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トランプ氏、“敗北”という言葉なしの“敗北宣言” が本当に意味するもの 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
事実上の“敗北宣言”と捉えられているトランプ氏のスピーチ風景。(提供:Donald J. Trump via Twitter/ロイター/アフロ)

 トランプ氏が“敗北宣言”をしたと多くの米メディアが報じている。

 暴動に走った支持者らを称賛するような問題ツイートをしたことから、トランプ氏のツイッターアカウントは一時停止されたが、約24時間後、再開され、トランプ氏はツイッター動画を投稿、「議会が結果を認定した。1月20日に新政権が発足する。私は円滑で秩序ある切れ目のない政権移行に集中する」と述べた。

 しかし、トランプ氏は、このスピーチの中で、“新政権”と述べるに留まり、“バイデン政権”とまでは言及しなかった。また、“敗北”という言葉にも直接言及しなかった。だからか、米紙ニューヨークタイムズは「トランプ大統領は、これまででは最も敗北宣言に近づいた」としている。

 負けず嫌いのトランプ氏としては、”敗北”という言葉は最後まで使いたくなかったのだろう。

 また、スピーチの冒頭、トランプ氏は「侵入者を追放するためにすぐに州兵を配置した」と述べているが、これについては、トランプ氏は派遣に反対し、実際はペンス副大統領が州兵を配置したという指摘もされている。

前言を翻してきたトランプ氏

 いずれにしても、お抱えのスピーチライターが書いたようなこういった形式的なスピーチに、どの程度トランプ氏自身の本音が反映されているかは疑問だ。したくなくてもせざるをえなかったスピーチのように聞こえるのだ。

 前述のニューヨークタイムズも「大統領はこのようなビデオを録画するものの、その少し後で、自身のした発言を損なうようなことを長い間してきた」と皮肉っている。

 実際、昨年11月も、トランプ氏は、バイデン氏の勝利が認定されたらその時は、平和的な政権移行のために「もちろん、ホワイトハウスを去る」と記者会見で述べたが、その翌日には「バイデン氏は8,000万票が正当に獲得された票だと証明できない限り、ホワイトハウス入りはできない」と前言と矛盾するようなツイートをしていた。

結局、「弾劾しないでスピーチ」か

 しかし、今回ばかりは前言を翻す発言に出ることは難しいかもしれない。

 トランプ氏が扇動したと批判されている今回の議事堂の暴動で5人が亡くなり、多数の人々が負傷した。腹心のペンス副大統領や重鎮の上院議員たちからも暴動に対する批判の声があがり、ナンシー・ペロシ下院議長も弾劾または憲法修正25条の発動を通じたトランプ大統領の罷免を求める声をあげている。政権中枢にいる重要な高官も次々と辞任を表明している。トランプ氏は暴動の責任を追及されて、弾劾罷免されて当然の状況だ。そのためツイッターでは、この“敗北宣言”は“弾劾しないでスピーチ”だという声があがっている。

 高官の辞任や自らの弾劾罷免を食い止めるべくトランプ氏はついに腹をくくったのだろうか、スピーチの終わりでこう述べている。

「わが国の市民たちよ、あなた方の大統領として仕えたことは私の人生で名誉なことだった。そして、すべての素晴らしい支持者たちよ、あなた方ががっかりしていることはわかっている」

 これが、敗北という言葉を言及したくないトランプ氏が口にできるギリギリの表現だったのかもしれない。

 しかし、そう述べた後で、トランプ氏はスピーチの最後にこう締めくくっている。

「しかし、我々の素晴らしい旅は始まったばかりだということも知ってほしい」

 トランプ氏は実はこの最後のセンテンスを最も主張したかったのではないか? 結局、敗北宣言と受け取られているこのスピーチは、次期大統領選出馬を示唆するスピーチだったのではないだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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