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コロナ禍を逞しく生きる、ユニークなバーテンダー集団。未来へ繋がる、新しいバーの在り方とは

笹木理恵フードライター
深夜のバーの灯りは、いまだ街に戻っていない。※画像提供/アズザクロウフライ

新型コロナウイルスが日本で確認されて、1年が過ぎた。年明けには2度目の緊急事態宣言が発令され、飲食業界はいまだ厳しい状況にある一方で、明暗も分かれている。とりわけ夜の営業をメインとするバー業界は、この1年、厳しい戦いを強いられた。2度目の緊急事態宣言下では、飲食店へ一日6万円の給付金が支給されたことから休業する店も少なくないという。そうした中でも、積極的な挑戦を続け、バー文化を未来に繋げる企業がある。

おうちバーの提案に、フードトラック、ハンバーガーのデリバリー…。注目のバー企業が挑んできた、コロナ禍の取り組み

紹介制のバー「OLIM」(東京・渋谷)など、バーに特化し8店舗を展開。※画像提供/アズザクロウフライ
紹介制のバー「OLIM」(東京・渋谷)など、バーに特化し8店舗を展開。※画像提供/アズザクロウフライ

都内にバー8店舗を展開するアズザクロウフライは1995年、東京・吉祥寺にて代表の小林信秀氏が20歳で創業。武蔵野地区から店舗展開をスタートさせ、現在は渋谷、目黒など都内に8店舗を展開している。「いわゆる“夜の街”発言があったりして、飲食の中でもバーは影響を受けるのが早く、弊社の店舗も2020年3月には客足に陰りが出始めました。とくにオフィス街立地の店の打撃が大きく、当時は情報も少なかったので、とにかくできることからやろう!という感じでしたね」と小林氏は当時を振り返る。そんな同社の取り組みを、時系列で以下にまとめた。

2020年2月 都心部の店を中心に、売上げに影響が出始める

3月 東京都の自粛要請に伴い、グループ全店(9店舗)にて業務縮小・営業時間を短縮。感染予防を徹底した上で、営業を継続

4月 7日の緊急事態宣言を受けて、バーとしての営業は休業。8日より、テイクアウト主体のカレー店を昼間に営業(4月中に3店舗で展開)。9日より、恵比寿の店をコワーキングスペースとして開放。期限付酒類小売業免許を取得し、22日より各店にて半額セールや、量り売りを開始。

5月 中野駅前でテイクアウトのレモネード&クラフトコーラ専門店をスタート。代々木上原の店舗では、フードメニューのテイクアウトを開始(この時点で、6店舗が稼働)。30日、立川店の事業撤退を決意(コロナ禍の閉店はこの1店舗のみ)

6月 12日、東京アラートの解除を受け、0時までのバー営業を再開(カレー業態は終了)。

7月 合同会社 恵比寿ウイスキーを設立し、各店の物販事業を統合。渋谷店が営業再開し、8店舗すべてが稼働。

9月 2カ月かけて準備していたフードトラック事業をスタート

11月 申請から4カ月後、ようやく一般酒類小売&通販免許を取得。恵比寿ウイスキーで本格的な酒類販売をスタート

12月 時短要請で再び客数減。中野の店舗をハンバーガー&バーに業態変更

2021年1月 緊急事態宣言発出に伴い、時短営業。目黒の店舗でもハンバーガーを導入。テイクアウトと、デリバリーでの販売を開始。

社内を3分割し、多方面から利益を上げる仕組みを作る

15種類のシングルモルト(各30ml)をセットにした「ウイスキーフライト15本パック 小林信秀セレクション」(9000円)※画像提供/アズザクロウフライ
15種類のシングルモルト(各30ml)をセットにした「ウイスキーフライト15本パック 小林信秀セレクション」(9000円)※画像提供/アズザクロウフライ

コロナ禍の初期では、まずランチ営業、テイクアウトなど各店でやれることに取り組みつつ、期限付きの酒販免許を取得して在庫セールを行い、キャッシュを確保。ホームメイドジントニックキット、オンラインセミナー付きのウイスキーフライトセットなど、バーテンダーの専門性を活かした商品を次々と企画し、お客の反応も好調だったことから、継続的な事業とすべく、自社への卸も兼ねて酒販会社を設立することに。また、バーが使える助成金や酒販の注意点など、同業者向けの情報をSNSなどで発信し続けた。

一方、渋谷の店舗では、「おうちバー」をコンセプトにした新事業をスタート。その一つが、好みのレアウイスキーをミニボトルで販売するというものだが、これにはバーの営業再開後に利用できる1000円分のクーポン券をつけて販売した。「ホームバーを作って、自宅でお酒を楽しんでもらえたら、という提案です。いずれはサブスク的な売り方も考えていますが、大事なのは、リアル店舗と結びつけること。たまに思い出して、飲みに来てもらえるのが理想です」。今後はインテリアショップと組んだおうちバーのリフォームなど、異業種とのコラボも進めていく予定だという。

「カンドクラブバー」(東京・代々木上原)で展開しているフードトラック「カニワゴン」。カニの焼きそばやライスボウルなどを販売。 ※画像提供/アズザクロウフライ
「カンドクラブバー」(東京・代々木上原)で展開しているフードトラック「カニワゴン」。カニの焼きそばやライスボウルなどを販売。 ※画像提供/アズザクロウフライ

様々な取り組みの中では、もちろん思うような成果が上がらないものもあったという。「カレーやソフトドリンクなど、競合が多いものは難しかったですね。フードトラック事業も、やってみて1台だけでは利益を出しにくいことがわかったけど、将来的に需要が見込める屋外型飲食店へのチャレンジとも位置付けています。それに、出店する場所や時間帯で売り上げが大きく変わるので、つねにマーケティングをしているような感じで、とても勉強になりました」。

現在は、社内の事業を①従来通り、バー単独で営業できる店舗(主にローカルエリアの店舗)、②バーの業態拡張と、販売チャンネルの多様化をさせた一般飲食店事業(フードトラック、テイクアウト需要のあるハンバーガー業態など)、③バーの専門性を活かしつつ、小売りや通信販売を併設する都内発信型店舗、に3分割し、人財を再分配して複合的に利益を上げていく仕組みづくりを強化している。「世の中の経済の流れがスピードダウンしている中でフレキシブルな対応をとるのは難しいですが、つねに“次に繋がるか”を考えて、半年後、1年後を見据えて動いています」。

なおバー業界は現在、給付金が出ていることから休業している店舗も多いという。「一番怖いのは、長期間休業が続いたことで客離れが加速していることです。ライフスタイルもどんどん変化している中、従来通りのバーを再開させてどれだけ元通りになるのか、心配しています」。

バー離れについては以前から不安視されてきたことだが、そこにさらに追い打ちをかけているのが、終電の繰り上げだ。バーでは営業時間の再考を迫られ、売上げのダメージもあるという。「長期的に若年層が減ってマーケットがシュリンクし続けている中、コロナ前の消費税増税、コロナ禍の受動喫煙防止条例、そして終電繰り上げと、コロナという嵐の中で、足元では地盤沈下が着々と進んだわけです」。

コロナショックで加速する、バーテンダーの働き方の変化

中野で立ち上げた「バーガーネーブル」。持ち運びしやすい商品特性を生かし、デリバリーにも対応する。※画像提供/アズザクロウフライ
中野で立ち上げた「バーガーネーブル」。持ち運びしやすい商品特性を生かし、デリバリーにも対応する。※画像提供/アズザクロウフライ

とはいえ、バーテンダーが突然、カレーやハンバーガーを作ったり、フードトラックで売ることに、障壁はなかったのだろうか。小林氏は、「それはありましたよ。ただ、バーテンダーは人とコミュニケーションをとる仕事なので、日頃から情報もダイレクトに入ってきますし、時間的な制約も一般的な飲食店よりは少ないので、多様化に適していると考えています」と話す。

「これまでも弊社の店舗は、店長のバーテンダーの得意分野に応じて業態変更を繰り返してきました。例えば中野の店は、鉄板小皿とワイン、テキーラバー、クラフトジン、と変化し、現在はジントニックとハンバーガーの店です。バーテンダーとの契約形態も様々なので、たとえばフリーランスの子は本業を邪魔しない形でできる仕事に就いてもらう、といった調整も可能です」。

そもそも同社は、「100人のバーオーナーを輩出する」ことを企業理念に掲げ、バー文化の継承や、バー業界の人材育成に意欲的に取り組んできた。一例として、1日6時間30分労働、週休2日制で、残った時間で自分の好きなことができる契約形態などを取り入れ、働き方のカスタマイズを推進している。「バー業界の規模が縮小している中で、今後独立する人の年収は、昔と同じことをやっても半分くらいになってしまうだろう、という危惧がありました。一般的なバーは、21~24時の間で、売上げの7~8割を稼ぎます。であれば、時短勤務にしてもう一つ収入源をもつ、というのも、これからのバーテンダーの一つの働き方だと考えています」。

バーテンダーの新しいキャリア形成を図る一方で、小林氏はコロナ禍におけるバー業態の強みも改めて実感しているという。「ファンのいる10年選手のバーテンダーのお店は、びくともしません。とくに、都下で愛されているお店は強い。私は『スナック型』と呼んでいるのですが、バーは昔ながらのコミュニケーションをとれる場として生き残っていける業態だと思っています。いつかもとに戻るフェーズが来た時に、お客さんが最初に行くのは旧知の店ですよね。だからこそ僕らは、時勢や場所に応じた適正化をしつつ、バーを続けていくことに意味があると思っています」。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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