なぜイーロン・マスク氏は大手メディアを敵視するのか
5月12日(米国時間)、イーロン・マスク氏がTwitterの新しいCEOとして元NBCユニバーサル幹部のリンダ・ヤッカリーノ氏を迎えたことが話題になっています。
両氏は4月に開かれたイベントに登壇し、対談しています。その中ではTwitterと大手メディアの「競合」について、興味深いやりとりがありました。
Twitterと大手メディアは「競合」?
2022年12月、マスク氏はTwitter上で「トップの座から降りるべきかどうか」投票を募ったところ、「Yes」が過半数となりました。
テスラやSpaceXのCEOと兼任するのは無理があるとの声も多く、新しいCEOを探した結果、米メディア大手のNBCユニバーサルで「グローバル広告とパートナーシップ」部門の会長を務めていたリンダ・ヤッカリーノ氏に決まったようです。
両氏は4月にマイアミで開かれたデジタルマーケティングのイベント「POSSIBLE Miami」に登壇しており、ヤッカリーノ氏がマスク氏にインタビューする形式で対談しています。
ここでマスク氏が語っている内容は、Twitterを買収したときに広告主に向けて発したメッセージから基本的には変わっていないようです。
しかし、最近敵視を強めている伝統的な大手メディアについて、マスク氏は「広告を奪い合う競合である」との見方を示しています。
SNS企業の売上の大半は広告収入ですが、この点でメディアと競合しているというのがマスク氏の主張です。また、メディアはTwitterを批判的に取り上げることで、Twitterから広告を奪える立場にあるとも指摘しています。
Twitter Blueの認証バッジを巡っても一悶着ありました。米ニューヨーク・タイムズは、これまで広告やサブスク収入を増やすのにTwitterを活用してきたとみられる一方、Twitter Blueの支払いについては拒否する姿勢を示しました。
これに怒ったマスク氏は、4月上旬に青い認証バッジを外しています(現在は認証済みの組織であることを示す金色のバッジが表示されています)。
たしかに広告の奪い合いとは、視聴者の時間の奪い合いでもあり、SNSとメディアが「競合」する面はあります。ただ、これまではお互いに手を組んだほうが相乗効果があったともいえるでしょう。
また、メディアの前ではいい顔をしようとする経営者が多いのに対し、マスク氏は英BBCによるインタビューで記者を「論破」したエピソードをここでも披露するなど、権威に挑戦する姿勢も特徴といえます。
(マスク氏が「Twitter上でのヘイトスピーチの例を1つでもいいから挙げて」と言ったところ、BBCの記者が即答できなかったというもの。実際には多くの事例がある中で、どれを挙げるのが適切か迷っていたように見受けられる)
そうしたメディアからの批判は「競合相手の言葉」なので、聞く道理はないという姿勢です。Twitterの広報部門を丸ごと閉鎖したり、メディアからの問い合わせに自動で絵文字を送り返したりしているのも、そうした考えに基づいているように思います。
新CEOの発表にあたって、マスク氏はTwitterを「X」と呼ぶスーパーアプリに進化させる方針を再び示しています。その1つには、信頼できるニュースメディアとしての機能もあるようです。
ヤッカリーノ氏との対談でマスク氏は、市民によるジャーナリズムの必要性に言及。「言論の自由はリーチの自由ではない」とのポリシーで、不適切な投稿を排除はしないが、かといって拡声器を渡すこともしないと説明しています。
ツイートに注釈をつけられる「コミュニティノート」も重要と位置付けています。「そのポリシーは自分のツイートにも適用するか?」と突っ込まれたマスク氏は、その通りだと認めています。
しつこく食い下がる一面も
この対談でもう1つ注目したいのは、ヤッカリーノ氏はマスク氏と付かず離れずの距離を保っているように見えて、意外と突っ込んだ質問をしているという点です。
対談を綺麗にまとめようとするのではなく、必要とあらばしつこく食い下がることで、広告主が見守る中で「言論の自由のためには、広告収入を失うこともある」という発言をマスク氏から引き出しています。
それでもマスク氏はスペースの開催を予告するなど、ヤッカリーノ氏とのタッグに乗り気のようです。長年の広告営業の経験から広告主との太いパイプを活かし、Twitterが失った広告収入を取り戻せるか期待されます。
今後もマスク氏は大株主として影響力を持つとみられる中、Twitterを半ば「私物化」しているとの懸念を持つ広告主が少なくないだけに、ヤッカリーノ氏がTwitterの新たな「顔」になれるか、注目されそうです。