった取り組みは成果が出るまでに費用と時間がかかる。予算と人の手当、結果の評価、状況に応じた打ち手を継続させる必要もある。日本協会からそういった問題意識、意欲が伝わってこないことはもどかしい。

求められる「地道」「真面目」な取り組み

東京大会を前提に「もっと良くする」ための議論ができればベストだ。しかし現状を見ていると筆者には15年、16年に手がけられた改革の遺産を早々に使い果たすことへの危惧がある。繰り返すがコロナ禍でラマス級の指導者を招聘するのは容易でない。八村、渡邊を23年のW杯や24年のパリ五輪に呼べる保証もない。まず東京大会のレベルを保つことが高い壁だ。

なぜ日本バスケットボール協会は存在するのか?普及やビジネスの目的は何か?最終的には代表チームが強くなって、バスケファン以外にも「夢」「希望」を届けるためだ。

もちろん協会の経営的な拡大は重要だ。しかし強化、広報といった地道な“種まき”なくして収穫もない。協会やBリーグは動画の発信などプロモーションは努力の跡が見えるものの、記録の整理や提供が疎かになっている。足元を固める、未来につなげる地味な作業は改革以前と比較してむしろレベルが落ちている。

日本協会が組織として代表の強化を真面目に考える。競技に興味や理解のある人が意思決定や高レベルの実務に入る――。東京五輪の先を考えるなら、日本バスケはまずそんな基本からスタートする必要がある。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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