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古谷徹のアムロ・レイ役はどうなる? バンダイナムコに“直撃”

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 写真週刊誌で不倫を報じられた声優・古谷徹さんが、人気アニメ「名探偵コナン」の安室透役、「ワンピース」のサボ役を降板することになり、降板に対する見解、後任の声優予想などで、まだ騒ぎが続いています。その中に古谷さんの“代名詞”でもある「ガンダム」シリーズのアムロ・レイ役について、どうなるのかを気にする人もいるようです。「引退」の文字を見出しに入れる記事も一部ではあるようですが……。

◇バンダイナムコ「慎重に検討して対応したい」

 古谷さんの降板が発表された「名探偵コナン」も「ワンピース」もアニメが放送中の作品。放送済みの作品である「機動戦士ガンダム」とは、厳密には同じとは言えません。ですが、アムロ・レイは、人気ゲームなどに登場する可能性もあり、扱いは気になります。バンダイナムコホールディングスの「統合レポート」(2023年3月期)によると、グループ全体で「ガンダム」関連の売上高は約1313億円で、「ドラゴンボール」とほぼ互角。ビジネスの規模から行くと、影響がないはずはありません。

 そこで同社に「アムロ・レイ役について、現時点で古谷さんの交代(降板)を検討している事実はありますか」と“直撃”しました。

 するとアニメ事業を手掛ける、グループ会社のバンダイナムコフィルムワークスから「弊社では、作品に登場するキャラクターやその世界観を非常に大切に考えております。本件につきましては、慎重に検討して対応したいと考えておりますので、現時点でのコメントは控えさせていただいております」と返答がありました。

 センシティブな案件だけに、分かりやすい答えは返ってこないものの、フリーのライターに対して丁寧に返事をしてくれました。ちなみに、トラブルがらみの問い合わせ(電話、メールなど)は大手企業でも、露骨に拒否されるのは良い方で、無視されたり、場合によってはここで書けないような対応をされることもあります。

 話を元に戻します。バンダイナムコフィルムワークスの答えは、想定内である一方、「慎重に検討して対応したい」という言葉まで使うとは思いませんでした。それだけに同グループでも重く見ているのは確かです。古谷さんは「ガンダムの顔」ともいうべき声優だからでしょう。

 ちなみにアニメ業界の関係者に取材をする限り、「古谷さんが安室透役を降板する」という予想は、複数ありました。一方で「アムロ・レイの降板」については、作品の性質、ファン層の違いなどもあってか、「安室透役よりも続投の可能性がある」という見立てが高いのです。いずれにせよ、どちらの選択をしても、難しい決断であるのは確かではあります。

◇“引退報道”に違和感

 なぜ、古谷さんのアムロ・レイ役について、バンダイナムコに質問したのかといえば、関係者に聞いてもその点を気にする人が多かったからです。しかし、もう一つあります。一部で、古谷さんの“引退”の記事が出て、根拠にかなり違和感があったからです。

【関連】古谷徹70歳、このまま声優引退か 公式X削除で『ガンダム』アムロ役など動向に注目「どうすんだろうな」(オリコン)

【関連】古谷徹 業界内では〝事実上の引退〟の見立ても…不倫報道で「名探偵コナン」など降板連発(東スポ)

 前者の記事はSNSの声を集めたもので、根拠はネットの声の伝聞……「こういう書き込みもある」というもの。後者の記事は関係者のコメントを取って「引退」の根拠にし、さらに「ツメカッコ」を使い「引退ではない」というニュアンスを込めています。

 そして前者の記事は、朝日新聞デジタルにも配信されており、検索の表示が結構なインパクトのあるものになっています。ネットの声をまとめただけで引退を示唆するような「コタツ記事」が、朝日新聞のブランドと合体しているからですね。私も最初は「朝日新聞が何かをつかんだのか」と思ってクリックすると、違ったわけです。大手新聞社のブランディング的に「大丈夫?」と思ってしまうわけですが、そこまで心配するのは“余計なお世話”でしょうか。

検索のスクリーンショット。朝日新聞デジタルが「古谷徹70歳、事実上の声優引退か」と報じてるように見えますが、クリックして出るのは朝日新聞ではなく、外部配信の記事。良く見るとリードは同じです。
検索のスクリーンショット。朝日新聞デジタルが「古谷徹70歳、事実上の声優引退か」と報じてるように見えますが、クリックして出るのは朝日新聞ではなく、外部配信の記事。良く見るとリードは同じです。

 確かに、ネットで古谷さんの引退を示唆する声があるのは事実ですが、SNSは「個人の感想」にすぎません。消費者の声を拾うのも大事ですが、影響力が大きいメディアで扱うならば、より慎重になるべきですし、今回のようなケースでは、やりようがあるはず。そもそもマスコミであれば広報に聞くこともできます。取材をしてから、掲載しない判断をしたのかもしれませんが、取材をした形跡を記事に残すほうが誤解されないのではないでしょうか。「引退」という重い話を、本人や近しいところから取材で突き止めたならば、報じることは理解できますが……。

 いずれにしても「掲載のスピード重視」「手間のかかる取材を避ける」「多少過激でも、アクセスの稼げそうな見出しにする」というのは、ネットメディアのトレンドで、その良くない点が出ています。消費者から「ネットの声を集めて書くだけの仕事」「だからネットメディアには期待しない」と思われてしまうのは、あまりにも残念でなりません。

◇間違いは誰でも犯す

 確かに古谷さんの報道は、本人が認めているのがすべてです。近年はコンプライアンスの順守が問われており、社会的なモラルに反する行為は、世間から批判されるのは仕方のないことでしょう。しかし、人間であれば、誰もが間違いは犯す可能性があるのもまた事実。古谷さんの声を聞いてアニメが好きになった人、勇気をもらった人、あこがれて声優の道に進んだ人もいるでしょう。

 今後の進退については、本人の意思、そして家族や関係者の方との話で決まるべきこと。何より古谷さんは公式に謝罪をしています。現在の古谷さんから、反論や今後の話など、できようはずもありません。「引退」の可能性を報じるなら、もっと根拠が欲しいとは思うのですが……。

 したことがしたことだけに、賛否両論があるとは思いますが、過ちを犯した人であっても、復帰の道が用意される社会であってほしいと願っています。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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