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『アンパンマン』の仲間しょくぱんまんには、兄弟がたくさんいるのでは……という噂を知っていますか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

『それいけ! アンパンマン』に登場するしょくぱんまんは、かっこいい。

すらりと背が高く、顔がキリリと引き締まっていて、紳士的。

『アンパンマン大図鑑プラス 公式キャラクターブック』(フレーベル館)でも「あたまが よくて かっこいい アンパンマンの なかま。きょうりょくな しょくパンチが とくいわざ」と誉め言葉ばかりで紹介されている。

まあ、それも当然で、トースター山生まれのこのヒトは、自分で作った食パンをしょくぱんまん号で給食として届けている。

子どもたちからの信頼は絶大で、ばいきんまんがしょくぱんまんに化けて悪事を働いたとき、子どもたちは声をそろえてこう言った。

「しょくぱんまんが、そんなことをするはずはないよ」。

人として生まれたからには、こんな大人になりたいものである。

また、しょくぱんまんはドキンちゃんに熱く愛されている。

彼女は物陰から見つめては「しょくぱんまん様~」と目をハートにし、ばいきんまんがしょくぱんまんを攻撃しようとすると、「おばか~!」と叫んで、包帯だらけにすることもある。

男子として生まれたからには、こんなふうに慕われたいものである。

仕事もうまくいき、みんなに信頼されて、愛してくれる人もいる。

まことにリア充な人生だと思うが、そんなしょくぱんまんにアヤシイ噂があることをご存じだろうか。

それは「彼には、まだ見ぬ兄弟がいっぱいいるのではないか!?」という衝撃の疑惑だ!

◆しょくぱんまんは12人兄弟!?

え? そんな噂、知らない?

まあ、そうでしょうなあ。筆者が考えて、空想科学研究所の内部で広めているだけの噂だから。

しかしこれ、根拠のない話ではありませんぞ。

それどころか、きわめて科学的な視点に基づく推測なのだ。

アンパンやカレーパンは、焼いたり揚げたりすれば完成するが、食パンの場合は、いったん完成したパンを「切り分ける」という二次加工が必要である。

食パンは、お店で売っている1袋分を「1斤」といい、パン屋さんでは1つの型で3斤分を焼くことが多い(これを「1本」と呼ぶ)。

近所のスーパーで食パン1斤を買ってきて測ると、縦13cm、横10cm、厚さ12cmだった。

これが3斤分で1本なら、焼き上がった食パンの長さは36cm。

つまり、食パンを切り分けなかったら、しょくぱんまんは、顔の前後が横幅の3.6倍もあるトンカチみたいな頭の人になってしまうのだ。

しかも、しょくぱんまんの顔はかなり大きい。

身長を180cmと仮定してアニメの画面で測定&計算すると、縦85cm、横57cmもある。

通常の食パン1本と同じく長さが横幅の3.6倍なら、顔の前後の長さは2m5cm!

モノスゴク存在感のあるしょくぱんまんになる。

現状の姿を見る限り、しょくぱんまんも誰かが切り分けたに違いない。

すると、しょくぱんまんには、必然的に「兄弟」が生まれるのではないだろうか。

1斤を4枚に切るとしたら、1本=3斤で12人。

つまり、僕らのしょくぱんまんは、12人兄弟に違いないっ!

しかも彼は、長男でも末っ子でもないだろう。

1本のパンの両端には、茶色く焼けた皮がついているから、長男と末っ子の後頭部は茶色のはずである。

いうまでもなく、われらの知るしょくぱんまんは顔の後ろも真っ白。

ということは、12人兄弟の次男~11男のうちのいずれか……であるはずだ。

◆顔の交換がムズカシイ

ところで、このしょくぱんまん、顔の交換はどうやっているのだろう?

アンパンマンの場合は、顔が汚れたり濡れたりすると、ジャムおじさんが焼いてくれた新しい顔を、バタコさんやチーズが投げてくれる。

なかなかワイルドな方法だが、事態は急を要するのだから仕方がない。

もし、しょくぱんまんも同じ方法で顔を交換するとしたら、うまく行くのだろうか?

立ちはだかるのは、空気抵抗だ。

これは空気が物体の運動を邪魔する現象で、空気の当たる面積が広いほど強くなり、抵抗の大きさは形状や風の当たり方によっても変わってくる。

この点、アンパンマンは理想的である。

彼の顔は(鼻を除けば)きれいな球形だから、どんな向きでも空気の当たる面積は変わらない。

野球やサッカーのボールといっしょで、安定して飛んでいく。

ところが、しょくぱんまんの顔は、厚みのある長方形。

こうした形状の物体は、顔を正面に向けて飛ぶか、地面や空に向けて飛ぶかによって、空気の当たる面積が大きく変わる。

1本の状態で前後2m5cmの食パンを、12枚に切り分けると、厚さは17cmになる。

顔を正面に向けて飛ぶと、空気の当たる面積は85cm(縦)×57cm(横)。

顔を地面に向け、脳天を前にして飛ぶと、空気の当たる面積は17cm×57cm。

ちょうど縦と厚さの比に等しい5倍もの差が出る。

実際には、どうなのか?

食パンを投げるのには抵抗があるので、食パンと同じような形状の四角い発泡スチロールの板を投げてみた。

広い面を正面に向けて投げると、思い切り空気抵抗を受け、複雑な軌道を描いてたちまち落下。

一方、平らにして回転を加えて投げると、フリスビーのようにクルクル回転しながら、遠くまで飛んだ。

しょくぱんまんの顔を交換する場合は、投げる人は顔(食パン)を水平にして、フリスビーの要領で投げることを心がけていただきたい。

あっ。でもその角度のまま顔が入れ替わってしまったら、しょくぱんまんの顔は、いつも上向き、あるいは下向きに!?

急に背も低くなってしまうのでは……!?

うーん。やはり食パンでできた顔は、投げて交換しないほうがいいみたいです。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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