大学3年生の就活解禁~知っておきたい固定残業代のカラクリ
3月1日から大学3年生の就職活動が解禁されます。
そこで、就活生として知っておくべき固定残業代のカラクリについて、少し説明をしておきたいと思います。
正社員になって過酷な労働を強いられ、ふと気がつけば、アルバイトしていた学生の頃の方が時給がいいじゃないか、ということがないように。
固定残業代とは
固定残業代とは残業代の定額払いです。
もちろん、固定残業代以上の時間外労働をした場合に「固定」した金額しか払わないような場合は労基法違反です。
逆に、固定した残業代の金額が想定する時間外労働時間よりも少ない労働時間であっても、固定した金額が支払われる扱いが一般的です 。
固定残業代には大きく分けて2種類あります。
- 基本給に残業代を含めるもの
- 基本給とは別に手当として残業代を払うもの
このうち1番は、明確に分離されている必要があるので、単に
「基本給に残業代が含まれている」としているだけのものは違法
です。
いいですか?
単に、基本給に残業代が含まれている、というだけは、違法です。その場合は、全部基本給として扱われます。
問題は、1番でも一応区分しているものと2番ということになります。
この場合でも、真実としてそれが残業代といえるかは、そう単純ではありません。裁判例では、否定されている例も多くあります。
この点についてはちょっと難しいところなので、嶋崎さんの「固定残業代は、ブラック企業が良く似合う?」がわかりやすいですので、ご覧ください。
具体的には?
固定残業代の悪いところは、見た目の給料額に下駄をはかせる効果があることです。
たとえば、募集要項に
給与 大卒22万円(月30時間を超えた時間外労働には、別途手当あり)
給与 大卒22万円(基本給+OJT手当) (OJT手当とは、時間外勤務30時間相当額として定額で支給する手当。30時間に満たない場合であっても支給する)
給与 大卒 月給22万円(「営業手当」を含む) *毎月60時間相当分の時間外労働手当を「営業手当」として支給します。
などと記載されている場合はどうでしょう?
(これらの例は、ブラック企業対策プロジェクト「企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―」(嶋崎量、上西充子、今野晴貴)より。この冊子は同プロジェクトのホームページ]から無料でダウンロードできます。)
なんとなく22万円を1カ月の給与としてもらえるので悪くないかと思ってしまいませんか?
しかし、こういう記載は、専門家から見れば、一目で問題のある内容であることが分かります。
まず、1つめの例は、基本給と固定残業代が明確に区分されていませんね。
その次の例は、OJT手当の金額が明らかになればまだましですが、単に22万円の説明が括弧内の「基本給+OJT手当」のみであれば、やはり区分はされていません。
これらは、30時間分の残業代が含まれての給与であるのに、22万円という点が強調され、本来の基本給額がすぐにはわからない偽装をしているわけです。
固定残業代のカラクリを暴こう
最後の例は、60時間の残業代を含んだものとなっておりますが、一見するとそれなりの労働条件のように見えませんか?
では、そのカラクリを解いてみましょう。
前提として、1カ月の労働時間を173.8時間であることにします。
この1カ月に173.8時間というのは、計算するときに覚えておくと便利です。
これは、労基法で定められた1週間40時間まで、という原則を踏まえた数字です。
週40時間÷週7日×年365日÷12ヶ月という計算式で出てきます。
さて、先ほどの最後の例、
給与 大卒 月給22万円(「営業手当」を含む) *毎月60時間相当分の時間外労働手当を「営業手当」として支給します。
この時間あたりの賃金額(=時間単価)を計算してみましょう。
すると、次のとおりとなります。
求める時間単価をAとすると、
【式】
(173.8時間×A)+{(60時間×1.25)×A}=22万円
A=約884円
はい。時給884円です。
ここで東京都の最低賃金を見てましょう。
かわいらしい(?)熊のような動物が示しているとおり、平成26年10月1日から東京都の最低賃金は1時間あたり888円ですから、この企業がもし東京都で営業している企業であれば、最低賃金法違反でアウト!ということになります。
こうした例をぱっと見ても、本来は最低賃金を割ってるなんて、すぐには気づかないですよね?
固定残業代は、このように低賃金労働を蔓延させる温床にもなっているのです。
他にも固定残業代は、
残業代不払いの正当化に使われる
長時間労働・サービス残業の温床
などの弊害があります。
言葉のイメージに、定額コミコミで何時間でも働かせられるような誤ったものがあるため、労働者も勘違いしている例も多いのです。
もし就職活動先の企業が固定残業代を導入しているようであれば、注意深く見た方がいいと思います。
まともにやったらメリットがないはずなのに蔓延しているのはなぜか?
固定残業代をまともに運用すると、企業にメリットはありません。
企業のメリットとして、残業代計算のめんどくささからの解放がよく言われますが、固定残業代で設定している以上の労働があった場合は、それに見合った残業代を払わなければなりませんので、結局、計算からは解放されないのです。
固定残業代を、「5万円」のように金額で設定している場合はもちろん、「30時間分」のように時間で設定している場合でも、それを超えるか、超えないかの時間管理は必要となり、超えた場合は残業代計算が必要なのです。
したがって、まともに固定残業代を運用すると、使用者にとってのメリットはほとんどありません。
ところが、現在、固定残業代が企業の大小を問わず、かなり浸透している実態があります。
実は、このことは、固定残業代が正しく運用されていないことを表わしている現象だと思います。
これは先に挙げた労働者にとっての弊害を、使用者がそのままメリットとして享受している結果の表れなのです。
おかしいと思ったら相談を
就職してからでも、就職活動中でも、「なんかおかしいな」と思った場合は、是非、専門家に相談してみましょう。
たとえば弁護士では下記に相談窓口があります。
分かりにくい残業代の基本給コミコミは禁止すべき
先ほどの例に挙げたような基本給に残業代をコミコミにするというやり方がそもそも問題です。
このようなやり方は端的に禁止するのがブラック企業対策になるものと思います。
就活生はもちろん、現在働いている人も、このようなやり方をされている方は、是非、一度、ご自身の「時給」を算出されることをおすすめします。