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独往・山崎隆之八段、自在の指し回しで難敵・永瀬拓矢九段に勝利 藤井聡太棋聖への挑戦権獲得まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成、写真撮影:筆者)

 4月16日。東京・将棋会館においてヒューリック杯第95期棋聖戦・決勝トーナメント準決勝▲山崎隆之八段(43歳)-△永瀬拓矢九段(31歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時18分に終局。結果は111手で山崎八段の勝ちとなりました。

 山崎八段はこれで挑戦者決定戦に進出を決めました。

 もう1局の準決勝、佐藤天彦九段(36歳)-佐々木大地七段(28歳)戦は4月17日におこなわれます。

わが道をいく山崎八段、会心の勝利

 山崎八段先手で戦型は相掛かりに。この戦型もAI研究によって、かなり深くまで定跡化が進みました。

 しかし将棋界屈指の独創的な棋風である山崎八段は、わが道をいきます。自陣は金を左右に開き、自玉は初期位置の「居玉」のまま。そして相手の角や歩が利いているところへと歩を進めていきます。

 対して、自然に応じていく永瀬九段。それでわるそうにも見えません。

 山崎八段は「右玉」にスイッチ。対して永瀬九段は右玉の弱点である右端1筋を攻めます。

 その動きに乗って、山崎八段は持ち前の中盤力を発揮。盤上中央、および左側でポイントを重ね、次第にペースをつかんでいきました。

 93手目。山崎八段は取れる金を単純に取らず、王手でと金をすべりこませます。これがスピード感あふれる、冴えた決め手。「終盤は駒の損得より速度」の格言通り、駒損ながら、あっという間に永瀬玉を受けなしに追い込みました。

 受けがなくなった永瀬九段は山崎玉に迫って、形を作ります。

 111手目、山崎八段が銀を打って王手をしたところで、永瀬九段は投了。以下はきれいに、永瀬玉は詰んでいます。

 山崎八段は難敵をくだして、挑戦者決定戦に進みました。

 4期連続で棋聖戦挑決に進んでいた永瀬九段。今期はここで敗退となりました。

 両者の通算対戦成績は、山崎4勝、永瀬9勝となりました。

藤井棋聖-山崎八段の五番勝負は実現するか?

 山崎八段はNHK杯、日本シリーズ、叡王戦(タイトル戦昇格前)など、数々の棋戦で優勝を重ねてきました。

(2005年4月、山崎隆之六段)
(2005年4月、山崎隆之六段)

 しかしタイトル戦では2009年に王座に挑戦(羽生善治王座に3連敗)したのみで、タイトル獲得の経験はありません。

 2022年には竜王戦の挑戦者決定三番勝負まで進みながら、敗れています。

 今期、藤井棋聖(八冠)と山崎八段のタイトル戦は実現するでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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